「いーの?」 「なにがだよ!ついてくんな!」 ぴょんぴょん跳ねた髪の毛が綿毛みたいだ。触ってみたい気もするけど、知らないやつについてこられてるんだし、そういう奴とは関わっちゃいけないって父ちゃんも言ってた。 「だってさ、アレ、欲しいんじゃないの?」 そう言って指差す先にはか細い声ででも一生懸命に鳴いている小さな生き物が、小汚い段ボール箱に納まっていた。 さっきみつけて、でも泣き声が聞こえたから触る前に離れた。 「…駄目だ。せきにんがとれないイキモノはうちにあげちゃいけないんだ」 一度目はどうしても我慢できなくて、怒られるかもしれないって覚悟して、でも父ちゃんは怒らなかったけど、その子をうちで飼う事もしなかった。 一生懸命世話をするようにいったけど、俺も一生懸命チビだったそいつがちょっとでっかくなるまで面倒を見たけど、すぐによそのうちにもらわれていった。 父ちゃんは上忍で、母ちゃんも上忍で、だからしょっちゅう任務でいないんだ。 ねこになにかあったらお前になにができる?って聞かれたとき、俺にはなにもできないって思った。本を調べて一生懸命勉強したけど、水遁はできるようになったけど医療忍術なんて全然ならってないからできないし、応急処置の初級っていうのは今習ってる最中だけけど、猫の病気のことなんてわからないことだらけだ。 だから、それからずっと、似たようなのを見つけても拾って帰ったりはしていない。 …こっそり飼い主になってくれそうな人を探すことはあるけど。 「アレ、しんじゃうかもよ?まだ小さい。まだ目も開いてなかったし、へその緒もついてたみたいだし、あんなサイズのときに放置されたら体温だって維持できない」 「うそだ…!し、しんじゃうなんて!」 そんなの駄目だ。でも今うちには父ちゃんも母ちゃんもいない。いるのはなんにもわからない俺だけだ。本にはもらってきた子猫の飼い方は書いてあったけど、あんなに小さいのは母ちゃん猫の邪魔しちゃ駄目ってことしか書いてなかった。 「ね、どーする?」 「あっちいけ馬鹿!」 走って段ボール箱を取りにいって、それからすぐにまた走り出した。全身から汗が噴出すし、心臓はバクバクうるさいし、後ろなんて気にしてる余裕はなくて、視界がなんだかにじむのにも焦ってとにかく前に進むことしか考えられなかった。 向かった先は…じいちゃんちだ。前に拾ったやつも、爺ちゃんが次の飼い主を見つけてくれたって言ってた。じいちゃんは俺の本当の爺ちゃんじゃないけど、父ちゃんと父ちゃんの父ちゃんにみえるくらい仲がよくて、母ちゃんのことも大好きだ。 あとえらい。すっごくえらいんだ。だって火影だ。何でもご存知なのよって母ちゃんもいってた。ご存知ってことは、何でもわかってすごいってことだから、きっとなんとかできる! もうそれしか頭になくて、今がもう夕方っていうより夜になりかけてるってことも、爺ちゃんがびっくりするだろうってことも、実はこっそり背後からついてきたままのやつがいるってこともなにもかもに気づけなかった。 「ほうほう?これは小さいのう?助かるとよいが」 「しんじゃうの!?じいちゃん!どうしたらいい?なんでもするから助けて…!」 爺ちゃんの言葉に足元がいきなりなくなったみたいにぐらぐらして、倒れそうになった。 爺ちゃんならなんでもできるはずだと思ったのに。うそだ。だってこいつはまだ動いてて、ちっちゃいけどときどき小さい声で鳴いてるのに。 「ふぅん?助けてあげようか?」 「…カカシか」 「あ!何だよお前!どっかいけ馬鹿!ついてくんな!ち、ちびが!大変なのに…!」 「パックン。どう?」 「ふん?なんじゃ猫か。おい。さむがっとるぞ。すぐに体を温めてやれ」 「え。うん!」 変な犬だけど悪いヤツじゃなさそうだ。顔は結構怖いけど、チビ猫の言葉が分かるみたいだし。慌てて懐に押し込んだら、ついてきた変なやつにずるいとか言われた。なんだよ!お前変なヤツだからこの子はやらないぞ! 「ふむ。ミルクは…粉がまだのこっとったかもしれん。取ってこよう」 「ありがとう!爺ちゃん!」 そっか。ミルク。そういや前のヤツも一杯飲んでたっけ。お湯を沸かすのに一緒に行こうとしたら、なんでかしらないけど犬を呼び出したやつまでついてきた。 「なんだよ?」 「ん。熱すぎてもだめだけど、ミルクはあったかいほうがいいから」 「そんなの知ってる。前のヤツだって二倍くらいになるまで育てたもん!」 「ふぅん?そ?」 何でコイツにやにやしてるんだろう。俺ばっかり焦ってて、ズルイっていうかさ。それに俺についてきた理由が分からない。 「あったぞイルカ。哺乳瓶もなんとか予備があった。先だっては噛み千切ってしまいおったからのう…」 「うん…でもまだコイツは歯もなさそうだし大丈夫だと思う」 「そうさな。…イルカは世話を焼くのが上手いからのう?大きく育てておやり」 「うん!…でも、父ちゃんが」 「里親が必要なら考えてはおくが、お主ならできようて」 「え?」 「最後まで投げださなんだことをお主の父は褒めておったぞ?まあ里親を募集してしまったあとであったから、もらわせてしまったが、なんならワシも説得してやろう」 「ホントに!ありがとう!じいちゃん!」 思わず抱きつきそうになって、チビ猫がつぶれかけてミーミーなくから慌てて跳んで離れた。 「ただし、あやつは頑固じゃぞ?まあお主もよう似ておるがの?」 笑う爺ちゃんにそうでもないことを説明したり、ミルクを作って飲ませてる間に時間がすぎて、うっかり遅くなっちゃったせいで爺ちゃんが泊まって行けって言ってくれて、ついでに変なヤツも犬と一緒にチビ猫の翻訳とかしてくれて、結局おなじ部屋でお泊りすることになった。 チビが泣くとミルクをやって、また寝てってやってたら、あっという間に朝になってたけどな。 翌日、帰ってきた父ちゃんと母ちゃんに無責任な行動とかいろいろ怒られたけど、飼いたいって言ったらめちゃくちゃ怖い顔で怒られたけど、今のところうちにおいてくれている。 父ちゃんいわく、ほりゅう?なんだって。よくわかんねぇけど。 「んなあ」 「お?ミルクか?ちょっと待てよ?」 「そろそろいいんじゃないのー?ミルクは卒業したら?」 …そう。何故かコイツもよく現れるようになったけどな。 「う、うるさい!あとちょっとで完全に離乳食だけにするけど、まだちっちゃいからまた今度なんだよ!」 色々鬱陶しく絡んでくるのがめんどくさいけど、ときどきちゃんと鋭いこともいうから油断できない。 まあなんでもいいんだけどな。こいつが元気なら。チビ猫は目も開いて、俺の後をちょこちょこ付いてくるようになって、多分ここまででっかくなったら大丈夫だっていうのは爺ちゃんからも太鼓判をもらえている。 「なぁん!」 「よっし!おなか一杯になったみたいだな!へへ!」 ふにふにの子猫が甘えてくるのがかわいくてにやにやしてたら、変なヤツには甘やかしすぎとか色々文句言われたけど、そんなの知るか!これから狩とか教えてやるからいいんだよ! 「…んー。ちっちゃいねぇ?」 「なんだよ。お前だってチビじゃん!コイツはすぐでっかくなる!手とか足とかでっかいからな!」 「ま、そーね。あとちょっと我慢するよ」 「…勝手にしろ。でもお前にはやらないからな!」 よくわかんないことばっかり言うんだよな。こいつ。 「ん。気長にいくよ。アンタ育て甲斐がありそうだし」 「は?」 再びよくわからないことを言って、俺と猫を撫でたソイツは、いつの間にか姿を消した。 変なヤツ!まあ時々猫のおもちゃとかくれるし、犬つれてきてくれるけどな! 「ちびねこー。変なヤツが来てもがんばろうな?」 チビ猫…名前は上が移るから禁止って言われてそう呼んでる猫は、大きなあくびで応えてくれた。 ******************************************************************************** 適当。 育ってから再会して、あんた相変わらず甘やかしすぎとか何とか言われて派手に喧嘩したらいいと思います。 |