ひなまつり(適当)


「たっくさんあるから好きなだけ食え!」
桃の節句だからと部下の元担任とやらに呼びつけられただけでも不審に思っていたのに、狭い部屋をさらに狭くする背の低いテーブルと、そこに並ぶちらしずしやからあげやはまぐりの潮汁を見た日には、このイキモノは一体何の目的でこんなことをしているのかと疑問に思わざるを得なかった。
本日の主役であるガキどもは挨拶と手洗いを済ませたら早々に目の色変えて料理の山に群がっている。今年合格した下忍連中が勢ぞろいして夢中になって飯を食っている様はなかなか壮観だ。秋道一族のガキはまだわかるが、他の連中も思った以上に食っている。
ま、女子連中はほどほどにって感じだけどね。むしろ甘いものに夢中みたいだ。
確かに並んでいる料理を見れば、所謂ガキが喜ぶごちそうってヤツばっかりだ。脂っこいものが好きじゃない俺にとっては食指が動くのはちらし鮨と女子に人気のある煮物と、あとは三つ葉のお浸しくらいだけど。俺にもいくら食っても腹がいっぱいにならなかった時期がない訳じゃないから、少しばかり大きいから揚げを巡っての醜い争いはそっとしておくことにした。
暴れるようなら適当に縛り上げてたたき出して反省を促すかなー?でもここ、この人の家なのよね。
「カカシ先生はあの、別室の方がいいんでしょうか…?」
おずおずと言い出した男の手には、どうやら俺の分だけ別に盛り付けておいたらしいちらし鮨があった。それもちょっとだけ海老が大きい。何この小さな気配り。っていうかなんで俺だけ呼ばれた訳よ?
他にも髭熊とか蟒蛇女とか、場合によっては全身タイツの熱血ゲジマユ野郎とかがいるのかと覚悟を決めてここに来たんだけど、他の連中はいなくて代わりにガキどもがみっちりつまってるなんてね。流石に予想外だった。
なんでわざわざこういうことを面倒くさがりそうな俺を選んだのやら。
「適当にするんで大丈夫ですよ?」
それでもそつなく笑顔なんてものまでサービスしちゃう俺って結構偉いんじゃない?なんて自画自賛しておく。
面倒くさいんだけど、この人いい人だしね。忍には絶対に向いてないと思うんだけど、少なくとも教師には向いている。何せあの厄介ごとの塊みたいなクソガキを、あそこまでまっすぐに育て上げたんだから。
まっすぐすぎて見上げるほどの馬鹿ってところは…どうして父親に似なかったんだろうねー?母親に似たのかもしれないけど、直情傾向なんてまんまあの人だもんね。
「い、いえその!お呼び立てしてしまって申し訳ありませんでした…!ああああの!よろしければ酒が!白酒もありますけど!」
「あー。ま、あとでね?」
白酒なんて甘ったるいものは嫌いだし、ガキどもが騒いでる最中に飲む気はしない。
気のない返事だったかもしれない。でもあまりにほっとしましたって顔をされるのも面白くないじゃない?
「…その、本当にナルトがご迷惑をおかけして申し訳ありません…!」
「えーっと?どういうこと?」
「そーよそーよ!ナルト!あやまんなさいよ!」
「どべが」
サクラはまだ分かるが、口からから揚げはみださせながらもごもご言ったって説得力ないでしょサスケ…。
「なんだよ!だってカカシ先生がいっしょだっていいだろ?お祝いはみんなでやった方が楽しいってばよ!な?な?カカシ先生だってそう思うだろ?」
…あー…なんとなくわかった。こいつ呼ばれてないのに俺に声かけたな?
それなら家主の様子がおかしいのもしっくりくる。
多分、この人に会わせるために考えなしに俺にだけ声を掛けたんじゃないか?間違って呼んだなら、さっさと俺に謝りにきてるはずだ。ただのミスならちゃらけた態度でごめんってばよの一言くらいはよこしてくる。俺だけが来ちゃったらこの人がどんなに気を使うかとか、そういうことまで考えられなかったに違いない。
やんちゃ小僧の割にはそういうとこ素直よね。それはこの盛大に冷や汗をかきながら固まってる元担任のおかげなのかもしれないけど。
「ナルト…あー、その、な?カカシ先生はお忙しい方だから、無理をしてもらったら申し訳ないだろ?」
ま、順当なセリフだね。でもこれじゃコイツは納得しない。
「なんだよ…だってカカシ先生はちょっと変だけどいいヤツだってばよ!イルカ先生とカカシ先生で一緒に飯食ったら楽しいだろうなって…」
「楽しいよ。だからヘーキ。お前みたいな大食らいがいるのに俺までお邪魔しちゃ申し訳ないなーって思うけどねー?」
「へへ!だよな!」
あーあ。嬉しそうな顔しちゃって。…ま、わざとだけど。こんな顔されたら、このお人よしは俺に遠慮すらできなくなるはずだ。少なくとも表面上は。
「あ、あの!…ありがとうございます」
びっくりした。この人、こんな顔できるんだ。いつもへらへら笑ってるけど、こんなにきれいに笑う人だったなんて知らなかった。
なーんだ。ちゃんと笑えるんじゃない。
さっきから引きつった顔の愛想笑いばっかりだったのにね。受付でも誰にでも向ける上っ面だけの笑顔しかみたことないもん。それでも癒されるとか喚く連中もいるんだけど、そういう所が俺は気に食わなかった。
でも、さっきのはイイ。すごくイイ。気に入った?のかね、俺は。
「いーえ。こちらこそ」
うん。いいんじゃない?その顔見せてくれるなら、騒ぐガキどもにも狭っ苦しい部屋にも耐えてやってもいい。
「できれば二人っきりのがいいけどね」
「え?」
「なんでもなーいです」
「そ、そうですか?」
うそ。…だってさっき気づいちゃったかも。
なんだそっか。この人のこと気に入ってる自覚はあったけど、それだけじゃなかったみたい。
「イルカせんせーお世話になったんで今度改めてお礼させてくださいね?」
「え!いやそんな!」
「いーっていーって!もらっとけってばよ!カカシ先生は上忍のくせにけちんぼだけど金持ちだし!」
「こら!ナルト!」
「まーまー。素直にもらっといてくださいよ。ね?」
こういえばこの人は断れまい。予想通りの困った顔はしてくれたが、気づいたからには逃がすつもりはないのよね。
「…で、ではまた今度機会があればで」
ま、機会はなくても作るから心配したって無駄なんだけどねー?
機嫌のいい俺にガキどもが多少ざわついたけど、逃げるように台所からケーキを運んできた家主のおかげでうやむやにできそうだ。
さて、どうやって手に入れよう?この強情そうで、でも情に流される熱血漢を。
「とりあえずは告白から、か?」
来る者拒まず去る者追わずが主義の俺にしては、随分と珍しい。
でもそれが楽しいんだから、もしかしてこれって運命ってやつなのかも?
「カカシ先生にやにやしすぎて気持ち悪ぃってばよ…」
「ちょっと!チョウジに全部食べられちゃうわよ!」
「ふん。ドベが」
「うーるせーってばよ!ケーキ!」
「すみません」
「いーえー」
口説くのは今日からだと決め込んで、さりげなく距離を詰めると、不思議そうに、だがほんの少しだけ警戒心を宿した瞳に俺が映る。
そうそう。警戒しておいてね?そうすればきっと諦めやすくなるだろうから。
ほくそ笑んだ俺にケーキを勧めるその手を、とりあえず握りしめておいた。



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適当。
ひなまつり大遅刻_Σ(:|3」 ∠)ン
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