ぐったりと力なく意識を手放した体。 何をしても反応しない。こうして抱きしめてもキスしても、規則正しい寝息が聞こえるだけだ。呻き声一つ上げない。 それを少し寂しいと思う。 達成感はそれをはるかに凌駕してるけど。 やっとこれでどうやっても俺のモノ以外になれなくなった。 まだイルカも俺も幼すぎて、術の効果も限定されている。 っていっても、他の連中にちょっかい掛けられるようなことはなくなるから、今のところそれだけで十分だけど。 婚姻…というか、ある種隷属契約に近い術だ。 使い勝手の良い血統の女を逃がさないために作られたみたいだから、相手の意思確認なんか必要なしにかけられる。 一方的な所有宣言とも言えるそれは、俺にとっては都合が良かった。 他の連中がその手の意図をもって触れれば、仕込まれた術がカウンターとして働いて、イルカには指一本触れられない。 アレンジもしといたから、触れないどころじゃなくて、もしかしたら死んじゃうかもだけど。 ま、当然だよね。だってイルカは俺のだもん。 「イルカ」 胸の上に頭を乗せてその体温と規則正しい鼓動にうっとりする。 なんて気持ちいいんだろう。もう誰にも邪魔されない。 解術なんてできないし、根回しもしたし、多分もう少しだけなら気付かれない…かな?どうかな? 父さんも台所に行ったみたいだけど、随分長いこと篭ってるし。 もうちょっとだけでいいから気付かれないといいな。 二人っきりでゆっくりなんて、しばらくできないかもしれないから。 気付かれたら子どもであることも、白い牙の息子であることも、黄色い閃光の弟子であることも、全部利用してでも黙らせる。抜けることだって考えてもいい。ま、それじゃイルカがかわいそうだから、本当に最後の手段だけど。 でも、それでも多分一筋縄じゃないかないだろう。 母親って、あんな感じなのかなぁ。イルカの親たちは今忙しいみたいだけど、一回失敗したのは術返しみたいなのがくっついてたせいだ。 気付いたのは家に上がってからさりげなくはずしといたのに、髪紐にまで仕込んであった。 この手の術は何度も練習させられたから、無効化するのは簡単だったけど。 里の権力者をどんなに巻き込んでも、多分必死で俺からイルカを奪いに来る。 戦うのは簡単だ。多分。 …イルカの母親は強そうだけど、なんていうか、搦め手で行ったら行けそうな隙がある。 あの人たちが今忙しいのは、戦況のせいだけじゃない。多分、先生が絡んでる。 ま、その手のことに気を回せないのは父さんもだけど。 そういう根回しがあんまり得意じゃないんだと思うから、そっちからなんとかできるんじゃないだろうか。 上に乗っかられたままじゃ重いかもしれない。 そう思うけど、幸せすぎて、それから…力が入らないから動けない。 「く…!」 術の反動は思った以上に大きかった。一度跳ね返されたのもあって、チャクラを使い切ってしまったみたいだ。これじゃしばらくは動けない。 ごめんって言いたいのと、気持ちよくておかしくなりそうなのとで頭が一杯にしながら、意識が途切れる瞬間までイルカにくっついていられるのは幸せかもなんてことを考えていた。 こんなに離れたくないのは、離れていること自体が不自然だからなんだ。きっと。 「カカシ、お茶…カカシ!?」 あ、まずったかも。 父さんが心配してる。…父さんはさ、心配性だよね。ああ引き離さないでくれるのは嬉しいけど。 式か。…あれは三代目宛て、かな? 「だいじょ、ぶ。ちょっと。チャクラ…」 「すぐに医療忍を呼ぶ」 切羽詰った表情。…大丈夫なのに。死んだりしないよ。だってイルカがいるんだもん。 力が入らない体をイルカごと抱き上げた父さんが、いきなり走りだした。 医療忍を呼ぶっていったくせに、多分病院かな。これは。 それに素足だ。足、あとで治療してもらうように言わなきゃ…。 「とうさん。だいじょうぶ、だいじょうぶ、だか、ら」 返事はない。多分耳に届いていない。 …思った以上に早くばれちゃいそうだけど、まあそれはそれでしょうがないか。 「ごめん」 イルカを手に入れたことは少しも悪いなんて思ってないけど、父さんに心配かけちゃったのはちょっとだけ悪いなぁと思ってるから、最後の力を振り絞ってそれだけ言っておいた。 頭の中をイルカの寝顔で一杯にしながら。 ******************************************************************************** 適当。 白い牙がお茶っぱをばら撒いたり、飯茶碗じゃ駄目だった気がするとか、湯のみのチョイスで悩んだりしているうちに息子が倒れててびっくり。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |