女の体はつかみどころがないが、温かい。 家々を渡り歩く野良猫のように、一時のぬくもりを掠め取って、それから代わりに無駄に良く知られた名前を持つ見目の良い飾りとして、女を満足させてやればいいだけだ。 利己的で、ある意味恐ろしく分かりやすいのに複雑で不可解な生き物。 通り過ぎるだけのそれを大切だなどとは思わなかったが、それなしでいきようとも思わない程度にはそのかりそめの居場所たちは居心地が良かった。 ときにはしつこく側にいることを乞われることもあったが、面倒になったら捨てればいいのだから簡単な話だ。 大事なモノはもうすっかり全部失ってしまったから、そんな風に生きることも苦しいと思わないでいた。 …捨てられないと思うものが存在するなんて、想像もしなかった。 「イルカ先生はさ、温かいのに冷たいよね?」 「はいはい。膝の上で偉そうに毛ぇ逆立ててないで、寝るんなら布団に行って下さいよ」 硬く引き締まった鍛え上げられた肉体は、俺と同じ雄の体だ。 柔らかさなどかけらもないのに、どんな女より俺を包みこんでくれる。 こびるような瞳も絡みつくような嬌声もなく、痛みでも堪えているような声がやがて掠れて甘さを帯びていくのなんて最高だ。 これが、安らぎってヤツだろうか? 「あーったかい…」 膝になつく俺を邪魔そうにしているくせに、追っ払うまではしないあたりがこの人らしい。 お人よしで隙だらけで、だから強引に奪って手に入れて…手ひどく拒絶もされたのに、俺の懇願にあっさりとこの人はほだされてしまった。 好きだと。どこにも行かないでと縋った俺に、なんとも言えない視線をよこして。 それからずっと、この人は俺の側にいてくれるようになった。 拒絶されても縛り付けてしまっただろうから、結果は一緒かもしれないけど。 「眠いんでしょうに…。まだこの書類終わらないんですよ?」 優しい手が俺の頭をかき混ぜる。 艶も色気もない。クナイダコとついでにペンダコもある手。 この手が俺の背に縋る瞬間を思い出して、思わず身震いした。 今すぐこの人が欲しい。 …この人をその衝動のままに組み敷いていた頃は、我慢することなんてしなかった。 でも、今は。 「待ってるから…早くね?」 強請る声に頬を染めて眉なんか寄せるから、我慢なんて馬鹿らしいと思わなくもない。 どうせこの人は俺に適わない。いくら抗ってもそれを全て封じてしまえるだけの差が俺たちにはある。 でも、代わりに俺はこの手を失うかもしれない。 ただ抱いて欲望を吐き出すだけのときよりずっと、今の方が温かい。この手を失ったらどうかなってしまいそうなほどに。 「はいはい。…ちょっと寝て待ってて下さいよ」 だから今は。この人の望むとおりの大人しくしていよう。 許しがあれば、多少羽目を外しても拳骨一つで許してくれるから。 その後しばらくはさせてもらえないかもしれないのは困るけど。 「ん…」 擦り寄るとあの視線がまた降ってきた。 困ったような顔をしているくせに、くすぐったくなるような温かい眼差しをくれる。 そのぬくもりに甘えてしばらくは眠ることにした。 目覚めたら、とりあえずこの人を頂く事はもう決めている。 「あーあ。詐欺だよなぁ…。見た目も中身も高級品のはずなのに、こんなに俺好みなんてな」 吐息交じりのその言葉通りにほくそ笑みながら、穏やかな眠りに落ちていった。 ********************************************************************************* 適当! けものじょうにんー!ねむいので! |