天幕にて(適当)


 常に裏の裏を読むのが忍ってもんだ。
 といっても、なんで俺の天幕に上忍様が待ち構えてるのかなんてさっぱりわかりはしなかったが。
「なにかありましたか?」
 一応は笑顔を心がける。中忍なのに一人仕様の天幕を貰った段階で、なにかあるんだろうってことは察していたつもりだが、それなりに仕事をこなして疲れて帰った先に眉間に皺を寄せた上忍なんてものがいると、落ち着かないにもほどがある。
 何の用だと詰問できるような関係じゃない。むしろこれは俺の方が査問かなにかの対象になってるって可能性すらありそうだ。
 いずれにしろ今日、俺の安眠は恐らくは得られないだろうってことははっきりしていた。どんな状況でもしっかり眠れて、それでいて物音には敏感で逃げ足が速いのが自慢だったんだけどなぁ。流石にあからさまに訳アリとわかる上忍様に張り付かれたまま、ぐっすり眠り込む勇気は持てなかった。
 しかも聞いてることに応えてくれそうな気配がまるでない。
 噂に聞く抜き打ち上忍試験ってやつだろうか。適正のあるのを上忍が選んで襲撃するって言うアレだ。それにしちゃ姿を見せっぱなしじゃ意味がないような気もするが、上の人たちの考えなんて俺には計り知れないからな。
 こんなところじゃ茶のいっぱいもろくに用意できないが、せめてと思って水を差し出したら、躊躇いもせず一気に飲み干してくれた。
 それも普段は後生大事に隠している素顔を惜しげもなくさらしたままで。
 驚いて固まった俺が悪かったんだろうか。そのまま簡易ベッドに投げ込まれたのは。
「ねぇ。いい?」
「へ?え?いいえ。よくねぇ!よくねぇよ!どうしちまったんですか?」
 この体制は悲しいかな覚えがある。もちろん女性相手限定で立場は間逆だけどな。ああだがちょっとまてよ?まだ毛も生えそろわないガキだった頃に似たような目に合ったような?
 上忍師の先生がすさまじい速さでそいつと戦闘開始したから、忍服のズボン取られてパンツ見られただけでおわったんだった。今思えばかなりの危機的状況だったけど、当時は正直言ってただのアホなガキで訳が分からなかった俺は、先生がパンツ泥棒を成敗してくれたってのを自慢げに語って、同じスリーマンセルの女の子には呆れられて、野郎の方にはそういうのは変態っていうんだぜ!って力いっぱい心配されたっけなぁ。
 それがこの年になってこの状況。考えすぎという線にすがりたいが、股間の盛り上がったモノがそれを否定する。
 …冗談じゃねぇ…!
「好きって言ったの覚えてないの?」
「はぁ?」
 好き、好きって…そういやこの人一緒に飯食うたびに一緒にいるの嬉しいだの大好きだの言ってくるよな。女子か!って突っ込むのも悪いかと思ってそっとしておいたんだが、もしかしてそれでなにかこじらせちまったんだろうか。
「一緒の任務だしチャンスだと思って職権乱用しちゃった」
「いやいやいや。ちょっと待ちなさい。それは大問題だしまずもっていきなり実力行使ってのはいかがなもんでしょうか?」
「だってイルカ先生にいくら言っても伝わらないでしょ?やっちゃったら流石に誤解できないじゃない?」
 そりゃそうだなと同意しそうになって慌てて否定した。誤解うんぬんはともかくとして、同意もなしに同性組み敷くって最近の上忍はどうなってんだ!いや異性でも大問題だけど、木ノ葉のくノ一に大人しく下に敷かれるような奴はいないからなぁ。むしろ一瞬で血祭りだろう。まず間違いなく雄としての生は断たれる。三代目も厳しかったし、四代目もそういうのは口説いてから派だったらしいし、五代目なんかもっとえぐいからな。
やりたきゃかかってきな?下半身丸ごとぶったぎられていいならね!って物理的に半分くらい破壊された不届きモノに言い放ったっていうからな…。やっちまってからから言うのはどうなんだろう。まあ犯人は自業自得だしまったく同情できないけどな。勘違いでやらかすんじゃないかって、未だに周囲の男連中は戦々恐々としている。イズモとコテツは仲がいいのとあんまりなにも考えずに気軽にセクハラして気軽に制裁されて気軽に治療されて元気に働いてるが、それ以外の連中はさらけ出された胸元から必死で視線を逸らしてるって言うから恐ろしい話だ。かく言う俺も、あの胸元を正視しようものなら鼻血を拭くこと請け合いだから、まっすぐ見たことがない。
 そういえば、この人の素顔も。
 ふとそれに気付いてしまったのが敗因だったんだ。
 盛大に吹き上がった鼻血は天幕を真っ赤に染めて、もちろん直撃を受けた上忍も血まみれになった。…らしい。意識を手放した俺を運び込んだ上忍をみて、医療忍が重傷者だと大騒ぎになったんだと後から聞いた。
 …病院のベッドの上で、切々と心配だってこととあわせて好きだと主張する男にまきつかれながらだが。
「で、どう?なれてくれた?」
「うっ!その、近くに寄らないでください!」
「なにそれひどい!」
「いえその、また貧血になったら五代目に…!」
「…それもそうか」
 まるで漫才のようなやりとりだがこっちは命と貞操がかかってるから必死だ。五代目も治療ついでに小言を寄越し、なぜか上忍を激励して去っていく始末。逃げ場がなくなっていくような気がしてならない。
「…あのー…ゆっくり寝たいんですが」
「食事までまだ時間あるしね。そうしたら?起きたらりんご剥いてあげる」
 こんな新婚生活にあこがれたこともあったなぁと、現実逃避したくなるほど綺麗な面を惜しげもなく晒して、上忍が耳元で囁く。背筋が震えるのは恐怖だろうか、それとも。
「…おやすみなさい」
 色々と諦めないといけないのかもしれない。そんな不安に駆られながら見た夢の仲でも、やっぱり上忍は素顔のままでそれはそれは楽しげに笑っていた。

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適当。
素顔になれさせると称してやたらちゅーされて鼻血ふいてるうちに外堀はすっかりうまっていたとかいないとか。りはびり。

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