ねこまっしぐら(適当)

さっきからひとっことも会話を交わしていない。
不機嫌そうな顔でときどきちらっとこっちの様子を伺うくせに、そのくせ俺が視線をやるとふいっと反らす。反らすだけじゃなくて睨んできたりもする。
…怒らせちゃったのは確実だ。
「ねぇ」
勇気を出して声をかけてみたんだけど、殺気をぶつけられただけだった。
「なんですか?いいご身分の上忍様?」
受付でみるような誰も作り物だって気付かないだろうってくらい綺麗な笑顔だ。
…ま、俺は騙されないんだけど。
こんなとげとげしい台詞がなくったって、イルカ先生の怒りがにじみ出てるのがすぐわかるもんね?
「…だ、だって、しょうがないでしょ!命令だったんだもん!」
そうだ。正直言って個人的にわざわざ温泉に行くよりは、恋人と家に引きこもってる方がいい。
側であーんとかなでなでとかしてもらって、いい雰囲気に持っていけたらいちゃいちゃいちゃいちゃしていたい。
それが…どうでもいいおっさん大名の見得のおかげで俺がひっぱりだされて、隠れ湯だかなんだかしらないが外観の質素さとは裏腹にやたらと内装が高級な宿に行って、たるんだ腹だの愛人とのおっさんくさいセックスだのを見せ付けられる羽目になったんだから、むしろ俺を慰めて欲しいくらいだ。
たとえそれがイルカ先生が一生に一度は行ってみたい温泉だったんだとしても。
「命令でも!あんただってあの報告書…!」
「お、温泉になんてはいってないです!あのおっさんの成分が溶け込んでそうで気持ち悪いじゃないですか!」
貸切だからって湯船の中で愛人とやってたんだぞ?あのおっさん。
正室の嫉妬が怖いとか言うなら、つまみ食い程度の愛人と温泉旅行なんかいかなきゃいいだろうに。
お陰で俺の平和な休日が奪われた上に、いとしのイルカ先生には完璧に拗ねられてしまった。
本当なら今頃俺の腕の中で…くっそう!ほんっとなんなのよ!あの馬鹿大名の股間ちぎってやればよかった…!自分の下半身で面倒ごと呼び込むくらいなら、去勢しちゃえばいいのに!
俺のと違ってろくに役に立ってなかったみたいだし。
商売女の芝居がかった喘ぎ声聞かされたら、萎えるなんてもんじゃない。
秘密の恋だかなんだかしらないけど、自分の妄想盛り上げるために大金支払って俺みたいな上忍使うなんて最悪だ。
「…見てない、ですか?」
「えーっと?なにをですか?」
イルカ先生がおずおずとこっちを上げて、でもまだ険しい顔をしている。
見たもなにも、異変があるかもしれないから気持ち悪い声と敵の有無だけには気を配ってたけど、後は必死でいちゃぱら読んでイルカ先生がこんなことしてくれたらいいなとか妄想して何とかやり過ごしてたのに。
屋根裏に侵入できるかとか床下に侵入できるかとかも、近づきたくなかったからパックンにおねがいしちゃったしな…。
「…女連れだったんでしょう?」
「ああ、そうですね。煩いしけばけばしいし臭いしで最悪でしたよ。見るのも嫌なくらい」
大名の癖に趣味の悪いおっさんだった。
宿は落ち着いた雰囲気の調度品で調えられていたのに、地味だの何だの騒いでたもんな。
「えーっと。じゃあ、何を見てたんですか?」
「いちゃぱら読みながら、イルカ先生が温泉えっちしてくれたらいいなーって」
思い出しついでにうっかり言ってしまってから気がついた。
ヤバイ。流石に退かれるんじゃないかこれは。
案の定、イルカ先生は耳まで真っ赤に染まってしまった。
どうしよう?かわいすぎるんだけど。
今襲ったら殴られるだけじゃすまないだろうなぁと一応気合入れて我慢しようとしてみたら、むしろイルカ先生のほうから寄ってきた。
「…いい、ですよ。温泉につれてってくれるなら」
「え!」
囁きがダイレクトに腰に響く。
あんなことやこんなことしたいなーってそればっかりで苦行とも言うべき温泉任務を片付けた俺の脳内は、一気にばら色に染まった。
「じゃ、じゃあ俺は飯食いますから!」
「お、俺も手伝います!それから温泉!絶対ですよ!」
やった!温泉だ!温泉プレイやりたい放題だ!
幸せに蕩けてニヤニヤする俺に、イルカ先生が小声で何か言ったけど、頭を撫でてくれたし、怒ってないみたいだからまあいいか。

「嫉妬のしがいがないくらい俺まっしぐらだもんなぁ。この人」


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適当。
というわけで…今日は寝なかったよ多分!
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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