雨音(適当)


「雨の中わざわざご苦労なことで」
招かれざる訪問者は、やる気が無さそうに肩をすくめた。
「僕だって嫌でしたよ!…でも敵さんはこっちの都合なんてお構いなしですからね。先輩なら何とかできるんじゃないかと思って…」
心底うんざりしたように肩を落とす後輩には悪いが、優しくしてやる気にはなれない。
「ま、休暇中だし、そっちでなんとかしてよね?」
コレくらいの嫌味を言う権利はあるはずだ。
何せこの所任務続きでろくに休みも取れていない。
つまりは恋人との時間も削られ続けていたってことだ。
昨日になってやっと、やっと愛しい人と過ごすことができたというのに、今から任務へ発てといわれても、素直に聞けるものか。
久々の逢瀬だったおかげでついつい攻め立てすぎて、恋人はいまだ夢の中にいる。
そんな人を置いていくなんて。
「…先輩…おねがいしますよ…!」
情けない声で縋る後輩には、涙を呑んでもらえばいいだろう。
正直言って俺じゃなきゃダメだっていう任務はそれほど多くない。
大抵は、ただ早くてより確実な手段を取りたがってるだけだ。
今回もそうだという確証はなかったが、後輩の態度からしてその可能性は高い。
そう思って鎌をかけたら案の定。
後輩が一瞬だが諦めをちらつかせたのを見逃さなかった。
任務の中身を聞けば逃げられない。
それに今は眠りの中にいる人が目覚める前に片をつけないと、きっと任務へ行けというだろう。
おいていって欲しくなんてないくせに。
素直じゃない所も、好きだからいいんだけど、後で泣くってわかってるのに早々簡単にうなづけない。
「今チャクラ切れ掛かってるし、回状も回ってるんじゃない?毒貰ったって。負傷者リストに載ってるでしょ?」
恋人ができる前はそんなこと気にもしなかった。
怪我なんてほっとけば治るし、それより任務にでたかったから。
でも今はダメだ。
付き合い始めてすぐ、怪我をして帰還したことがあった。
家に入るなり抱きしめられてひん剥かれたときは別の意味で期待したのに、怪我の状態を確かめるなり泣きそうな顔をしながら手当てしてくれたおかげで、とてつもない罪悪感に苛まれる羽目になったのだ。
この状態でも帰ってくる自信はあるけどね。
…絶対にあんな顔させたくない。
「どーしてもだめですか?」
後輩もなんだかんだ言ってお人よしだ。もう半分以上諦めてる。
こういう状態のときに任務に出るといつだって、痛ましげな顔でこっち見てたっけ。
今回はこっちの状態なんて知らないできたのかもしれない。引き下がるタイミングを計っているのがよく分かる。
「どーしてもだめ。…ま、一番は…イルカせんせ置いていけないしね」
「…わかりました。他を当たります。先輩が激務なのは承知していますから」
どこかホッとした顔で、後輩は去っていった。
どうやら今回は逃げ切れたらしい。
「さてと。イルカせんせが起きる前にご飯でもつくっとかないとね?」
すやすやと眠る恋人は、きっとそれはもう喜んでくれるだろう。
傷の手当ついでにもう一回持ち込めたらいいんだけど。
そんな呟きは雨音にかき消されて、愛しい人の耳には届かなかった。

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適当。
( ゚Д゚)ネムヒー
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