「ねぇ。もっと」 「え?」 確かにさっき渡したはずの飯が空っぽになっていることに、そういわれるまできづけなかった。 細いのに良く食べるなぁ。この子。成長期ってヤツなのか。 「おかわりならあるからどんどんもっていきなさい。やけどには気をつけるんだぞ?」 子供用の小さな皿に、某青春を愛する尊敬する上忍から教わったカレーがたっぷりと盛り付けてやった。 演習というにはのどかな、殆どキャンプみたいな授業で、食事もこうして野営を模したモノを教えながら作る。 一応自分たちだけで寝床を調達するんだが、気候が安定している日を選ぶから、子どもたちにとっては楽しい遊びみたいなもんだ。 学年の壁をとっぱらって年に一度だけ行う行事なだけに大所帯だが、内容を考えるのは毎年楽しみだった。 二手に分かれての模擬戦も、先輩後輩で組んで行う術のコツレクチャーも指示の出し方も、張り切った上の学年の子どもたちが頑張ってくれて、引っ込み思案な子もそこそこ楽しそうにしていたし、元気なヤツは派手にやらかそうとして説教を食らっていたが…まあそこは毎年のことだしな。 今年の集団演習もほぼ成功に終わったといえるだろう。馬鹿をやらかすのがいないか目を光らせるのは一苦労だったとはいえ、怪我人もジャガイモの皮をむくときに手を切ったのがいたくらいで殆どいない。 それにこうして美味そうに飯を食ってる子も…あれ? 「足りない」 「…お前、秋道…いや違うな。学年は?お腹の具合は大丈夫か?」 変な薬草拾い食いでもしたんじゃないだろうか。あのカレーはこの小さな体躯のどこに消えていったのか。しかも腹も出ていない。 「うん。だいじょぶ。だってこれ、先生が作ったんでしょ?」 「え?ああまあそうだけどな」 流石に一つのなべで調理できる人数じゃないから、グループに分けて作らせたんだよな。見本のこれは教員用なのと、消し炭になっちまったりした場合に備えて多めに作られている。 「カレーってのはちょっと気に食わないけど」 「おいおい。文句を言うなら…」 「手料理、食べてみたかったんだもん」 「てりょうり…?」 なんだそりゃ?それに今更気付いたけどおかしい。俺はこの子を知らない。教え子たちの兄弟だとしてもありえないこの色彩は…。 「あ。暗示解けちゃった?意外と耐性あるんですね。イルカ先生」 「あん、た…だれだ」 俺は知っているはずだ。思い出そうとするだけですさまじい痛みが頭を襲うが、どんなに辛くても思い出さなくては。 そうだ。この人は子どもたちの敵ではありえない。だって仲間だ。 だが、どうして? 「うーん?ま、それはまた今度ね?」 「くっそ…!」 「え?うそ!ちょっと!」 ふん捕まえた子どもを抱きこんだまま、俺は意識を手放した。…らしい。 子どもだったイキモノに土下座されながら教えられたんだけどな。 「なんでこんなことしやがったんですか上忍様?」 「うっ!いやそのだって!」 「アンタなにしたかわかってんのか!上忍だからってなに考えてやがる!」 「…だって、イルカせんせの作ってくれたお弁当おいしいってナルトがいうんだもん!」 「は?」 何だその犯行動機は。いい年こいたしかも上のつく忍がナニを分けのわからないことを…! 「ナルトばっかり…」 …だがしょぼくれた姿はさっきの子どもを思い出させた。ふてぶてしいくせに必死で、でも甘えるのが下手な子どもを。 「仕事の邪魔をするのは許しません。…弁当くらい作って差し上げます。味は期待せんでください」 「え!うそいいの?」 あーもう。この本当?本当?って期待しすぎるのを耐える顔ってのがなぁ…。わざとやってんじゃねぇだろうな畜生。…かわいいじゃないか! 「あんまり高い材料つかうのは無理ですよ。必要なとき教えてくだされば…」 「お金払います。材料とかも必要なの教えて?」 身を乗り出してまでいうことか。上忍め。 「あー…じゃあ買い物、今度一緒に行きましょう。飯の作り方わかんねぇなら教えますから」 「一緒にお買い物…うん!是非お願いします。えと、あと、料理もってことは家に行っていいの?」 「家庭科室のがいいですか?」 「イルカ先生のおうちがいいです!」 きりっとした顔してればそれなりにみえるのになぁ。変な人だ。まあいい。なにがひっかかったのかわからないが、上忍は変…いや、ちょっと変わった人が多いからな 「それじゃ今日はおうちに帰りなさい。俺はこの演習が終わったら休みなので、予定が会うなら…」 「はい。待ってますね?」 うふふーと頭に花が咲いたみたいに笑った上忍が風のように消えたあと、さっきとは違う種類の頭痛と共に哀れみの情が湧いたが…。 待っているのが俺のうちで、しかも勝手に住み着くことまで計画してるだなんて、俺には予想も付かなかったのだった。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |