こんもりと山を作った菓子パンが、また勝手に上がり込んでいたらしいことを教えてくれた。 飢えた瞳の子供が、このところいつも俺を見ていたのは知っている。 気配を消して様子を伺えば、酷く痩せて歩くのさえよたついているのにまで気付かされた。 それでもどこからか俺を見つけると精一杯気配を消して、俺を見つめている。 視線を感じて振り返ると一応姿を隠すから、下忍か…最低でも忍となるための教育をある程度受けてはいるのだろう。 俺が歩くとそれにあわせて歩き、何が楽しいのかずっと後をついてくる。 餓えてはいるようだが、何かを強請るわけでもない。見ているだけだ。 それが何度も続いたある日。 いつもなら適当に撒いてしまうのだが、余りに熱心だったから、少しだけ気まぐれを起こしてみた。 後を追ってきているのを確認しながら、ゆっくりと俺の棲家の一つに誘導した。 他の家と違って何もないあばら家で、単に少し休む時にだけ使っている所だ。人通りも少なく、任務帰りにチャクラ切れを起こしかけたときに丁度いい。 痩せてこけた頬の子どもは、俺がそこにもぐりこむのを確かめると、ぱぁっと顔を輝かせていた。 …後を追って入ってくることはなかったが。 万が一間諜である可能性も考えたが、やせ細ったあの子どもの稚拙な尾行は、とてもそんなご大層なものじゃないと分かる。 あの子どもがこの家を見つけてからしている事は一つだけ。 僅かな食糧を置いていくことだけだ。 自分の方こそ随分と痩せているくせに、香ばしいパンだったり、温かい握り飯だったりと、子どもが一生懸命に用意したと分かる物ばかりだ。 九尾の災厄以来、爆発的に増えた孤児たち全てに里の目が行き届いているとは言い難い。 やせ細り、どこか虚ろな目をしている子どもの糧を奪う気などないのに。 もう、壊れてしまったのかもしれない。あの子どもは。 不思議なコトに俺が帰る日が分かっているかのように食料が置いてある。 …そろそろ潮時だろう。 「パックン。これの匂い、追ってくれる?」 「…かまわんが、なんじゃ?ガキか?」 「そうね。これからうちの子になるかもしれないから」 「ガキがガキを育てるか…まあよい。命令なら従おう」 「うーるさいねぇ?いいから行って。…あんなによわっちいのほっとけないでしょ?」 「そうか、…ではな」 含みのある言い方だ。老獪な忍獣は下手な人間よりも頭が回るから、便りにもなるが面倒でもある。 今の里は当てにならない。多分、もうしばらくはあの子どもを支えるよりも苦しめることしか出来ないだろうから。 とにかく、これであの子どもがどこにいるかはすぐ見付かるだろう。そうしたら…子ども一人位養ってやってもいい。 …どこか遠くを見ているように薄くけぶったあの真っ黒な瞳に苦しむこともなくなるだろう。 ***** えさを置いていく。 猫がなつくかもしれないから。 白い猫はいつもぴりぴりした空気に鉄錆臭い嫌な匂いを混ぜたみたいなのを連れて歩いている。 俺はその匂いが嫌いで、凄く嫌いで、でもあの猫を見ているのは好きだったから我慢した。 警戒心が強い猫。ねぐらにも中々帰ろうとしない。 でもある日、やっとねぐらにもぐりこむのを見つけることが出来た。 これで、もう大丈夫だ。 一目見てからずっとあの猫が俺のものだったらいいのにと思っていた。 あの猫はきっと寂しがりやだ。それなのに毛を逆立てるようにして一人篭っている。 だからちょっとずつ、ちょっとずつでいいから俺に慣らして、それから…いつかは一緒に暮らしたい。 猫を見つけるのは簡単だ。いつからか曖昧になってしまった世界から、少しだけ浮き上がって見えるから。 そうして、何度目かの餌付けをした後、またしばらくしたら見に行こうと思っていた俺の元に、知らない犬が遊びに来た。 あの猫と違って、この犬は一人で生きていけそうだ。なのにどうして俺の家にいるんだろう? 「お前じゃな。…ついて来い」 「なんで?」 