お誕生日事件(適当)



任務漬けの日々はあいかわらずで、疲れ切って帰った部屋は埃っぽくて、それでも掃除なんかする余裕はなくて、風呂に入ったらあとはもう寝巻きを着るのも面倒で倒れこむようにベッドに潜り込んだ。
そこまでは覚えている。
「お誕生日おめでとうございます」
隣にいる人はきちんと服を着ているが同性で、しかも知り合いで、それに照れくさそうに頬を染めているから、一瞬で冷や汗が噴出した。
流石に顔には出さない。動揺を悟られるようじゃ上忍なんてやってられないもんね。
実際の所気づいている素振りは少しもなくて、むしろ俺がぼんやりしているのを相変わらず寝ぼすけですねとかいいながら頭を撫でてくれている。
それがまた心地いいのだ。この人に俺が寝ぼすけだなんて悟られた覚えが無かったんだとしても。
だが流石にこれはおかしいだろう?
普段からさわやかな目覚めなんてモノは望むべくもない。それは血を流しすぎた代償なのかもしれない。
それは飲み込んで咀嚼してとっくに折り合いはつけてるからいいとして、こんな風に殆どどんな相手かも知らないのに、しかもなにも身につけず無防備な状態で接触するはめになるなんて、どんな拷問なのよ。
おまけに焦りを感じていても鉄壁の理性が働いたおかげで気付いてしまった。
台所からいい匂いがする。味噌汁と、炊き立ての飯と、多分焼いた魚だ。しかも俺が好物としているサンマなんじゃないだろうか。
「美味そうな匂い…」
呟いてしまった理由が現実逃避じゃないかと言われれば、否定できない。
やわらかく頭をなでていた手が頬にも触れてきて、素顔をさらしていることにも気付いてしまったし、それよりもその表情が、声が。あまりにも甘く俺を呼ぶから眩暈がした。
こんなのはおかしい。おかしいのに。
「カカシさん。ごはんにしましょう。プ、プレゼントは、その。できれば、そのあとで」
顔を真っ赤にして恥らうのは俺よりも少し小さいだけでガタイのいい男だ。
それなのに…欲情した。
食いたいのはあんただといわずに堪えたのは、流石にこの譲許は異常だと理解していたからってだけで、本能は今すぐにでも欲しいと喚いていて、それを押さえ込むのに苦労するほどだ。
どうしたらいい。どうしたら。
「プレゼントって、なにをくれるの?」
思わず口をついてでた間抜けな一言に、自分で言って置いて驚いた。
なにをくれるって…それに誕生日ってどういうことだ。
「あ、あんたが欲しいって言ったから!その、お、れ、です…ああもう!いわせんなこんなの!」
そうか。この人が手に入るのか。
…なら、いいか。
明らかにおかしな状況なのに、こみ上げる幸福感で頬が緩む。…まずは、飯だ。だってこの人が俺のモノってことなら、今焦って無理矢理しちゃわなくても大丈夫ってことでしょ?
ベッドから這い出たら何もはだかで待ってることはないでしょうがとかブツブツ言いながら相変わらず顔を赤くしていて思わず笑い出しそうになった。
うん。かわいい。そっか。コレが俺のモノになるのか。
「ありがと。イルカせんせ」
そっと唇を重ねた瞬間、凄まじい頭痛が襲ってきて、瞳の奥がちかちかと光った。
これ、知ってる。だってこの人は、俺の。
「カカシさん?」
純粋でちょっと天然で、底抜けのお人よしの…恋人だ。
そうだ任務で妙な術を食らって、すぐに戻るから大人しくしてろって言われて寝くたれてたんだった。
「ううん。なんでもありませーん」
とっくにこの人は俺のものだったんだ。
「あーもう。拗ねなくてもいいでしょうが。あ、愛してる、ます。ええ。何でアンタなんだろうと思いますけどね!裸エプロンは無理ですからね!」
不器用に愛の言葉をくれる最愛の人を抱き締めた。
最高の誕生日の始まりを予感しながら。



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適当。
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