夏の夜、アカデミーで(適当)


イルカ先生が一生懸命働いている。
ま、いつも何に対してだって一生懸命な人なんだけど、なんていうか、特に仕事には滅茶苦茶熱心なんだよねぇ?
そう、こんな深夜のアカデミーで、一人っきりで残業しちゃうほど。
里の中枢とはいえ、悪いヤツが入り込んできちゃったらどうするつもりなんだろう。
例えば、俺みたいに長いこと邪な思いを募らせた挙句に色々こじらせてるヤツなんかが、ね?
ちょっとだけ、そう、ホンのちょっとだけ顔が見たかっただけなんだけど、この状況が理性を少しずつ、だが確実に薄くする。
アカデミーは里の人材育成の拠点であるという特性上、血統のいい子どもや、素質のある子どもの情報が漏れないように護衛に暗部は詰めてはいる。
といっても、そんなことをしているのは学籍簿や個人データを保管されている職員室や一部の部屋だけだ。こんな子供向けの資料しかない書庫にわざわざ目を光らせたりなんてしない。侵入しても見咎める者はほぼいないといっていいだろう。
それに、もしたまたま見回り中に見つかったとしても、ほぼ全員顔見知りで、その大半が俺の後輩だ。
つまりは命じれば文句も言わずに退く。聞くなといえば理由も聞かないだろうし、報告もしないだろう。結束が固いといえば聞こえがいいが、実力だけが評価基準になりがちで、身内を庇う体質はこういう時はタチが悪いとしか思えない。
「あーあ。どうしようね?」
獲物は目の前。
頭を掻きつつ眉間に皺を寄せたかと思ったら、新しい資料を手にとって、めぼしいものをみつけたのか顔を輝かせたりもしている。
油断しきってるよねぇ?例えば今部屋の明かりを消して、それから鍵を掛けて、手足を拘束して…ああそれじゃやりにくいか。幻術のがいいかもね。
とにかく、俺は今、簡単にこの人を好きに出来る。
一晩中ここで喘がせてもいい。それとも一度ヤってから家に連れ帰ってしまおうか。いっそ隠れ家に軟禁とかもいいかもしれない。
施錠の仕方は知っている。時間ができれば顔を見に行って、予定があえば一緒に飯を食って、それができないときはこうやってギリギリのところで我慢してるから。不審がられない程度に後片付けをして、数日なら確実に怪しまれないようにできる。その間にいくらでも任務の捏造や術や毒で病気に仕立て上げることだってできる。そうすればこの人は永遠に俺だけのものになる。簡単だ。
イルカ先生は働き者だから、こんなチャンスは今までだって山ほどあった。その度にいつ食ってしまおうかと思うのを、必死になって押さえ込んできた。
宿直室に泊まりこんでるところに、忍び込みそうになったのだって一度や二度じゃない。
この人を傷つけたいわけじゃないから、この人には幸せになって欲しいから。
俺みたいなのに関わっていいことなんてなにもない。そう己に言い聞かせて、もう何年経っただろう?
今日は自分を押さえ込むのが難しい。夜も随分と更けたってのに、じっとしているだけで汗が滲み出てきそうなほど暑いせいだろうか。
資料をめくるのと同じ手で、手ぬぐいらしきもので汗を拭き取る。その瞬間の表情から目を離せない。
おいしそうな獲物は手の届かないところにいるはずなのに、今それを手に入れるための算段を、どこまでも冷静に考え始めている。
「あっちいなぁ。あーくそ!ビール飲みてぇ」
その台詞を聞いた後、一瞬記憶が飛んでいる。
気付いたら、汗だくになって書類の整理をしていたはずの人の側に立っていた。
「あれ?」
「カカシさん!任務帰りですか?受付はもうしまっちまってますよね?」
心配してくれてるんだよね。わかってる。でも近すぎるよ。
食いちぎりたくなるほどおいしそうな匂いがする。汗とか、それ以外にこの人だけから感じる匂いが俺を興奮させる。
「…ごめんね?」
逃げよう。今すぐここから。見てるだけなんてそんなの嘘っぱちだ。俺はこの人にとって、いつだって食いちぎりたい肉を前に涎を垂らしている獣だ。もう檻の中に閉じ込めておけないなら遠ざけるしかないじゃない?