「…子どもがこんな所にいるもんじゃない。ご主人はきまぐれじゃがここよりマシじゃ」 「ごしゅじん?」 よくわからない。こんな所?でもここは俺の家だ。…何もかも壊されてしまったけれど。 「…良いから。来るんじゃ」 「…いいよ。ここにいる。俺の家だもん。帰りなよ」 ずっとここは俺の家で。母ちゃんも父ちゃんももう帰ってこないけど、ここが俺の帰る所だ。 「しかたあるまい…。…カカシ」 「…ああ、こんな所にいたの」 猫だ。犬なのに猫と友達だったのか。変なの。 でも遊びに来てくれたなら嬉しい。 「あ、猫…」 「…いたたまれんな…」 「洗って、食わせて、寝かせて…そしたら多分すぐ戻るでしょ?今は細いけど、丈夫そうだし」 猫が楽しそうだから、俺の嬉しくなった。ちょっとだけなら触っても嫌がらないだろうか? 「ねぇ、触ってもいい?」 「いいよ。おいで。…アンタ、今日からうちの子だから」 猫は思ったよりずっと力が強くて、壊れた屋根と壁の隙間から俺を簡単に引っ張り出してしまった。 「いいの?一緒?」 「そうね。…アンタが大きくなって、一人で立てるまで」 「俺、歩けるけど…どっかいっちゃうの…?」 「いかないよ。…とりあえずもうちょっと太んなさいね」 「ん…」 猫が、側にいてくれるコトになったらしい。 今日のは任務の報酬と一緒にもらったパンだったから、それがよかったんだろうか? 里の外でこそ泥を追払うだけだったのに、食えって言われたヤツだ。 美味そうだったから一個だけ食べて残りは猫にやった。 …まあなんでもいいや。猫は気まぐれだからいつかいなくなっちゃうかもしれないけど、今は…俺の猫でいてくれるみたいだから。 「おい。お前、名前はなんと言うんじゃ?」 「イルカ。ねぇ。名前は?猫のも教えてくれる?」 「コイツはパックンっていうの。…俺はカカシ」 犬に聞いたら猫が答えた。やっぱり面白い。 「カカシ…」 猫の名前が分かったのが嬉しくて呼んでみたら、ぎゅってしてくれた。 「…大丈夫。大丈夫だよ。俺がいるから」 猫…カカシはよく一人で苦しそうにしてるから、今も苦しいのかと思ってそう言ったら、泣きそうな声で呟かれた。 「あー…なんだろ。なんでこんななの?ガキのくせに」 「お主もガキじゃろうが。…まあよい。ワシは帰るが、また何かあったら呼べ」 「はいはい。…さ、帰ろ?」 「うん」 猫が帰るって言うなら俺も帰らなきゃ。だって猫は俺の猫になったから。 「しょうがないから面倒見てあげる。…俺が飽きるまでね」 そう言って泣いたみたいに笑う猫が、できるだけ長く俺の側にいてくれたらいいと思った。 それからすぐ、カカシが本当は面を被った人間だと教えてもらって、それから凄く凄く優しくて気まぐれなんかじゃないと知った。 いろんな物が曖昧だった俺に分かるように、少しずつ色々なモノを見せて、笑ってくれるのが嬉しかったから、俺も頑張って、それからカカシはもっともっと頑張ったんだと思う。 それから俺も大きくなって、カカシもやっぱり俺より少しだけ大きくなったけど、今もずっと一緒だ。 大きくなってから、一緒にいるときにすることは増えたけれど。 「ね、きもちいい?」 「ん…っ!きく、な…!」 「俺は、きもちいいよ」 「…なら、いい。俺も…」 「もっと?」 「ちが…んんっ!」 調子に乗って色々しがちで、そういうところはやっぱり猫なんじゃないかと思ったりもする俺だ。 「これも押しかけ女房っていうのかなー?ま、拾ったのは俺だけど」 「俺が猫を拾ったんだ!餌付けして!」 「猫じゃないし!」 「女房じゃない!」 「…そうね」 「そうだな」 よくこういう会話をしてて、パックンに怒られるけどな? ********************************************************************************* 適当ー! 眠いので意味の分からない物を上げてみますのです。 |