そういえば猫の日だったなぁと思った理由は、勝手知ったる他人家とばかりに堂々とくつろぐ猫耳上忍をみたからだった。 ベッドは一人でも狭い。だというのに頻繁に上がりこむ男は、絶対に客用布団で寝ようとはしないので折り重なるように寝るしかなくなる。その上余計な着ぐるみめいたものまでみにつけられては、まともに寝ることなどできないんじゃないだろうか。 そもそもこの人が家に帰ってくれればいいだけなんだけどなぁ。飯でもって言われてまあ色々厄介ごとを抱えた子どもたちのことが気になるんだろうと誘われるままに飯を食って、そうしたら予想外に酔っ払うから、しょうがなくて俺の家に連れ込んだ…ら、いきなり目を覚ました上忍が犬のように匂いを嗅いだりそこら中をチェックした後一言言ったんだ。 「気に入りました」 それからだ。こうして勝手に上がりこんでは飯を強請り、時にはお土産と称して食料と酒を持ち込むこともあるが、他の誰かと飯を食おうものなら勝手に同席する。しかも寝床はどんなに追い払っても俺と一緒じゃないと駄目だし、風呂はカラスの行水なのにあんまり俺が長風呂すると、脱衣所に座り込んで待ってたりするし、今ではかの上忍が俺の家で同棲しているというまことしやかな噂まで立つ始末。相手はだれかと問えばまさかの俺だ。俺は男で上忍も器量はいいが立派なモノをぶら下げた男だ。どこがどうなってそうなるんだ。 最終的に上忍が俺の家に住所の書き換えをしたらしいという話まで漏れ聞こえてきて、対処に困ることこの上ない。 のんびりとくつろぐだけのイキモノだ。経済的負担も外食が減った分十分まかなえているし、上忍の持ち込む上等な品々のおかげで舌と体が肥えてきつつある。 つまり俺が得ている利益の方が多い。…気がする。 邪険にする気はないが、相手の意図が読めないことが不安すぎた。 節分のときも豆もって待ってたなぁ。それからちょっとしたらチョコも持ってきた。イベント事が意外と好きなんだなと思ったにとどめたが、まさかこんな格好までするなんて予想外にもほどがある。 ふわふわとした銀色の和毛を纏った耳は、獣らしくつんと立っている。偽者かと思いきや、俺が動揺して立てた音に反応して忙しなく動いたところをみると変化かなにかだろうか。その背に揺れる長い尾もまた銀色の長い毛で覆われていて、なんともいえず手触りがよさそうだ。耳と尻尾を撫でたらにゃあと鳴くんだろうか。目は普段と同じだなぁ。 そんな風に現実逃避したところで事態はかわらない。意を決して口を開いた。 「あのですね。どうしちゃったんですか?カカシさん?」 十中八苦この上忍のお遊びだとは思うが、万が一任務でなにかしらの攻撃を受けた結果ならすぐに治療しなければならない。そのためにも穏便に聞いてみたというのに、帰ってきたのは大きなあくびだった。 口の中がピンク色だなぁ。そりゃそうか。立派な白猫だ。まあ猫じゃないが。 「猫の日なので猫になってみました。イルカせんせもどうですか?」 「…どうですかと言われましても…」 大変手触りがよさそうですといったら撫でさせてはくれるだろうが、変化をといてはくれないだろう。どうしたらいいんだ。外見は確かに猫のような耳と尾がついてはいるが態度自体は普段通りなのが却って対処しづらい。いつも通りに飯でも食わせて、さっさとねちまえばいいんだろうか。 「ま、やってみればわかりますよ」 そんな訳で茫然としていた俺は、猫風味の男が目にも留まらぬ印を結ぶのを止めることもできなかった。それくらい早かったというか、情けないことに一部の印は見落とした。 印を組み終わったらしいことに気付いたのも、変化の煙がまとわりついたからだった。 「な、にを、したんですか」 「似合いますねぇ。黒猫さん」 ご機嫌な上忍をぶん殴っても許されるだろうか。なんなんだこの横暴は。許されていいのか。 恐る恐る頭に手をやると、軟らかくふわふわとした毛を纏った人のもではありえない耳が一揃い生えていた。ズボンがきついのも、尻のあたりになにかもさりとしたものが当たるのも、考えたくはないが…男と同じように俺にも毛まみれの尾が生えたんじゃないだろうか。 「…あんたなんなんですか…」 「えーっと。ま、いいじゃない?今日は猫なんだし猫らしく気まぐれに自堕落に過ごしませんか?」 それはいつも通りのアンタだろうがと言ってやるだけの気力も失せてしまった。少しも悪びれないことには関心していいのかどうなのか。 とにかくこれはもうどうあがいても術を解いてはくれないだろうということだけは見当がついた。たちの悪い犬にかまれたとでも思って諦める他ないだろう。 「もう、いいです…飯食って風呂入って寝ます」 「ん。いいんじゃない?なかなか猫らしいですよね?お風呂好きの猫もいるらしいですし」 「そう、ですか…」 もうなんでもいい。