「にゃー」 「煩い黙れ」 猫耳つけた上忍に媚を売られて誰が嬉しいものか。 いや、特殊嗜好の人とか、この上忍モテモテだしそういう女性ならわからんが。 「えー?でもほら、イルカせんせの好みにぴったりでしょ?」 「ありえませんね。残念ながら」 猫耳属性はありませんとか、圧し掛かってこられて嬉しいわけがないとか、そもそもアンタ男でしょうがとか言いたいことは山ほどある。 …山ほどあるが、この男がそれを斟酌するような人間じゃないことも思い知らされている。 「なでてたじゃない。かわいいなぁって」 「猫なら撫でましたね。アンタみたいな図体でかいイキモノにかわいいとかないんで」 ああ確かに撫でたさ。八百屋の看板娘の三毛猫と、最近そこに生まれたまっしろな子猫の頭ならな。 なつっこいしかわいいんだ。それにあそこの野菜は新鮮で…。 「何で俺じゃだめなの?」 「そうですね…」 どうしてアンタはそれを真剣に聞けるんですかとこっちが聞いたら、この男はどうするつもりなんだろうか。 「ねー。撫でてよ。ちょっとでいいから」 そしてどうして真剣に頭をゴリゴリこすり付けてくるんだろうな。 必死すぎてこっちまで哀れを催しそうというか。 …油断なんかできないんだけどな。猫耳なんてつけちゃいるが、コイツの中身はそんなかわいいもんじゃない。 家に帰ったらおかえりなさいって言葉と同時に飛び掛ってきた人の服切り裂くような気狂いだからな。 ぶん殴ったら正気に返ったみたいだったのが幸いだ。こっちだってできるだけ血は見たくない。 あっさりやられる気なんてもっとない。 「撫でたくなるようなことしてくださいよ。あんたここどこだと思ってるんですか?」 「イルカせんせのベッドの上?」 「そうですね。そして俺は寝てました」 寝入りばなに起こされる腹立たしさ。この人は想像もしてみないんだろうな。…いや、忍の癖にしっかり睡眠とろうとしてるってのが信じられないだけか。内勤で里にいるんだからたまには惰眠むさぼっても許されると思うんだけどな。 「だめなの?」 「ええ、だめです。いきなり人の家に上がりこむこと事態がアウトです」 「えー?」 「えーじゃありません。だめなもんはだめです」 不満げだが不安そうでもある。…要は知らないだけなんだよな。この人は。 「じゃ、どうしたら撫でてもらえるの?」 …自分で考えても答えが導き出せないってことは自覚しているらしい。 俺から見ればこの人は欠損しているものが多すぎる。でも頭は悪くないんだ。 ここが正念場ってヤツだろうか。 「布団は貸してあげます。今度はちゃんとどこかでうちに来ることを俺に了承をとってください。そしたら考えなくもありません」 三毛猫はまだしも、白猫を見て思わず撫でてしまったのは、物慣れない様子で辺りを警戒してるくせに、俺をじーっとみてちょっとずつよってきたのがアンタにそっくりに見えたからですよとは言わないおく。 「同じお布団がいいです。気持ちよくなりましょ?」 調子に乗ってすぐコレだ。 「そうなると永遠に撫でられることはなくなりますね」 「ちぇー?じゃ、今日は諦めます」 本当は術でも使えばあっという間のはずだが、そこらあたりは誠実らしい。線引きがよくわからないのが玉に瑕だな。 「布団敷いてさっさと寝なさい」 「はーい」 とりあえずは大人しく寝てくれそうな男に満足して、俺は油断していた。 …つつがなく出勤した先で、家から送り出したはずの上忍がまさか開口一番イルカ先生今晩は、イルカ先生のおうちでエッチしましょうなんていわれると思わないじゃないか。 約束しろといったのは俺だ。でもな、火影様もいるんだぞ? それにその言い方だとしょっちゅうやってるみたいじゃないか! 「はたけ上忍。エッチはしません。したこともないでしょう?」 「じゃ、また今度?」 河合子ぶりやがってこのやろう…!大の男が小首かしげて見せたって…でもその瞳が。だから何でそう必死なんだこの人は! 「…飯なら付き合ってもいいです」 「え!やった!じゃ、後でさらいに行きますねー?」 「さらわんでいいです。いいから任務行ってきなさい!」 「はーい!いってきまーす」 風のように消えた上忍にため息をついて、男が巻き起こした嵐と、刺すような視線をどうしようかと頭を悩ませたのだった。 何で撫でてほしいんですかって質問でさっさと自覚させようかって事と一緒に。 ********************************************************************************* 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞー |