プレゼントをあなたに(適当)



怖いもの知らずとか、死にたがりとか、ありがたくない異名まみれの俺だけど、何よりも恐ろしいモノがある。
「お誕生日ですね」
この中忍。しれっとした顔で俺の家にいるが、もちろん合鍵を渡したことも泣ければ家を教えた覚えもない。
「…はぁ。まあそーですね」
ドアの前に立っているからどいてもらわないと入れないんだけど、なぜか恐くてどけてくださいと言えない。
やってることは今まで何人もいたストーカーやら敵の密偵やらと殆ど変らないのに、妙に堂々としているせいで、どうも扱いに困る。
だってねぇ。どうしたらいいのよ?しかも誕生日って…そういえばそうだけど、すっごくいい笑顔で待ち構えられるようなことなのそれ?
祝われる年でもないし、それにこの人に教えたこともなかったはずだ。
「へへ!お祝いです!」
真っ白の包装紙に、真っ赤なリボンが巻かれていて…わかりやすくプレゼントって感じのシロモノをぐいっと押し付けられた。
「え」
貰うのは怖い。…だってこの人は恐い。
いやうん。戦って勝てるかといわれたら余裕でと答えられるけどね?
そうじゃない。そういうんじゃなくて、この人は里の中で生きてきた人だから、俺に多少変なことをしてもみんな疑問にも思わないで受け入れるだろう。
むしろ俺の方が怪しまれて色々言われるのが関の山だ。
だって、ずっとそうだったもん。
なんでクマとか紅とかガイまでこの人にあんなに妙に生暖かい視線を向けるのかがわからない。
結構すごいことされてると思うんだけど。
今までだって任務帰りに飴玉くれたり、甘いもの苦手ですって正直に言ったらそれが今度からせんべいになったり、おすそ分けやたらくれるし、挙句家に勝手に来るとかね…。
「お誕生日、おめでとうございます」
にかっと笑う男になんの底意もないんだろうけど、でも恐いんだって。
だって逆らえない。なんでかわからないけど。
「ありがとう、ございます」
受け取ってみたものの、これからどうしたらいいんだろう?
貰い逃げは失礼な気がするし、くノ一にするみたいにその場は笑って受け取って、それから即効捨てるのは…なんだか気が咎める。
「じゃ、これで!」
「え!」
帰っちゃうの?いやのこられても困るんだけど!俺の家にお茶とか気の利いたもんはないし、あるのは酒ぐらい…ってなんかそれもちがう!
「…お祝い、しないんですか?そういえば?」
「はい」
独り身の男がお祝いするような年じゃないと思うんだけどねぇ?この人はするんだろうか。…ああ、周りの連中が全力で祝ってくれてそうだけど。
「じゃ、うち来ますか?」
ぎゅっと手を握られた。プレゼントを持ってない方の手があったかい。じわじわと染みこむ何かよくわからない心地良いものが、そこから伝わってくる気がした。
変な人。…この人のこういうところが恐いんだよ。
気持ちイイものは危ないモノだ。そこに溺れればもう二度と戻れなくなる。
「はい」
それなのに、どうして俺は頷いてしまったんだろう。
「ケーキは小さいのを買うとして、秋刀魚もナスもあるし、それから…うーん?よっし!今日は俺が背中流して上げます!」
甘いものが嫌いだって言ったのに、そこは譲れないらしい。
背中流すたって、男同士でそれってどうなの?
…どうして俺はそんなことがこんなにも楽しみなんだろう。
「ん」
誕生日プレゼントをしっかり掴んだ手と、イルカ先生を掴んだ手。
どっちもこの人のくれたものだ。
…急に鼓動がうるさくなった。この人といるとおかしなことばっかりだ。
それも今日は特に。
「うー」
小さく呻いた俺には気付かなかったのか、手を引く人はそれはもう幸せそうに笑ってくれた。
「お祝い。しましょうね!」

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適当。
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