どうしてこんなのが上忍やってていいんだろうとか、三代目のところに突き出すにしてもこの頭じゃどうしようもないなとか、つらつらと考えると落ち込むばかりだ。ここはひとつ、諦めてこの男の好きなようにさせるしかない。落ち込みついでに尻に生えた異物のおかげで窮屈なズボンを脱ぎ捨てて、畳もせずに脱ぎ散らかしておいたパジャマを身に着ける。まだ折れ曲がったせいで尾が痛むが、忍服よりは多少ましになった。 なるようになるさ。いつだってそうやってきたんだからな。いきなり一人になってからも、怪我をして動けないときだって、なんとかやってこれたんだから今回だってなんとかなる…はずだ。 …そう腹をくくった途端、その願いにも似た希望は光の速さで撤回されることになった。 「ああああんた!どこさわってんですか!」 「え?俺も本能に忠実に行こうかなって。いいでしょ?」 「いいわけあるかー!」 事もあろうに尻を、しかも同性の上忍が触ってくるとは何の冗談だろう。 しかも悪びれもせずむしろ上機嫌だ。 「入れたいなー?やっぱり後ろからがいいかな。しっぽもいいよねぇ?」 「なにを、いやいいです。とりあえずなんでもいいからアンタ帰れ!」 「外のがいーい?」 「よくねぇよ!何がかは分からんし知りたくもないが!いい加減にしやがれ!」 「そーね。じらされるのも悪くなかったけどそろそろ限界だし、ね?」 そう言って、猫耳をつけたえらく器量だけは良い上忍は、恐ろしい勢いで俺を組み敷いたのだった。 結論から言うとヤられた。猫耳尻尾なんていう非常に馬鹿らしい格好だが、まさか外見だけじゃなく神経系にまで作用するなんて思わないじゃないか。 その手の術の一種だったのか、うなじに歯を立てられただけで腰が上がり、尾を撫でられればぞっとするほどたやすく甘い声が上がった。自分の口からそれが飛び出しただなんて信じたくないくらいに、媚びるようで欲に焦れた獣の声だ。しかも頭の中身が沸騰したみたいに真っ白になって、最後の方はつっこまれてるっていうのに強請っていた気がする。 「…最悪だ…」 「俺は最高ですよ?」 傷だらけの顔で男が笑っている。顔だけはやたらいいというのに、覆面をしても隠し切れないだろう爪あとが、脂下がった表情とあいまってなんとも情けない面構えだ。 ちなみにやったのは俺、らしい。極まった瞬間苛立ちと快感とでとっさに暴れた記憶はあるようなないような…?まあとにかく、一矢報いたことだけは喜んでおくべきだろうか。 「あんた変化しなくても猫みたいなもんでしょうが…なんでこんなことを…!」 懲罰を願い出ようにも馬鹿らしすぎて言い出し辛い。上忍が本気になって悪ふざけをして、その犠牲になりましたなんて笑い話にもならない。恐らくは哀れみの視線でもって傷口に塩を塗られ、ついでに少しばかり見舞金じみたものが支給されるのがせいぜいだろう。相手は…恐らく任務帰りの上忍だからな。 「だって欲しかったんだもん。素直に欲しがってくれたらいいのになぁって」 拗ねたそぶりと裏腹に、その声は浮き足立っているのが丸分かりだ。いっそ叫びだしたい。だがここは気のいい中忍たちが住まう独身寮。大騒ぎしたら明日任務のヤツだっているかもしれないのに近所迷惑だもんな…。 「なんでもいいです…二度と俺の家にあがりこむんじゃねぇ…!」 「無理ですね」 きっぱりと切って捨てられた上に、なぜかその無駄に長い腕が絡みついてくる。 …変わった人だと思ってはいたが、もしかしなくてもちょっと、いや、大分おかしいひとなんだな。この人。 「出てけ」 「イルカ先生動けないでしょ?それにほら、もう俺のだっていいふらしちゃったし」 「はぁ!?」 いいふらすって…それでなくても歩く噂話というか、何かと話題になりやすい人だってのに、そんなことされたらそれこそ明日には里中に広まってるじゃないだろうか。最悪だ。 「そんなに変わりませんよ。今までも。ご飯一緒に食べて、一緒に寝るだけだし。あ、風呂にも一緒に入りましょうね?あと引っかくときは左目だけ気をつけてもらえればいいから」 さりげなく捨て身なところが卑怯だと思う。そうされると俺が見捨てられないのを見透かされているような…?そして男の言葉にも一理ある。つまりは随分と前から手遅れだったんじゃないだろうか。 「ちくしょう…!アンタ何考えてるんだ!」 さんざっぱら情けない声を上げてかすれきった喉に鞭打って詰ると、猫上忍はそれはそれは嬉しそうな顔で笑った。 「そりゃもう。イルカ先生のことだけでしょうよ?」 ******************************************************************************** 適当。 222の日にあげたかったけどねちゃったやつです_Σ(:|3」 ∠)_ |