痛みだけを抱えて生きるよりはいいんじゃないだろうか。 ふとそれに気付いて安堵した。 …まだ、この手が残っていたと。 「待ってて、くれるかなぁ…」 嗚咽交じりの歪んだ笑みなど、きっと誰も見ていない。 吹き付ける雪に覆われて冷え切った慰霊碑の中からだって、きっと。 だから、今なら。…握り締めた鈍く光るクナイを振り下ろして、全てを終わりにしてしまえるだろう。 思い出も約束も全て。…雪が白く染め上げてしまったから。 「待っててくれたのはあなたでしょ?」 ふいに抱き寄せられて目を見開いた。 「うそ、だ…!」 「…イイ子。ちゃんと待ってたんだ」 温かい腕に、自分が酷く凍えていたことを知った。 まがい物などではありえないそのぬくもりが恐ろしい。 …失ったはずだ。あの日、全てを。 そうして俺だけが永らえて。 それともこの人は迎えに来てくれたんだろうか。 一人生きながら死んでしまった俺を。 「…ならいいや」 自分でやらなくても迎えに来てもらえたのなら、最高だ。 もう会えないことに絶望することもない。 「あーあ。そんな目ぇして…。おいで。温めてあげる。これからずーっとね?」 そんな夢みたいなことを言うから、きっとこれは幻かもしれない。それでもいい。この人が側にいるのなら。 「カカシ…」 か細すぎるその声をくすりと笑って、男が俺にキスをした。 「どこにも行かないよ?」 ウソにしか聞こえないその言葉が、馬鹿みたいに俺を喜ばせてくれる。 「うん…!」 もういいんだ。それだけで。 消えない幻の腕の中に捕らえられて、息もできないほどの口づけを交わして、それから少しだけ泣いた。 この幸せすぎる幻が消えてしまうことに絶望して。 ***** もう中忍になったのだと聞いた。 壊されて全てを失いかけたあの日。 …最後に残った大切なあの子を、どうして奪われてしまわなきゃいけないのか理解なんてできなかった。 里のため。…その言葉を使えば何をしてもいいとでも思っているらしい。 待っててと、それだけを告げてこれたけれど、こうも長く闇の中に繋ぎとめられるとは思っても見なかった。 偽りの居心地の良さに浸されても、忘れることなんて出来るわけがない。 陽だまりの温かさで俺を包み、守り、幸せにしてくれるのは…大切なこの子だけだから。 俺を見つめる瞳が宿す、狂おしいほどに飢え乾いた光に、忘れられてしまわなかったことを確信した。 「あったかい、ね…?」 「うん…!」 物騒なものは取り上げて、随分と薄暗い顔で、でもウットリと目を細めるかわいい人を抱き寄せた。 いまだあの日の狂気の中にいるこの人を、俺だけに繋ぎとめて置けることに狂喜して。 ********************************************************************************* 適当! 勢いで! |