召しませ花を(適当)


「どうぞ」
銀色の上忍が俺の目の前にひざまずいている。
その手に握られた花束は可憐と呼ぶにふさわしいもので、薬草でもない花の名前など詳しくない自分にその名はわからなくても、恐らく慎重に選ばれたものなのだろうと思う。
「あの、どうかしちゃったんですか…?」
上忍と中忍にしてはざっくばらんな関係だと思っていた。
くだらないことも青臭いことも、それからそういえば理想の恋愛なんてことまで話したこともある。
それがなにがどうなって、こんなことになっているのか。
確かに酒も入ればからかい半分に過去の武勇伝とも蛮勇ともつかぬことくらいは話したことがあるにしろ、こんな風にいきなりわけのわからないことをされたことはない。
…そういえば、この間のみに行った帰りだったか、少し眺めの任務につくといっていた。
そのせいで共に酒が飲めないと嘆く男を慰めたのも記憶に新しい。
ということはだ。
…この人は何がしかの術でも食らったんじゃないだろうか。
確かに強くて、知略にも長けたそれこそ一級品の忍だが、普段は穏やかで時々下忍たちにしてやられたりすることも…まあアレはわざとだったんだろうけど。
とにもかくにも、病院に連れて行くべきかもしれない。
出掛けに帰って来たら付き合ってくれとは言っていたが、なにもこんな意味の判らない歌劇モドキじゃなく、いつも通り酒のことだったはずだ。
男は明らかに正常な状態とはいいがたい。
咲き誇る花とこの人が、恐ろしく絵になっているとしても。だ。
「…この花を、受け取ってくれませんか?」
いきなりの懇願だ。
その表情が苦しげで真剣であればあるほど、困惑するしかなかった。
「え、あ、はい」
そんな顔をさせたい訳がなくて、あわててかわいらしいその花束を受け取った。
自分の無骨な手には不釣合いなほどに、その花はふんわりとはなやかな空気を纏っている。
「よかった」
男も笑っていて、これなら…ひょっとすると疲れすぎているせいで奇行に及んだのかもしれないと思った。
俺の仲間にも、帰還するなり肉屋でいきなり大量の肉を買いこんで、ひたすら山のように焼いて、焼くだけ焼いたらつぶれるように寝てしまったせいで、俺たちの弁当に豪勢なステーキが追加されたこともある。
食べたかったんだ…なんて言いながら落ち込む仲間を慰めたんだが、疲れてくると人間というものはなにをするかわからないものだ。
ソレはこの人も一緒なのかもしれない。
「綺麗な、花ですね。ありがとうございます」
なんにせよ受け取ったものには礼を言った。
必要そうなら隙を見てこの人を病院に連れて行くのはそう難しいことじゃないだろう。
これまでだって、仕事の都合でのみに行く前にお使いを頼まれても、ほこほこ楽しそうに着いてきていたから。
「…付き合って下さいって言ったの、覚えてますか?」
「え?ああ、はい。今日はもう終わりますから大丈夫ですよ?」
本当のことを言うと、この人がもどると思って多少残業を多めに引き受けたのだ。いつ帰っても誰も文句は言わない。
「わかってなくてもいいんです。その花を受け取ってくれたから」
返事はさっぱり理解できないが、とりあえず男が笑っていることに満足しておくことにした。
「はは!俺にはとても似合いませんが、ホントに綺麗ですね」
「いーえ。似合います。だって似合うのばっかり選んだんです。…受け取ってくれたら、諦めないって決めて」
「へ?ええと…ありがとうございます」
真剣な顔に気圧されつつ、かわいらしい花束をこの男が手ずから選んだと思うと頬が緩んだ。なんというか…ほほえましい光景だったに違いないから。
「じゃ、行きましょうか?」
にこにこと笑う男に釣られるように、俺もニコニコ笑って、それから大急ぎで後片付けをした。
飯を食ってさけでものめば、きっと男の奇行の理由も分かるだろう。
手を引かれるままに夜の街に歩き出した俺は知らなかった。
…その先で知った奇行の理由が、愛の告白なんてものであることも、…それが自分でも驚くほど嬉しいものであることも。


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適当。
ふわふわお花ちゃんモードなので。
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