手作り一級品(適当)



大量生産品にしても大概だろうこれは。
「…これを、売りさばけと」
行商の任務依頼者の対応をしろと言われて呼ばれた理由が分かった。
…要するに厄介ごとを押し付けられたのだろう。
絹織物だという話だが、明らかに光沢が違う。それにそもそも染付け自体が粗く、掠れて滲んでずれているような代物だ。こんなものにとてもじゃないが依頼品のいう“高級品”の値段などつけられない。
「忍ならできるだろうが!黙って売ってこい!術とか…そういうもんでなんとかなるんだろ!」
こういう手合いは実の所ちょくちょくやって来る。
多少なりとも頭を使える依頼人はそれとなくお涙ちょうだいに持っていくか、値段もそれなりに抑えるものだが、この男はどうやらその中でもあまりタチの良くない部類のようだ。ここまで頭の中身が足りない依頼人というのも珍しい。
詐欺か押し売りをしろと言っているようなものなのに、どうしてこうも態度がでかいのか。相手が忍で、たかが一般人に脅されたくらい屁でもないってことが何故分からないんだろう。
当然だがこの手の任務を引き受けることはない。人としてどうこうってのは時々それなりに社会通念に照らし合わせれば問題があるような任務もあるが、こんなただのタチの悪い詐欺は今後の依頼に響く上に、こちらに何のメリットもないからな。
そもそもこの手の連中は依頼料を支払う能力などあるかどうかも怪しいのだ。大体踏み倒そうとしたり、任務に難癖つけてこちらから金を搾り取ろうとしたり…相手が忍だからと依頼を持ち込むくせに、その術が自分にたいして使われる可能性なんてものを考えても見ないようだ。
こんな場合は依頼の段階でそれなりの情報を引き出して、大きな裏がありそうなら拷問尋問部に引き渡す。
それを見極めるために一度穏便に別室にご案内して他の依頼人の目が届かない所に隔離してから、相手から情報を引き出さなくてはならない。
幻術を使えば一発であることも多いんだが、まれに相手がその手の対策をしてくることもあるから気が抜けない。
人を見る目がそこそこあり、人当たりよく密室に放り込まれても不安感を抱きにくく油断されやすい人間が適任だ。
…要するにそしてそれはつまり頻繁に俺の役目になったりするわけだ。
「では、どちらでこの織物が作られたか説明していただけますか?」
「そりゃその。いいとこで作ってんだよ!」
「それでは商品の説明にできませんので…」
困ったように眉を下げるだけで相手が油断するのが分かる。ちょろいっていえばちょろいけどな。
今日は早く帰りたいんだよ。さっさと白状しろっつーの。
「そいつは、その、南の方で作って」
「南の方、ですか」
メモをとりながら早速ぼろが出たことを喜んだ。ここから南にこの手の布を作っている地域はない。水が少なく、乾いた土地では蚕の餌である桑の葉が育たないからだ。
「では、染めつけは」
「そこで一枚一枚手でかいてんだ」
明らかに型で染めたと分かる布片手にふんぞり返る男からは小物の匂いしかしないが、詐欺を働こうとしたのは明白だ。忍相手じゃないなら、苦手な幻術も簡単に効いてくれた。
ぺらぺらと大量生産品のB級品を買い込んで持ち込んだことをしゃべるのはまだしも、忍の評判を落としてやりたかったと言い出した辺りでため息をついた。
拷問部屋決定だな。この男はただの一般人でも、背後にあるモノが組織だった存在かもしれない。里の存在を脅かすような可能性は早めに摘まれる。この男からすれば強引に喚けばどうとでもなると思いこんでいたんだろうが、片はきっちりつけてもらう。
「早く終わって、よかった、か」
これからこの男に加えられる精神的肉体的苦痛を思うと多少苦いものが残るが、とにかくこれで…あの寂しがり屋の男を悲しませずに済むのだから。
大量生産品の布はそれなりにかわいらしくて、この男に買われなければもっと他に使い道があっただろうことを思うと空しかった。
*****
「イルカ先生は愛情たっぷりハンドメイドの人ですもんね?」
「え?」
上忍にはこの手の望まぬ侵入者の情報が流れるのが早い。だからこそもし他の情報があるならと水を向けてみたんだが、思わぬ反応が返ってきた。
「生徒のこと。…一級品の忍じゃなくて、どっちかっていうと一級品の人間に仕上げようとしてるもんね」
「…そ、うです、か?」
忍として生き残れということだけは何よりも優先して教えているつもりだが、人間的に…なんてことは正直底まで考えたことはなかった。
己の忍道を見つけたら、そこから逃げるな教えるのは人間的な教育ってのには入るんだろうか。
「そうですねぇ?腕はまあ、本人の資質もありますが、あなたが教師になってから、下忍たちは変わったらしいですよ」
「はぁ」
実感がないことを言われても反応に困る。それに忍としてだけじゃなく人間として成長して欲しいのは本当だが、この言い方だと壮絶な嫌味とも取れる気がする。
一度派手にやりあった時の怒りが蘇ってきて少しばかり気分が悪い。
「褒めてるんですよ。怒らないで?」
甘えた顔で擦り寄ってくるから怒り続けるのも馬鹿らしくなった。
ふわふわの頭はさっき洗ってやったからシャンプーのいい匂いがする。
「ふわふわですね」
少しだけ気分が上向いた。この人の髪は手触りが良くてこうして手入れをするようになってから艶も増した。任務前ににおい消しを使えばシャンプー程度ならあっという間に無臭に出来るのに、戦地用の石鹸しか使っていなかった男が分からない。
折角器量よしなんだから、もっと手入れしろっての。
そう思いつつも自分もこの男とこうなる前は特売で買ったシャンプーがせいぜいだったというのは棚に上げておく。
「そうそう。だってイルカ先生が洗ってくれたし」
何故か自慢げに言う姿は、とてもじゃないが凄腕上忍には見えないが、俺にとってはこっちの方がなじみが深いからそこはそれだ。
思えば出会ってからこの人は俺にだけは本音をぶつけてくる。
惚れたって気づいてなかったけど好きだって気づいたので俺のモノになりなさいって台詞は、未だに驚きと呆れを伴って記憶に焼きついている。
ぶん殴ったらだめ?なんて聞いてくるから思わず駄目じゃないけどアンタも俺のですなんて言っちまった俺もどうかしてるけどな。
「一級品ですよね。アンタ。むしろ特級か?」
「そうそう。イルカ先生がいてくれたら俺はいつだって高品質ですよー?」
手が掛かる子どもみたいなところがあるくせに、胸を張ってそう言ってくれることが嬉しかった。いつだって自分のことを後回しにする人だから。
俺の側で少しは大事にされるのを当たり前に思えばいいんだと、半ば八つ当たり染みた動機ではあったが、構い倒した甲斐があったってもんだ。
「よし!今日は飯食ったらいちゃつきますか!」
「え!ホント!」
ぱあっと顔を輝かせた男をぐりぐりと撫で回しながら、たまにはこんなのもいいよなぁなんて思ったのだった。


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適当。
これからしこたまたっぷりいちゃいちゃしまくったそうです。
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