待ち犬(適当)

あーあ。今日も忙しそう。…つまんないんだけど。
「ねーねー。イルカせんせ」
猫なで声で構えと訴えてみたものの、冷ややかな視線で一瞥されただけで終わった。
もうもう!冷たいじゃないの!
その視線にぞくぞくしちゃうって言ったこともあるのに、覚えてなんかいないんだろうなー?
食っちゃいたい。
そう思いはするけれど、実行に移すのは少しだけ迷う。
泣いて詰られて殴られた挙句に、アンタとはもうコレっきりですなんて言われたら…この人になにしちゃうかわからないし。
初めての時だってそうだ。
揉め事もあったけど、じわじわと距離を縮めてそれなりに友好的な関係ってやつを築きつつあったのに、他の女に告白なんてされてでれでれしてたから。…つい。
浚って泣きながらずたぼろになるまでやっちゃったのは、流石にまずかったと思う。
やり倒した後ちょっとだけ正気に戻って縄を解いた瞬間に、この人が泣くなって抱きしめてくれなかったらきっととんでもないことになっていた。
殺してくれないかなぁって思ってたのに、流石は元祖予想外ナンバーワンだ。
…ま、クナイなんか向けられたら相当集中してないと、条件反射でやり返しちゃうから危なかったかもしれないけど。
「許してはやりません」
そういいながらもこうして側にいることを許してくれている。
抱きしめてくれるし、あの後欲しいけど我慢してたから危ないって言ったのに、今更だって笑ってくれた。
犬にえさをやるような感覚なのかもしれない。この人が俺にその体を与えるのは。
それでもいい。飢えて何をするか分からないケダモノは、きっと簡単に人以外の何かに成り下がる。一応はまだ上忍でいたほうがこの人にとってもいいんだろう。
それに…その理由が愛じゃなくても、少なくともこの人は俺を簡単に捨てたりはしない。
ゴミの不法投棄は許さないみたいな感じ?ま、それでもいいんだけど。
恋だの愛だのはわからない。始めてあったときからこの人が俺のものであるとしか思えないだけだから。
でもそれがおかしいって事くらいは俺にも分かる。だからこそ、愛読書にある少しずつ口説くっていうまだるっこしい手段を実行していた。
どこまでも健全なこの人をみていれば、少しくらいはまともになれるってもんだ。
それがいつまで保つかと問われれば、薄氷の上に立ってるくらい、なんだけど。
寂しい。欲しい。どうしよう。
なんとなく落ち込んで畳の目を見ていたら、深い深い溜息が聞こえてきた。
「だから。アンタ男がそう簡単に泣くんじゃありませんよ…」
手招きされて飛びつくように側に寄った。
ああどうしよう。触れたい。でもきっと触れたら全部食べてしまう。
「イルカせんせ」
頬を伝うものが何かなんて気付かなかったのに、イルカ先生が拭ってくれるととてつもなく幸せな気分になる。
やさしくて暖かい手。俺だけの。
「もうちょっとだけ、我慢しなさい。…そうしたらクリスマスも一緒にいられますよ?」
クリスマス。よく分からない行事だ。大抵付きまとってくる女たちから一緒にいてだのなんだのと言われるあの日。
でも、その日をこの人と過ごせるといわれたら、俺はSランク任務を受けたっていい。
きっと独り占めできるにちがいないんだもの!
「いい子に、してます」
どこまで我慢できるか自信はないけど。
…この人がこれから構ってくれるなら我慢できる。
また畳の上でひざを抱えてちょっとだけ距離を取ってみたら、イルカ先生が苦しそうに笑った。
「アンタがそのしんどい泣き方しないようになるまでは捨てないから安心しなさい」
酷い。なにそれ。しんどい泣き方ってなんだかわからないけど、ちゃんと覚えておかないと捨てられちゃうってこと?
嬉しいのに苦しくてまた涙を零したら、そっと撫でてくれた。
そんなものよりアンタの全部が欲しいと叫び出しそうなのを押さえこんで、もっとかわいそうなイキモノになれたらいいのにと思った。
…この人の全部を独り占めできるイキモノに。


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適当。
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