マガイモノ(適当)

土産物だ山ほどの食料を持ち込んだ上忍が、せっせと料理をしはじめてからはや一刻。
一体いつになったら出ていくんだろうこの人は。
勝手に来るのはもう諦めた。
言っても無駄だと思い知ったからだ。
追い払っても翌日になってしまえばこの人はすっかり忘れて俺の部屋で待っている。
…俺の決死の覚悟何てなにもなかったような顔をして。
「別れた男の家に上がり込むってのは、どういう了見なんですかね」
独り言めいた愚痴に湯気の上がる美味そうな皿をもって、男が笑った。
「別れてなんかいないでしょ?」
別れてくれと言ったのは俺で、それになにも言わずに姿を消したのはこの男。
これで別れてないなんて、どうして言える?
翌日には舞い戻ってきたことには呆れたが、どう考えても俺の申し出を肯定したとしかおもえないのに。
「ちゃんと原因は消してきたよ」
「え…?」
まさか。そんなことができるはずがない。…許されるはずがない。
だからこそ身を引いたというのに、消せるはずのない原因に何をしでかしたんだ。この男は。
「殺しちゃいないよー?ただ、ま、アレの持ち主は忍としては死んだかもね」
酷く楽しげな様子とは裏腹に、その台詞の中身は…だが、どうして?
「あんたの子でしょうが!何てことを!」
忍としてなんて。
この男は母親になにをした?あの子はどこへいったんだ?
全てが受け入れがたい。生まれるはずだった命が失われた可能性も…それを喜んでいるかもしれない自分も。
「気違いの妄言なんか、どうして信じたの?」
「なに言って…!」
「あれはねぇ?外道な実験のなれの果て。俺の欠片を使おうとしたのは事実だけどね」
「え…」
実験?あの幸せそうに腹を撫でていた女が、実験に使われたというのか。
いや、むしろ…腹の中に宿っていた命そのものが、実験の結果だとでも?
「でもざーんねん。俺の機密はそんなにあまくないんですよ。ま、アレの素は誰のだかわからない…たしか髪の毛だったらしいですけどね」
「そんなモノで…?嘘だ!」
指先が震えているのが自分でもわかる。
…信じられる訳がない。少女染みた外見の女が、それはそれは大切そうに己の内の命を慈しむ視線に…俺は全てをあきらめたと言うのに。
「でも高値で手に入れたソレを、男は信じた。…最強の忍を産み出す道具として、ね?」
「どう、ぐ?」
あの女が?宿っていた命が?一体何の話なんだ。
「知らなかったんでしょ?アレも馬鹿だよねぇ?勝手に子ども作ったから別れろ何て、俺が聞くと思った?」
そうだ。確かにそう言われた。
子どもができたと知らされて、里の重鎮である老人の娘だという女がやって来たのはいつだったか。
あの人はしらないということばに、薬でも使ったんだとは思っていた。裏切りに慣れすぎていて、自身にそれを許せない人だから。
でも、腹の中に宿ったモノはこの人の。
それなら、俺が側にいられない。
自分には絶対に不可能なことだ。
それを見せつけられながらのうのうとそれを支えるべき腕を独り占めになどできない。
「あの人には、いつ」
「今日にでも、父が。私が戻ってから火影様にも」
それなら、まだ間に合う。
「少し待っていてください」
そうして、その足で告げたのだ。
血反吐を吐きそうになりながら精一杯最後の笑顔をつくって。
…別れを。
「あんたがおかしいのと、呼び出しの理由に関係があるんだと思ったら、案の定。同意を得ない実験に後代目はすぐに許しをくれたよ。命令も、ね?」
「そんな馬鹿な!」
何があの女をそうさせた?
あの慈しむ視線は遠い昔失った、自分だけに向けられていたものと同じだったのに。
「でも、間に合わなかった」
「え…」
マニアワナカッタ
その意味なんて分かりたくもない。
「腹の中身は人形すらとれなかった。女もね」
「どうして!」
あの女は、母親となるはずだった人は、どうして。
「あの男に娘なんていないっていったらどうする?マガイモノにマガイモノを産ませようとしたっていったら」
忌々しそうに語る言葉こそが、俺を切り刻む。
新たな命の幸福を願ったのも自分なら、幸せそうな女に寄り添う人がこの人でなければいいと願ったのも…俺だ。
「あれはね。全部マガイモノ。だから…全部忘れちゃいな」
赤い赤い光が俺の視界を一杯に染めていく。
「あ、あ…」
「喘いでるみたい。たっちゃいそう。…ま、なにもなくても抱くけどね」
アンタがいないと、俺はまともに立つコトだってできないんだよ。
「カカシさ…」
ゆらりとまわる赤の世界が、闇に溶け始めている。
あぁ意識が、落ちる。
「好き。あんただけ。…あんただけでいいんだ」
せつなすぎる叫びすら覆い隠す黒に包まれて、俺は意識を手放した。
…酷く切ない胸の痛みだけを残して。
*****
「あ、れ?俺」
「おはよ。イルカせんせ。ご飯の途中でねちゃうんだもん。心配しちゃった!」
「ごめんなさい!ああ、えっと?」
俺は何をしていたんだったか?
確か、だれか、おんなと。
「ご飯食べて、それからいっぱいシよ?」
「ば、馬鹿言ってんじゃない!ご飯食べますよ!」
「うん!いっぱい食べてね!」
なぜだろう、いつも通りなのに何故か胸がすかすかする。
…忙しかったし、腹が空き過ぎたかもしれない。
「頂きます」
「はいどーぞ!」
いつもの光景だ。
…いつもの、これから先もずっと続いて欲しいと思っているいつもの生活だ。
きっと気のせいだ。些細な違和感なんて気にする必要はないだろう。
「一緒に、いてね?」
「なんですか?甘えたな。…飯食ってからです」
「ふふ…!楽しみにしてる」
そう、きっと錯覚だ。
なにもかもが、きっと。


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てきとうー
ちょこっとふゆのほらーねむい。
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