こいびとごっこ(適当)


「えーっと。つ、つかまえてごらんなさーい」
「イルカ先生…流石に棒読みすぎでしょ?」
「そんなこと言われたってこんなことできませんよ…!」
「任務でしょ?これ」
「う…!」
そうだ。任務だ。それもこの上忍とらぶらぶかっぷるとやらになりきる。
そもそもなんで俺なのかとか、もっときれいな女性を指名すりゃいいだろうとか思うところはたくさんやまもりあるんだが。
…だって、女だと私でも勝てるとかいいだすんです。
どんよりとそう零すカカシさんは、にごりきった瞳で今にも倒れそうに見えたんだよ。
話を聞けばすでに木の葉屈指のくノ一たちと派手に演技して見せたのに、まるで効果がなかったということらしい。
誰を頼ったのか聞けば、そうそうたる面々。…紅先生、アンコ先生についで、白羽の矢が立ったのが俺だったらしい。
おもしろがって、だが完璧に演技しきれるといえばこの二人だというのは納得できるんだが、それをあっさり気にしないと言い切ったというターゲットの心境がわからなかった。
いつかは必ず私のものになるんです。それが運命です。と、明るく目だけが濁ったまま告げられて、百戦錬磨のくノ一たちは、一斉に手を引いたらしい。
アレはホンモノのアレだから、さっさと逃げなさい。
そう無責任に言い残して。
でもだな。既に女性で玉砕済みだからって何で俺…!
あと設定が色々おかしすぎると思うんだ。
あまりにもうそ臭いからだまされなかったんじゃないのか!?
「これがダメなら…どうしましょう?ちゅーでもしますか」
「いやいやいや。正気に戻ってください!第一キスしたフリでも諦めてくれなかったんでしょう!」
「ま、そーですが。もうねーさりげなく触れ合うとか腕を絡ませるとかでもだめだったんですよ…」
あははははと乾いた笑いを吐き出す姿は、いっそ痛々しくさえあった。
…まあなあ。毎日玄関で待ってるとか、気配断ちして逃げ回っても家の前でにやにやしながら待ってるとか、普通にホラーだ。俺なら発狂する自信がある。
写真を見ればかわいらしい女性だってのに、なぜか任務を切っ掛けに知り合ったこの人のことを追い掛け回し始めてしまったらしい。
この人は俺の家に遊びにきてもエロ本を手放さない上に、好みのタイプは笑顔が明るくてえっちなひととか真顔で言う人なんだぞ!なんでこんなにもて…てるとは言わないな。ここまで行くと嬉しくもない。
…まあ酔ってたとはいえ、巨乳のよさについて熱く語った俺もどうかとおもうけど。
なぜかそのときに強行に巨乳の弊害について語られたからいっそう熱くなったんだよなぁ…。ほっそりスレンダーで巨乳とかロリコンって…失礼な!どちらかというと俺はお姉さまが好きだ!顔は普通でいいから、年上で優しい家庭的で包容力があって強くて、たまに子どもっぽく甘えてきてくれても…まあ理想を言ったらきりがないけどな。
「この本を読んだみたいで…このシチュエーションで色々するのが夢とかぶつぶついってたんですよ…」
玄関先で騒がれたら、忍の耳なら余裕で聞き取れる。外に音が漏れない術はかけても、有事の際に動けるように外部からの音は遮断しないのが普通だもんな…。
この人耳いいから大変だっただろう。ちょっと…いや大分かわいそうになった。
「…わかりました。がんばります。この追いかけっこのよさがわかりませんが」
「ありがとうございます…!」
あー…きらきらした笑顔さらしちゃって。そりゃ女なら惚れるよなぁ。顔も性格も良くておまけに凄腕だ。上忍だから金持ちでもあるだろう。
一般人から見たら王子様と思いこんで追い掛け回す…のは流石に異常だが。
とにかく任務だ。最低でもこの人を守りきらなくちゃな。
「…えー…つかまえてーごらんなさーい」
「…イルカ先生…。念仏みたいですよそれ」
どうやら進歩には相当の時間が必要そうだ。
がっくりと肩を落とす俺を、上忍がたっぷりなぐさめてくれたんだが、そもそもの原因を思うと気分は全くもって晴れなかった。
*****
「どういうことよ!その男何なの!」
「えーっと。アンタこそなんなの。俺の恋人に何喧嘩売ってるわけ?」
修羅場。その一言に尽きる。
逃げ出したいが逃げ出せないので、とりあえずとっさに目の前の上忍の背後に隠れておいた。
この所お詫びと作戦も兼ね、よく一緒に飯を食ってたんだが…。
今日も直前まで一緒に飯を食って、限定のつくねが絶品だったんで半分残して上忍の口に突っ込んだばかりのことだった。
なにがまずかったんだろう…。つくねはもうとっくに胃の中だし、俺たちが食ったのが最後の一本だ。
…関係ない、よな?聞きしに勝る異常さだけど。