動かない聞き分けのない足をしかりつけて踵を返そうとしたら…捕まった。獲物だったはずの人に。
「丁度良かった!ビール、飲みましょう!」
「へ?」
「いやぁ今日辺り帰還するんじゃないかって思ってたんですよ!うちにね、もらいもんの限定ビールがあるんです」
「え、でもそれ」
「卒業生が任務先で貰ったけど飲まないって、箱でくれたんですよ!大喜びで片っ端から飲んじまって、気付いたらもう残りが5本くらいしかないんで。だからカカシさん3本で、俺は2本です」
「えっと?」
肩をがしっと掴まれて、しかも景気良く叩いてくれるもんだからちょっと痛い。でもラーメンについでビール好きな人なのに、しかも夏はビールってよく言ってるのに。
取っておいてくれたの?…俺のために。
「あ。つまみがねぇ!」
「え?なら作るけど、材料なにがあるの?」
「もらったたまねぎとあとねぎと、なすは買っといたんですけどまだ食えるかなぁ?あとは冷凍庫にイチゴアイスしか…」
「コンビニ寄ってこうよ。イルカ先生は肉食べたいでしょ?ハムとかでいい?あとサラダでもいいから野菜食べようね」
「ハム!あ、あとソーセージもいいですよね!ビールには!うー…野菜は、その、死に掛かったほうれん草があったかもしれんです」
「ん。じゃ、そうしよ?ほうれん草もね」
いいのかな。いい訳ないよね?家に上がりこんだことはない訳じゃないけど、大体すぐに帰るようにしてたのに、こんな状態で行くなんて。
俺のためのビールがあるって聞いて、少しだけ冷静になったといっても、この人に関してだけは俺の鉄壁の理性は紙切れ同然だ。
でも、一緒にいたい。どうしても側から離れたくない。
「へへ!良かった!日々美味そうなビールが冷蔵庫で冷えてるのが目に入るもんで、仕事開けに寝ぼけて飲んじまったらってちょっと怖かったんですよね!はは!」
俺と一緒だねとは言えない。だって獲物が本人だもんね。でもそっか。我慢してくれたんだよね。俺もできるだろうか。あと少し位なら。
この幸せな時間を失わないために。
「ありがと。イルカせんせ」
「へへ!カカシさんだってこの間やたらめったか美味いチーズと酒くれたじゃないですか!あれも一人で食ったらもったいねぇなって思ったんですよね」
あまりにもしみじみと言ってくれるから、抱き締めてどうこうしたくなったけど、どうにか踏みとどまった。
手早く荷物を片付けて、鞄を持ったイルカ先生をドアの側に追い出す。
「おっと電気電気!」
「あ」
一瞬で暗くなった部屋で、電気を消した張本人がドアの取っ手を探している。そっか。ずっと明るい所にいたんだもんね。目がまだなれないみたい。
でも、俺にはよく見える。
その唇も汗ばんだ肌も全部が。
「ふが?」
「あ、ごめん。ぶつかっちゃった」
「…い、いいいえ!さ、さあ!いきましょうか!」
白々しい嘘には気付かないでいてくれたらしい。布越しじゃないって辺りで気付いてもよさそうなんだけど。
掠め取った唇は触れるだけだっていうのに全身の血が沸騰したかと思うほど興奮した。
おかげで自分の理性が思った以上に危ういものであることも再確認できた。チャンスがあれば俺は止まれない。それは確実なものとして目の前に突きつけられている。
「ごめんね?」
「い、いーんです。ええ。その、…つまみ!買いにいきましょう!」
「うん」
謝った理由なんてきっとこの人はわかっちゃいない。警戒なんてもの最初からしてないもんね。俺が、里の仲間で上忍で、それから…この人の懐に居座る事が出来ているから。
暗いからか、子ども相手のいつもの癖なのか、それとも混乱してるのか、当たり前みたいにして俺の手を握ってくれた。
しっかり握り返して、緩んだ頬を慌てて布でを上げて隠した。
いつかがくるまではこうしていたい。でもいつまで我慢できるかねぇ?
外はまだ蒸し暑さの残滓を残していて、だがそれよりもずっとこの人が触れているところの方が熱い。
「おお!空、綺麗ですね!」
「うん」
月明かりのおかげで頬が薄赤くなっているのがみえる。誤魔化そうとして言ったのかもしれないけど、今は本気で空を見上げたまま歩きはじめている。コンビニまではあとちょっとで、家まではもっとすぐだ。
獲物は今自ら望んで手の中にいる。
…せめてこの夜が明けるまで我慢できることを祈っておいた。
 

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適当。
あ、あつい_Σ(:|3」 ∠)_ 。
なつおっこったのでインテ行こうと思います。なるとてん行って、そんであとはどっかお勧めありませぬでしょうかのう?
京都あたりをふらつくか、九州に修学旅行ぶりに突入するか(´∀`*)ウフフ
やすみとれるかどうかわからんのですが_Σ(:|3」 ∠)_ 。
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