つま先から頭の天辺まで全部俺のものだったらいいのに。 「なにしてんですかアンタは」 「んー…」 畳の上をごろごろ転がっているのを邪魔そうにしながら、イルカ先生が歩いていく。 用の済んだ爪切りをしまうためだ。 古いたんすは九尾の災厄を乗り越え、今もこの家の居間にどっしりとたたずんでいる。 キュイと少しだけきしんだ引き出しを器用に戻して、転がっている俺に一瞥だけくれると、どうやら風呂でも入れに行くらしく出て行ってしまった。 よかった。気づかれなかったみたい。 「ふふーイルカせんせの爪」 指の先に乗る小さな白い三日月は、俺だけのものだ。 だって持ち主が捨てたんだし、俺が貰ったっていいはずだ。 忍なら爪すらも武器になるし、下手に伸ばしすぎて割れればそこから毒が入るかもしれないしクナイだって扱いづらくなるからこまめに手入れするのが当たり前だ。 だからイルカ先生はいつもちょっとした時間が出来るとクナイを研ぐ前に爪を切る。 大体新聞紙とかそういうものを用意して、側に無造作に胡坐をかき、それからぱちりぱちりと足から指まで全部きれいに整えてしまう。 やすりも勿論丁寧にかけている。本当に忍の見本のような人だ。ま、そりゃそうだ。あの人先生だし、真面目だし。 …それから多分俺のせいってものある。 俺に恥をかかせたくないとか、そんなでもいいことを気にするくらいならもうちょっとかまってくれればいいのに。 男同士だってことで得られることも不利益もお互い納得してる。 それなのに謗られるのはいつだってあの人ばかりで、腹立ち紛れに鬱陶しい連中を一通り闇討ちするまでそれはひろがるばかりだった。 この里の連中は嫉妬や明後日な八つ当たりがよっぽど得意なんだろう。 大事な人を傷つけられて黙っているほど、俺が腑抜けにみえたのか、それとも連中の頭がそんな簡単なことすら思いつけないほど馬鹿だったか、それともその両方か。 ま、どうでもいい。そんなのかまってられないし。 邪魔さえしなけりゃ忍としての命を失うことなんかなかっただろうに。 証拠は欠片も残さなかったけど、心象としちゃ当然の事ながら最悪だ。すぐさま私刑を疑われて遠まわしに揶揄されはしたが、上層部がそれほどさわがなかったことを考えると、実力も大した連中じゃなかったんだろう。庇ってもらえるような家柄でもなかったみたいだし? だから、あの人の価値を見抜く事が出来なかった。所詮その程度だったってことだ。 この爪は宝物だ。 二人で暮らすことを受け入れてくれてから、大事に大事に集めてとってある。 本当は髪の毛も欲しいんだけど、流石に気づかれそうだから我慢している。もうちょっと気づかれないように集められるように準備してからじゃないと、ばれてとられちゃったらこまるじゃない? あの人の物は全部俺のモノだ。欠片だって誰にも渡したくない。 「カカシさん?アンタそんなにごろごろしてると牛になりますよ?」 「えー?わんことかねことかのがいいなー?」 「かわいこぶっても駄目です。さっさと風呂はいんなさい!」 「はぁい」 俺のいない間に泣いて、でもそんなの気づかないフリなんてできなくて、全部叩き潰して以来少し楽になったみたいだけど、この人は一人で勝手に悩みだすから油断出来ない。 とりあえず今夜は。 なにがあったか寂しそうな顔をしている理由を聞き出すために、ベッドでちょっと泣いてもらおうかなぁなんて企んでおいた。 ******************************************************************************** てきとう。 寂しそうな顔をしている理由→一楽ラーメン無料券の期限切れに気づいた。 そして精液もとっておきたいとか悩みだして医療班に配属された部下にトンでも依頼をするまであと少しだったり。 あっさりばれて、それつかって俺がどっか他所の女と子ども作っていいんですか!って怒られて大慌てで否定して、この人孕ませればいいんじゃないかとか悪いことを考え出したりすればいい。 ご意見ご感想お気軽にどうぞー |