「こい、びと…!?で、でも私の運命だから…!」
「俺の運命はこの人だけど?」
「そんな…!」
なんだ?予想外に上手く行きそうか?大分ぐらついてるみたいだな。
ここらで一発がんばるべきなのは分かるんだが、結局棒読みが酷すぎていちゃぱら大作戦は却下され、最近はとりあえず付き合い始めのバカップルとやらを演じるのを目標にしてたんだが…まあ主に飯食ってただけだな。
上忍の財布は流石に分厚くて、限定の酒とか限定の料理をもりもり食えるんで、ついつい食うことに集中しがちだった。
「付きまとわないで。俺の邪魔するなら消すよ?」
こえええええ!?本気の殺気だ!そして俺は限りなく役に立っていない。これは任務なのに。
「あ…う、そよ…!」
がたがたふるえながら真っ白になるまで手を握り締めて、俺を睨んでいる。
一般人の女性だ。手もなく組み伏せる事ができるはずなのに、その形相がまさに鬼のようで、それが酷く恐ろしかった。
「お、俺の運命です!」
それでも何もしないわけにはいくまいと、がんばった結果がこれだ。
…カカシさん…そんなはとが豆鉄砲食らったような顔でみないでくださいよ…!恥ずかしい上に的外れなのはわかってんだから!
「そう…」
あれ?効果あった…のか?
「じゃーね。二度と顔見せないで。この人に何かしたら殺すから」
ふらふらと遠ざかる背中に鋭い言葉を浴びせて、カカシさんが俺を抱きしめた。
…そういやこの人俺よりちょっとだけでかいんだよなぁ。手は俺よりずっと長…うん。悲しくなるからやめよう。
「カカシさん」
いなくなってはくれたが、追撃はありうるだろうか。
不安になって見上げてみたら、なぜかぷるぷるふるえていた。
「ちょっと黙ってて?」
「あ、はい」
かわいそうに。よっぽど緊張してたんだな。
一般人相手に里で忍術は禁止されてるし、逃げようない相手にずっと悩まされてきたんだもんなぁ…。
気づいたときには思わず頭をぐりぐりと撫でてしまっていた。
「イルカせんせ。天然すぎ?」
「へ?」
なんだ?天然?どういうことだ?
「ま、いいです。飯食いましょう」
「あ、はい!」
まだ食いかけのものがたくさんある。落ち着くためにも飯を平らげてからの方がいいかもしれない。
それから二人一緒に飯をもりもり食った。不思議と妙に気分が晴れやかになって、ちょこちょこ満開の笑顔で俺に料理を勧めるカカシさんのおかげで腹も満たされた。
これにて任務完了。…で、いいんだよな?
そうおずおずと聞いてみたんだが。
「そうですね…。でもいきなり離れて別れたと思い込まれると恐いので、もうちょっと一緒にいてください」
「はぁ。まあいいんですが」
確かにちょっと所じゃなく普通じゃないもんなぁ。心配なのも分かる。作戦とはいえくノ一と連続して付き合ってたと思われてるんだし。
「じゃあ、その。もうしばらくよろしくおねがいします」
「ん。よろしくおねがいします」
お互い目があって、なんとなく笑って、それから。


しばらくしてから上忍にこれは演技じゃなく本気だと告白された挙句に押し倒された。
本とは本命は迷惑をかけそうで恐いから嫌だったけど、いっそのことこの機会を利用してあわよくばって思うようになったんです。なんて、人の上に乗っかりながらいうんだぞ?
だからうんといえと言われて、頷いたのは脅しに屈したせいじゃない。
…巨乳以外はこの人が俺の好みドストライクだと気付いたからだ。
「へんじを、ください」
「上から退いたらいいます」
そういいつけて、正座させて向き合って、俺から告白した。
「結婚を前提にお付き合いさせてください!」
同性同士は珍しいができないことはないだろうし、不誠実なのは好きじゃない。
俺としては本気も本気だったんだが、なぜだか笑われて、ついでに泣きながらだったから慌ててティッシュで拭こうとして…そのままキスされた。
「もちろん。望む所です」
間近でとろけるような声を吹き込まれ、巨乳がいいなら変化してもいいと言い募るこの人が愛おしくてくらくらした。
さらに行為を続行しようとしたのは殴り飛ばして、三ヶ月はお付き合いしないとダメだと言い渡して、泣かれたっけなぁ。
結局限界がきたカカシさんにどうこうされたのは、それからすぐのことだったんだが。
…で、まあその。これが、俺に恋人が出来た時の話。
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適当。
ねむい_Σ(:|3」 ∠)_
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