熱(適当)



「暑いですね」
「そうですね」
縁側からみる庭は、打ち水のせいか陽炎が立っている。
ゆらりと揺らぐ空気の先に咲くひまわりも溶けて歪んだように見えるほどに、今日は暑い。
こんな日に任務もなくだらだらと二人で過ごせるのはありがたい。
「麦茶、飲みますか」
「頂きます」
立ち上がろうとした腕を引かれ、倒れこんだ先にはひんやりとした男の肌が待っていた。
白っぽくてなんとなく冷たそうに見える肌は、さっきまで燃えるように熱かった。
汗だくになって、それから他のものでもどろどろになった体を洗い流した後、二人して丸太のように転がっている間に、少しは冷えたのかもしれない。
おんぼろの扇風機が送り出す空気すら生暖かく、そろそろ締め切ってクーラーをかけた方がいいかもしれないと思う。
思うのだが。
「離してくれないと麦茶持って来れませんよ?」
「んー…麦茶よりイルカ先生がいい」
ふざけたことを。こどもみたいに。
…この無邪気な顔をして、俺を支配する男に、とっくの疾うに蕩かされているからだろうか。
この暑さよりもこれから仕掛けられるであろう行為の方がずっと熱を帯びて。
骨も肉もすべてがどろどろに熔かされてしまうほどに熱い。
「熱い」
「んー。そうね」
融けちゃおうか。
そう囁く声が耳を擽るに任せ、生乾きの髪をついばむ唇を塞いでやった。
あぁ。暑い。熱い。
夏なんて、こうして溶け合うためにあるものだ。
「麦茶、後で」
「ん。歩けなくしちゃうだろうから」
物騒で卑猥なことをいう男が愛おしい。
脳髄全部が蕩けて融けて、きっともう形なんて残っちゃいないだろう。
この男のせいだ。
「はやく」
「ん。、れも…」
がまんできないと言ったか、それとも耐えられないといったか。
掠れて言葉にならなかったそれの代わりに、押し入ってきた拍動を受け止めた。
どろどろに融けて、いっそ一つになってしまえたら。
いや、もうとっくに溶け合って戻れないのだけれど。
「あつ、い」
「あつい、ね?」
クスクス。
視線を合わせひそひそと笑う声は、共犯者のモノで。
狂いそうなほどの熱に支配されるのを、二人して楽しんだ。

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適当。
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