名(適当)


「名前をつけたら情が移るから駄目だって言われたんですよね。最初に拾ったとき」
いい年をした大人のはずなのに、その瞬間だけ妙に幼い顔をして、男が唇を片側だけ吊り上げた。
「まあそうですよね。名前なんかつけちまうと近所の野良だって情が湧いちまうし、うちは母ちゃんだったんですけど、イキモノを飼うなら、世話はもちろん飼えなくなったら殺す覚悟を持ちなさいなんて言われちまって」
極論だ。今思えばとんでもないことを言ってくれたものだと思うが、おそらく母は知っていたのだろう。
小さなイキモノの命は短い。そして忍なんて稼業である自分たちも、いつ命を落とすか分からない。もしもがあれば、残されたどちらも苦しむことになる。間抜けでまだほんの子どもだった俺には分からなくても今なら理解できる気がする。
結局イキモノを飼うことはなく、両親は共に早々に儚くなってしまった。今一番身近にいる動物といえば、そういえばこの人の使役する獣くらいかもしれない。
「父は多分それで諦めると思ったんでしょう。何せ俺はもう中忍で、里になんて殆どいられなかったし。でも、俺はそれを聞いて、それなら名前をつけてしまえば俺のモノになるって、思ったんです」
「はぁ。なるほど」
発想がおもしろいというかなんというか。
情が移るというのは確かに分かる。名をつければ自分のモノになった気がするし、そういえば同僚にもノートから筆からなにから全部に名前を付けている女性がいた気がする。
外見と階級にそぐわない純粋といえば聞こえはいいが、変わった人ではあるようだ。まあただの中忍のどこが気に入ったのか、派手に喧嘩したことだってあるってのに熱心に誘ってきた時点でわかってたけどな。
まあとにかく、この人はそれだけその拾ったイキモノが欲しかったんだろう。
「だからね。それから拾ってくるのにぜーんぶ名前を付けて、躾して隠れ家で育てあげたんです」
「すごいですね」
俺と違ってこの人が中忍になったころは随分と幼かったはずだ。まあ逆に考えれば幼かったからこそ突拍子もない思い付きをそのまま実行したんじゃないだろうか。なまじ実力があったから、そんな無茶を成し遂げてしまえたってとこか。
俺なら…面倒はみるだろうが、確実に気づかれて、両親からすさまじい雷を食らっていたに違いない。というか、この人の父親は確か高名な忍であったはずだ。それを出しぬけていたとしたら、当時からずば抜けて腕が立つ忍だったってことか。凄いな。
「それがね。ばれちゃったの。八匹目で」
「はっぴき!?そりゃすごい!それが今も?」
本気で犬を飼い、隠し、しつけてしまった子どもの頃のこの人は、きっと必死だったに違いないが、親はそれはもう驚いたことだろう。
遠い世界の物語でも聞いているような気分になって、一息に手元の杯を煽った。
この人が犬遣いであるというのは有名な話で、それも確か八匹の有能な忍犬を従えているということも手配帳に記載されていたはずだ。
「いいえ。だって普通の犬だったから。老衰でね…」
「そうですか…」
置いて行かれる寂しさはわかっているつもりだ。人だからとか人じゃないからとかじゃなくて、側にいてくれたぬくもりを失うのは、身を裂かれるように辛かっただろう。
酔いも手伝ってこっちまで泣きそうになってきた。
「寂しくてでも今度は置いて行かれないように、仙界の犬と契約して、また全員に名前を付けたんです」
さらっと言ったが、普通の犬を育て上げるのと違い、相手は高度に発達した知能をもち、だからこそ契約者を厳しく選ぶ。その眼鏡にかなったってことは、やっぱりすごい人なんだなぁ。話を聞く限りじゃ結構寂しがり屋みたいだけど。意外だ。
まあだからわざわざ俺なんかを誘って飯食ってんだろうけどな。
「名前をつけると愛着がわきますもんね」
この人はきっとそれはもう大切にしているんだろう。犬の話をしているときの瞳は、何とも言えず優しい色を湛えている。この人の犬は幸せだな。だってこんなにも愛されている。
ほんの少しだけ羨ましく思った。独り身が長いと余計なことばかり考えちまうよなぁ。湿っぽい酒はごめんだってのに。そろそろ俺も嫁さんもらうべきなんだろうか。
「今ね、すごーく名前をつけたいのがいるんだけど」
「じゃあ新しい子を増やすんですか?」
「んー。でもね、もう名前がついてるの」
「えーっと。それは…二重契約ってことですかね?」
前の契約者の同意があれば継承出来るのは知っているが、二重に契約できるかどうかは…どうだったか?周りにいる連中が契約しているのは、大抵普通の使役獣だ。高度な忍獣契約がどういう仕組みかってのは実のところ良く知らない。
まあそれほどまでに欲しい子ってのは、よっぽど強くて、それに気に入ったってことなんだろう。
「んー?誰のモノでもないみたい。まだ」
「え?ならお願いしてみればいいんじゃないですかね?カカシさんくらい強くて大事にしてくれる主なら、喜んでくれそうですけど」
詳細が分かっているとは言いがたい。だがこんなにも大事にしてくれる人なら、どんなイキモノだって満更じゃないんじゃないか?多分だけど。
「そう思う?…じゃ、がんばってみようかな?」
「カカシさんがそんなに悩むってことは、何か事情があるんでしょうけど、上手くいくことを祈ってます!」
「ん。ありがと」
ふわりと笑ってくれたから、きっと近いうちにその忍獣をこの眼で拝めるんじゃないかと期待していた訳だが。
景気づけに前祝だと唆して杯を重ねたのは俺の方で、そのままうっかり酔いつぶれたのはつまりは自分のせいなんだが。
犬好きの上忍の寝床で目覚めて慌てふためく暇すらなく、口付けと共に告白されたってのは、俺の人生の中で一番と言っていいほど驚かされた。
…そのまま考える暇もなくうっかり頷いちまったってのも含めて。
だってなぁ?物凄く必死で、不安そうで、大事にさせて?なんて頼んで来るんだぞ?どうしてそれを無碍にできるってんだ。
元々懇意にしていて、強引なところもわがままなところも知っていて、それ以上にこの人が意外と情に厚いことだって知っている。それならもう、答えは決まっているだろう?
「よかった」
とりあえずのお付き合いからでと答えただけなのに、くしゃくしゃの顔で泣き笑う恋人になってしまった人が、あまりにも必死だったから。
俺はきっとそれはもう大切にされて、近い将来本格的に捕まっちまうんだろうなと思った。



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適当。
ひなまつりだとさっききづいた_Σ(:|3」 ∠)_ ぁああああ
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