ふゆ(適当)


「寒いと人肌が恋しくなりますよね」
そんなことを言いながらこの男が転がり込んできたのはいつからだったか。
確かに酷く寒い日だったのは覚えている。
そのふざけた口調とは裏腹に、酷く飢えた瞳をした男を無視できなかった。
大体家の前で待ってたってのが丸分かりの格好で、しかも寒いって言いながら冷え切った体でいたら、放ってなんか置けないだろう?
風呂に放り込んで上がってきたらコタツに放り込んで、おまけに口の中には俺お手製の鍋焼きうどんも突っ込んで…まあ多分そこまではよかった。
風呂に入れてコタツに突っ込んだ段階でそこそこ冷え切った体に体温が戻ったから、それで少し安心して、ついでに油断もした。
最初に聞いた言葉は不穏すぎるほど不穏なものだったのに。
上忍で少しぼんやりした所のある男に、俺は同情していた。
何も言わないから何も聞かなかったし、丁度ちょっと奮発した羽根布団を使い始めたばかりだったから、寝床も譲ってやろうと考えていたくらいで、この男が何の目的で俺の家に来たのかなんて考えもしなかったんだ。
俺もついでに飯を食って風呂に入って、コタツより布団で寝てくださいといったときだったか。
新しいの羽根布団の寝心地のよさを自慢する暇すらなかった。
寝室の扉を開けた途端、すばらしい速さで動いた男の手によって、俺は自慢のベッドに引っ張り込まれていたからだ。
放り込むはずだった男にそれこそ荷物のようにベッドの上に放られて、身構えるより先に俺は戸惑いながら男を心配した。
毒か術か薬か。
…常にその強さと冷静さで名を馳せてきた男の行動とはとても思えなかった。
だから、これはなにかの間違いだ。
「カカシ先生!しっかりしてください!」
医療班に首に縄をつけてでも連れて行かなきゃとか、やべぇ風呂に入れちまった!毒が回ってるんじゃ…!?とか、そんなことばっかり考えていたと思う。
「イルカせんせ。あっためて」
帰ってきた言葉はたったそれだけ。
凍りついた体は随分温かくなっていたが、その凍りついたような瞳を前に、俺は抵抗する事を止めた。
…止められなかった。ああ寒いんだなってのが分かったから。
ろくでもない任務だったんだろう。多分。教職に着く前は戦場にでたことも当然ある。だからその手の感覚にも覚えがあった。
誰でもいいから人肌に縋りつきたくなって、そのときたまたま知り合いの姿をみてしまったってことだろうか。
そのときの俺はすっかり忘れていた。この人が俺を待っていた事を。
家の前で待ち構えていたって事を。
すっかり忘れて抱きしめて、あとはお決まりの展開だ。
外で縋りつかれても振り払うし、男につっこまれるのなんて間違ってもごめんだ。
…でも、カカシさんのことは振り払えなかった。ただそれだけ。
噂どおりにそっちの方まで腕が立ち、おまけに何度も何度も勃たせる男に散々に喘がされる羽目になった。
痛くなかったのを喜んでおくべきだろうか。
「おかげで妙な癖つけちまったよなぁ…」
「イルカせんせ?」
きょとんとした顔をして見上げてくる男は、コタツに収まって猫のようにくつろいでいる。
要は、いついてしまった。
上忍の気まぐれだと分かっていても、肌を合わせれば情がわく。こんなイキモノを懐にいれたらつらいのは自分だというのに。
一度だけだと思った関係はその後もずるずると続き、冬の始まりに拾った男は真冬の気配を感じ始めてもせっせと俺の家にやってくる。
最近では手土産まで持ちこんで、コタツの中が定位置になっている。
…とりあえず、冬の間だけだ。…それ以上家に置いたらきっと手放しがたくなる。
きっとこの人も今は気まぐれに懐いているだけだろうしな。
「寒い、ですね」
「ん。あとでいっぱいあっためてあげる」
ふわりと笑う男が憎らしく思えるのに、ああもう寒く無さそうだなと安堵する自分もいて、中々内心複雑だ。
しょうがないよな。家に上げちまったのは自分だ。
「寝言は寝ていえ!」
振り切るように風呂に向かった俺は気付かなかった。
くすくす笑う男が、してやったりという表情をしていることなんて。
「もう、逃がしませんからねー?」


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適当。
上忍的には正当なアピールをしたつもり。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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