逃げられない

かみさま、運命はどうしてこんなに残酷なんですか?
「逃げられないよ」
つかまれた腕は痛みにきしんでいるというのに、痛みを口にすることも出来ない。
立ち上る殺気が俺を追い詰め、指一本動かせないからだ。
ただ、冷や汗だけが滝のように背を伝っていくのが分かった。
まさに、今の俺は蛇ににらまれた蛙。
「ほら。おいで。…もう、無駄だっていい加減分かったでしょうに?」
その白い指が器用すぎるほど器用なのも、俺に触れるときにいつも一瞬躊躇うのも、そのくせ触れればすぐに何かを振り切ったかのように恐ろしいほど的確に自分の快楽を煽るのも知っている。
だが、今日は。今日だけは…!
「た、たすけて…っ!」
情けないといわれてもいい。どうあってもこの腕に捕まりたくなかった。
この人の気配を恐れ、逃げて逃げて…忍のだというのに肺がひゅーひゅーと音を立てるほど走りつづけ、逃げ切ったと思ったのに。
…捕まってしまった。決して俺のことを離さないであろうこの腕に。
涙で視界がにじむ。
だって、いやだ。絶対にいやだ。
いやいやと頭を振ると、俺の頬から涙が零れ落ちて、俺を捕らえる腕を濡らした。
そうして、耳元には大きなため息が。
ああ、もう、逃げられないのか…!?
「そんな顔してそんな声だしちゃってもう!…覚悟しなさいよ?」
そういって、急に殺気とは別の気配をにじませ始めたカカシさんに一瞬にして連れさられて。
…気がついたら俺の家のベッドの上でアンアン言わされていた。
*****
ひとしきり「好き」だの「俺も」だの「もっと」だの言いながら、行為に溺れ、それからやっとお互い正気に返ったわけなんだけど。
「だから、どうしてそんなに嫌がるのよ?」
呆れている。…そりゃそうだよな…でも!俺にだって言い分はある!
「だって…だって…!」
どうしたって、あんなコトは好きになれない。
なんで…どうしてこんな風に追いかけられてまであんなことしなきゃいけないんだ!
好きな人から逃げるなんて、本当はしたくなかったのに。
「予防注射なんて、一瞬でしょ?クナイで切りつけられる方がずっと痛いのに。…大体アンタ背中に大穴開けたときにだって平気でラーメン食ってたくせに、なんで?」
呆れられてもソコは譲れない。
「そういうのとは別です!だって…あんなほっそいのが、俺の…血管とか…!怖いじゃないですか!」
そうだ。昔っから俺は注射と言うものが好きになれなかった。
なんであんなもの作ったんだと、注射を発明した人をうらんだりもした。
アレは痛い。それもちくっていうか…すっごく痛いわけじゃないけど、地味にじわっとくる痛さで、凄く気持ち悪い。
それなのに、今年はタチの悪い流行病が広がってて、木の葉にももうすぐだろうなんて情報もあって…。
だから、希望者にはワクチンの接種が行われるコトになってしまった。
俺は勿論気合でなんとかするつもりだったから、すっかり無視していたら、折り良くというか悪くと言うか…任務から帰ってきてしまったカカシさんに、「もう済ませた?」なんていわれて、誤魔化しきれなくて…強制的に連れて行かれそうになったのだ。
俺が逃げ出すのもしょうがないはずだ!だってあんなことされるの絶対にいやだし!
絶対に受けないぞという意思を瞳に練りこんで、カカシさんの様子を伺う。
なんかうっかりそういう雰囲気に乗っちゃったけど、カカシさんはきっとまだあきらめていないから。あんなことをされる危険が去っていないと思うと、ちょっと前とは別の意味で心臓がばくばくいい始めてうるさいくらいだ。
…それなのに、何故かカカシさんはニヤッと何か企んでるみたいな顔で笑った。
「そういえば、イルカ先生は細いの嫌いだもんねぇ?入れるときいつもおっきいって…目ぇうるうるさせながらしがみ付いてくるし?」
「わー!?そ、ソレとこれとは…!」
何でそんな話になるんだ!
確かにおおきすぎて苦しくて、きもちいいけど!今はそんなんじゃなくて、俺の大ッ嫌いな注射の話だったはずだ!
「ま、申し開きはあとでいいや。…足りないから、続き。」
恥ずかしいやら照れるやらで慌てふためく俺を、カカシさんはすかさず再び押し倒してきた。…まるでご馳走を前にした獣みたいにしたなめずりしながら。
そんな訳で…結局、俺とカカシさんとの追いかけっこは、二人して散々励んだ結果、ぐったりした俺を病院に強制的に連れ込んだカカシさんに軍配が上がった。

あんな酷いことさせるなんてと睨んだら、結局またベッドにあともどりすることになっちゃたりして、散々だ。
同僚に愚痴ったら、ノロケはいい加減にしろなんて言われたし。
…これも全部流行り病のせいだ!
ぶーぶー文句を言いながら今日も手洗いを励む俺の隣には、いつもの様にのんびりしてるようでいて、結構なケダモノなカカシさんがにこにこしている。
ソレを見ていると何だか負けたようでやっぱり癪だ。
でも…ぶすくれる俺の頬つつきながら、カカシさんがくっ付いてきて、俺もくっ付き返したりしながら、ふわふわと幸せな気分になったから。
カカシさんが側にいてくれないなんて考えられないし、とりあえずしょうがなかったのかなぁと思うコトにしたのだった。
でも、今でも注射は大嫌いなんだけどな!


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適当小話をさらに〜!
忍び寄るたちの悪いアイツに恐れおののきつつ増やしてみる。
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