蕩けて溶けて(適当)

武器の手入れは日課だ。
使用頻度から考えたら常に管理が必要なのは当然だし、自分の命を守るものをそう簡単に他人に任せられないしね。
相当信用した相手なら別かもしれないけど、そこを付け込まれることも往々にしてあることだ。相手のためにもそんなことを任せたくはない。
ま、とはいえ研ぎに出すヤツが全然いないってわけじゃないけど。
命綱だが消耗品でもあるから、悪いって訳でもない。
ただ里の外にでれば結局自分で手入れすることになる。下っ端に任せてなにかあったら自分のせいだし、なにより単独任務だったら手入れを頼む相手もいない。
となると、結局は自力で己の武器を調える技術はどうしたって必要になる。
武器の手入れを怠った結果、あっという間にその一瞬の隙が命取りになるような所にいたから、いまだにそれが染み付いてるってだけのことだ。
ていっても、ガキの頃からの習慣でもあるけどね。
父さんに一番最初に教わったことはコレかもしれない。
丁寧に研いで磨いて油を引いて、時には毒の仕込みもする。
淡々とそうやって研いでいる父さんは、敵を屠るための武器を研いでいるのにいつも奇妙に穏やかな顔をしていて、不思議に思ったもんだ。
長じて自分もそんな顔をしているらしいと知ったのは、ついこの間のことだけれど。
「カカシさん」
「んー?」
同じ家に住むようになって…というか、浚うようにして俺の家に住まわせた恋人と過ごすようになってから、こうして手入れする所を見せるようになった。
二人で過ごすには十分な広さなんだけど、敵に潜まれても面倒だから仕切りとかそういうのないんだよねぇ。どうしたって何かしてればお互い見えちゃう。
イルカせんせの家に通ってた頃はこの手のモノを持ち込まないようにしていたから、もの珍しかったのかもしれない。
恋人の側にいるってのに時間がもったいなくて、今まではできなかった。側にいるならくっついてたいもの。ずっと。
で、も!同棲しちゃえばこっちのものっていうか、イルカ先生の部屋はもう引き払っちゃったから逃がさないし、自分の家以外でやれる場所もない。
隠れ家がないわけじゃないけど、そんなことで不審がられたら後が怖い。
だって、思い切りの良さだけはぞっとするくらいいいんだもん!
そのの分もうちょっと色々鋭くなってくれても…!こっちが苦労して告白を理解してもらったことなんて、全然わかっちゃいないもんね…。
ま、それはおいといて。あの日も手入れをしてたのよね。ここで。
覗き込む人が不意に、「随分楽しそうですね」と言ったのを、今でも覚えている。
楽しそうって言われても自覚なんてしてなくて、研ぎの腕を褒められて、ついでに研ぎ方をしみじみ観察された。
だからきっとそんなに深い意味はなかったんだろう。俺が楽しそうにしてるなんて言葉には。
単に俺が嬉しかっただけだ。嬉しそうにしてる恋人をみることが。
「カカシさん」
「ん。なぁに?」
だからこうして今日も手入れをする。ま、やらないとマズイからってのもあるけど、こっそりやれなくもないしこれをこうしてこの人がいる時にやるのは…ちょっとした感傷もあるのかもしれない。
父さんが熱心に手入れする時の顔が好きだった。
だからきっと同じように大切な人が見ていてくれるのが嬉しかった。
研ぎは終わっている。欠けもない。後は油を引けば終わりだ。
「ちょっと待っ…」
全部言い切る前に顎を掬われた。
間近にある顔は真剣なのにどこかせっぱつまってるっていうか。
…えーっと?どうしちゃったのイルカ先生。そんなケダモノみたいな目しちゃって。
「カカシさん」
この人の笑顔が好きだ。あ、もちろんもう駄目って言いながら縋ってくるときの泣き顔なんかも最高だけど。
でもなんていうか、この笑顔って…んー?どうしよ。なんか食われそうなんですけど。
「ん…ッは…っ!」
掠め取るように奪われた唇は蕩けるように甘い。
この人はどこもかしこもおいしいんだけど、普段は積極性の欠片もないのに。…っていうか、なにかされる前に俺がせっせと色々しちゃうせいもあるのか。
「何で急に発情しちゃってるの?」
「真剣な顔で手入れしてるの見てたら…なんででしょうね?」
アンタが欲しくなりました。
紛れもなく雄の顔で囁く声に、俺まで沸騰した。
言葉もなく浚うようにベッドに押し付けて、俺の方から唇を奪う。
この人は、こうして自覚もなしにどこまでも俺を捕らえる。
少しはこっちの身にもなってほしい。
他所のにほいほいついていっちゃいそうで気が気じゃないし、恋人だって自覚がどうも薄い気がするから、必死になって同棲に持ち込んだっていうのにね。
それなのにこんな風に急に誘ってくんだもん。いやになる。天然には勝てないってことなの?
この人のツボなんてわからない。わかったらガンガン押してる。
ま、お誘いには全力で答えるけどね!
「お誘いありがと。…今夜は覚悟してね?」
「…アンタもな?」
笑ってるのに馬鹿みたいに必死になって服を脱がせた。
後はもう。ケダモノ同士絡み合うように性急に混ざり合って、意識が飛ぶくらい熱い夜を過ごした。
真剣な顔してるとそそるだの、指が綺麗だの、どうやらヒント的なモノは得られたから、今度からはその辺狙ってみようかなー?
二人の熱い夜のために。


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適当。
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