水溜まりにうつりこんだ自分の顔に驚かされた。 あいまいにしか色を写さないそれからさえ、憔悴しているのが見て取れる。 情けなくも、自覚なく過ごしていただけに、衝撃は大きかった。 「どーしたんですか?なんか落ちてます?」 「あ、いえ!」 アナタのせいだ。 そう八つ当たりできる位なら、ここまで追い詰められたりしない。 …夢にまで追い掛けてくる程に、この人を思いすぎている。 距離を置こうにも、すでに近づきすぎていた。 聡いこの人をごまかす器量が自分にあったら、この思いにもとうに決着をつけられているだろう。 「気になるなー?…ね、無理してるでしょ?」 側にいられるだけで苦しいのに、この人はこうして当然のように触れてくる。 簡単にこうして俺の中に踏み込んでくるくせに、この人はきっと俺の思いになど気づいてもいない。 無防備に近づいてきて、上忍のくせに隙だらけだ。 アナタだから寛げるんですよ、なんて。 …そんなこと言われたら、ぐらつかないわけがない。 男はそもそもが女好きだ。 この恋が成就する見込みなど皆無に近い。 それなのに忘れさせてもくれないのだ。 距離をおいたつもりでも、こうして離れただけ近づいてきて、自分の中を渦巻く思いを自覚させ続ける。 無理ならしているとも。 …欲しいと告げても、受け止めてもらえないどころか、よくて数多といるこの男の情人の一人になるか、場合によっては切り捨てられるだろう。 そういう人だと知っている。 この人は、自分にとって無駄なものを側に置くことなどない。 …だからこそ、今は己もこの人にとって有用なのだと思うことも出来るのだが。 「…寝不足みたいですね。こりゃ酷い」 水溜りを覗き込む振りして下を向けば、男まで同じように水面に視線をよこしてきた。 「あらら。ホント。…なんでそんなに痛そうな顔してるの?」 抱き込まれた。 唐突に与えられたぬくもりに、正直に高鳴る胸が疎ましい。 気づかれてしまっただろうか。…そもそも最初から隠しきれていたんだろうか。 「…ちょっと、疲れてるんですよ。寝不足で」 やんわりと押し返しても外れない腕に、涙が零れそうだ。 自分だけのモノにならないのならいらない。 …つかの間に終わるまがい物の恋など苦しいだけだ。 「そ?じゃ、忘れさせてあげようか」 男が微笑む。 間近で顔布を下げる姿は何度か見たことがあったが、こんな風に嬉しそうに笑うのを見るのは初めてだ。 「あの…?」 問うために開いた唇を塞いだのは男の舌だ。 ぬるついたものがすべり込んだのは驚いて半開きにしていた口の中で、おまけに楽しそうに軟く湿った肉を蹂躙する。 「…おいで」 「ふっ…え…?」 「いいじゃない。…そんなに苦しいなら全部忘れても」 「嫌だ」 アンタだけは絶対に言うな。 睨みつけて言い放つはずだった言葉は、もう一度男の口に飲み込まれてしまった。 「俺に、溺れて?」 寒気すら感じるほどに鋭い視線。 その瞳にあるのが自分と同じ光なのだと気づかされた。 「もう、とっくに」 驚いた顔さえ愛おしい。一方的だった口付けをこちらから仕掛ければ、男もソレに応えるように激しく唇を合わせてきた。 「…わけわかんないんだけど、まあいいや」 アンタ、俺のね? そう言って笑う男の瞳に、泣き笑いを浮かべた顔色の悪い男が映っている。 …それはもう嬉しそうな顔をして。 逃がすまいとでも言うように強く抱き寄せる腕に、ゆっくりと瞳を閉じた。 水面に映る虚像を忘れて、愛しい男に溺れるために。 ********************************************************************************* 適当。 お祭りいろいろたくさんいっぱいありがとうございました!ねむいのでねます! ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ! |