「いや、大したことないですって!」 これだけ大怪我しておいて良くそんなことが言えるなと思う。 目に見える範囲だけでも包帯がそこら中に巻かれていて、ついでに顔にはくっきりとあざもある。唇だって切れてる。 まあそりゃそうだろう。 子ども庇って土砂崩れに巻き込まれたにしては、むしろこれだけの怪我で済んだのは僥倖だ。 「鏡見てから言いなさいよ!」 元気だ平気だといいながら、俺の腕を振り払う力もないくせに。 子どもが心配するからなんて理由で、こんなずたぼろのままアカデミーにいこうとするその神経が分からない。 「顔は、…あー…そうだ!包帯とっちまえば!」 「馬鹿言わないの!手当てが遅れたらあんた死んでたのよ!?」 退院させたのは間違いだった。 木の葉病院は慢性的にベッドが足りていないから、介護人がいて、しかるべき手続きを踏めば退院することは難しくない。 特にこの人にみたいに単純な怪我なら。 術や毒を食らった連中をほいほい放り出すほど馬鹿じゃないけど、それでもこうして簡単に退院できるのはちょっと合理的すぎるのかもしれない。 こんな無茶する人はもうちょっと引き止めといてよ…。 「い、今はほら、元気元気!大丈夫ですって!」 引きつった笑顔で飛び跳ねようとするから、思わずカッとなって…気がつけば脅しつけていた。 「大丈夫なわけない…って、そんなこというと全部剥いて犯すよ?」 「え!?」 無鉄砲な恋人を少しばかり驚かせたかっただけだが、本気で怯えた顔をされるといっその事このまま抱き潰そうかと思ってしまう。 ほっといたらまず間違いなく、人の話なんか聞かずに無茶をするだろうから。 「子どもの心配はしてくれるのにね」 じりじりと寝室まで追い詰めて、勝手に抜け出していたベッドにまでたどり着いた。 包帯なんて取ったら、鼻のいい子どもならまだ出血が続いてることに気付く。 大切な子どもを泣かせる気はないだろうから、またへたくそな幻術でも使って誤魔化す気なんだろうけど。 …この人は馬鹿だ。 「ごめんなさい」 ベッドにそのまま押し倒そうと距離を詰めた途端これだ。 「泣きそうな顔するくらいならなんでこんなむちゃするのよ!」 それだけで簡単にほだされそうになる自分が悔しくて、詰った。 惚れた弱みなんて最悪だ。これだけで手も足も出ない。 いっそ頭の中までキレイさっぱり根こそぎ消して、俺だけで上書きしてやろうかなんて思うのに。矛盾してる。 「あー…その。泣くな。俺が悪かったです。顔見るくらいはって思ったけど、それならいっそ見舞いにでも来てもらいます」 抱きしめて俺の背を撫でるくせに、少しも俺のことなんてわかっちゃいない。 …それなのにこんなことだけで、すっかりほだされかけてる自分が嫌だ。 「泣かせてんのはあんたでしょ。見舞いはいいけど俺がいるときだけね。ちゃんと寝てなさいよ?薬も飲んで。それから治ったらお詫びしてもらうから。体で」 つっと尻を撫でるといきなり体を引いて逃げようとするから、ちょっとだけ笑えた。 多少は意趣返しできただろうか? 「…善処します。最後以外は。でもアンタトイレまでついてくるのはいい加減やめてください!」 「イ・ヤ。立つのがやっとなんだからあきらめなさいよ。尿瓶のがいいなら止めないけど」 「うぅ…!卑怯だ…!」 頭を抱えてうずくまった時点で自分の勝ちを確信した。 最優先じゃなくてもいいから、せめて無茶だけはさせない。 …ついでにもっと俺のことも大切にして欲しいけどね。こうしょっちゅう心配かけられると心臓が持たない。 大人しくベッドに戻った恋人の髪を解いて、一瞬警戒したくせにすぐ気持ち良さそうに擦り寄ってくるのを撫でて、寝かしつけてやった。 「おやすみなさい」 「…おやすみ、なさい」 悔しそうにそういう姿に、後で覚えてなさいよなんて考えながら。 ********************************************************************************* 適当。 だるい…。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |