馬鹿みたいに見ていた。あの人だけを。 気付かれているかも何て考えもしなかった。 立場も階級もその戦績も讃えられるにふさわしいもので、視線を浴びるコトになんて慣れきってると思っていたのに。 「ずっと見てるよね。俺のこと」 物陰で囁かれたその言葉に動揺することしかできなかった。 自分のおかれた状況が信じられない。 暗い夜道とはいえ、絶対に人が来ないとは言い切れない外で、こんなに…呼吸が耳に掛かるほど近くにいるなんて。 「ごめんなさい…!」 謝る意味さえ分からないのに衝動的にそういって、逃げ出そうとした俺の腕は簡単に地面に這うコトになった。 「だーめ。逃がさないよ?」 月を背にしたその人の表情ははっきりとはわからなかったけれど、笑みを含んだその声がどこか剣呑でさえあったのは覚えている。 まるで、飢えた獣のように。 ***** 腰だけを高く上げて地に伏せ、圧し掛かられたまま荒い呼吸を吐く。 爪の間はきっと泥で汚れ、服はもっと酷いコトになっているだろう。 自分と、俺を支配するこの男の欲望で。 「ねぇ?気持ちイイ?」 そんな分かりきったことを聞くのは、余裕のあらわれだろうか? 男を迎え入れるなど初めてだったというのに、もう何度白い欲望を吐き出し、男のソレを受け止めたかも分からないというのに。 「あ、あ、…も…っ!」 気持ちイイ。気持ちよすぎて怖い。 何故こうなったかなんて考えられないほど、この終わりの見えない行為に溺れている。 「ん、も、いいかな?…これからいくらでもできるしね?」 その言葉を理解する余裕などなかった。 激しく突き上げられて、湧き上がる波のような快感に押し流され、ただ頂点を目指して駆け上がることしか考えられなかったから。 ***** 爪は汚れていない、服は…そもそも着ていないので分からない。 だがとにかく。俺が今動けないというコトははっきりしている。 服を着ていないとか、腰の鈍痛が酷いとか…それだけじゃなくて、物理的に動けない。 男が圧し掛かったまま俺を抱きこんでいるからだ。 「…ん…?ああ、起きたの?駄目でしょ?動いちゃ」 その甘く掠れた声だけで、肌が快感の残滓に泡立つ。 それだけじゃなく、俺をまさぐり始めた手は明らかに煽り立てるためのものだ。 「や…っ」 か細すぎる自分の声に羞恥と戸惑いとで混乱した俺に、男が囁いた。 「好き。…でもあれだけ見てるのに近寄ってこないんだもん」 その言葉は不満げでありながら、新たな興奮を隠そうともしない。 「え…」 気付かれていたのだとはじめて知った。 …それから、何故俺がこの人から目を離せなかったのかも。 「好き、だったから…」 自分で自分が信じられない。 可愛い奥さんと可愛い子どもと…そんな幸せを夢見ていたはずなのに。 この力強い腕が、全てを支配するこの男が俺の唯一になってしまったなんて。 「もう、逃がさないよ?」 うっとりとそう言った男に好きにされるに任せ、その言葉を否定できない自分を受け入れた。 無自覚に手に入れてしまった運命に、ひそやかな感謝をささげて。 ********************************************************************************* 適当ー!バレンタインネタが尽きてきたのでー…。あ、後ナニやってなかったか分からぬ…! …ストーカー同士の恋愛のようなそうでないような…? ではではー!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー! |