「あなたの欲しがるものを、俺は何一つもっていないんです」 そのもって回った言い方と裏腹に笑う男を殴りつけたら、少しはこのやけつくような苛立ちもましになるだろうか。どうしても欲しい。 理屈なんてどうでもいい。 結論が変わることはないのだから。 「そうかもね?」 だってあんたは全部丸ごと俺のものだから。 そう嘯いただけで眼に見えて狼狽したってことは、少しは見込みアリってことかねぇ? 必死に抗うくせに、欲しがっているのは別のものだ。 愛なんて陳腐な言葉で表現してあげないけど。 第一この人が欲しがっているのはそんなものじゃない。 自分が消えてもなくならないものがこの人は好きだ。 だから子どもを必死で愛し、守る。 そのくせ自分は簡単に手放してしまおうとする。 時には己の身すら挺して守るくせに、もう巣立ったんだと諦めてしまう。 でも執着が薄いんじゃない。 …本当はきっと誰よりも、気が狂うほどに何かに依存する人だ。 里への強い帰属意識は、多分ある程度この人の刷り込まれた常識ってものからも着ているけど、誰かに向ける献身的な愛情ってやつは別物だ。 献身的なんじゃない。相手が全てになるだけだ。 それを俺は身をもって知っている。 俺にとってもこの人は全てだから。 「手を、離してください」 「だーめ。行くよ」 抗っても無駄だって気付いてるくせに。 …自分が本当に欲しいものが俺だって、分かってるくせに。 身のうちに取り込んだ人を、この人は誰よりも大事にして守ろうとする。 愛情を貰った連中は小うるさい虫のようにこの人にたかりたがる。 子どもはいい。大抵は純粋に尊敬ってやつでかえしてくれるから。 大人は…だからきっとこんなふうになったんだよねぇ? 奪うばかりで返さないもの。 本当は、自分を絶対に手放さないものが欲しかったくせに。 誰よりもいびつで愛しい人。 「い、やだ…!」 「そんなに、こわい?」 自分がおかしくなるほど相手に依存しちゃうのを知ってるんだよね? きっと下手な犬より従順に、でも決して盲目にはならずにその全てをささげてしまう。 里長がそうだった。でも、もういない。 だから、執着なんて大歓迎な俺がもらっちゃてもいいはずだ。 ずっと欲しくて欲しくて指をくわえてみてただけだったけど、今なら。 …どっちにしろ放っておけないんだし。 「はなして、ください」 「それは無理。…ね、わかってるんでしょ?」 人の気持ちに鈍いようで聡い人だから。 俺の気持ちもわかってるくせに。…だからこそ依存する自分を恐れて逃げようとしてるくせに。 「…だまれ…!」 「ん。いいよ。だまりましょ?」 口をふさぐにはコレが一番。 重ねた唇は震えているくせに酷く甘い。 もう逃がさないよと重ねた唇に吹き込むと、黒い瞳から綺麗なしずくがこぼれた。 受け入れてしまった絶望と…歓喜を宿して。 ********************************************************************************* 適当。 かたこいふうみでりょうおもい。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |