眠気に負けそうだ。 ここで眠ったらどうなるかなんてわかってるってのに。 「うぅぅぅ…」 うなり声ともうめき声ともつかぬものをあげながら、くずおれそうになる体を立て直そうとしたというのに、巻きつくように伸ばされた手にあっさり捕まってしまった。 「なぁに?眠いの?むずかっちゃってかわいー」 男の腕は温かい。 …たとえそれがこれから暴虐の限りを尽くそうとしているとしても。 「しない」 「えー?それは無理でしょ?据え膳だし」 勝手に家に上がりこんでいたときから覚悟はしていた。 だがこうもうれしそうに笑われると癪に障るなんてもんじゃない。 そもそもだ。ここは俺の家で、俺がどうくつろいでいようと誰にも文句を言われる筋合いはない。 疲れて帰ってきて風呂に入って出てきたら、コタツで勝手にみかん食べてたんだぞこいつは。 勝手に上がりこむような男に、出てけと言っても無駄なのは良く分かっている。 最初からしてそうだった。 夏の終わりに汗みずくで家に帰ってきて、一っ風呂浴びてから飯を食おうとしたら、こいつがいた。 知り合いの上忍という程度の認識だった男の目的なんて、そのときの俺には分からなかった。 分からなかったから、何かあったのかと水を向けたし、麦茶ともらい物の水羊羹まで出して、めったに入れないクーラーだって入れた。 …その結果がこれだ。 水羊羹は全てが終わった後男の手により俺の口に収まったが、その前が最悪だ。 無言だぞ?無言でいきなり距離を詰めてくる相手なんて普通に焦るだろ? それがそのまま畳に引き倒されて、術か毒かそれともなんらかの嫌疑でもかかっているのかと慌てたときには、男の薄い唇で口を塞がれていた。 戸惑っている間に自分の怒声はあえぎ声に変えられ、無様に足を開かされて揺れる己のつま先を見上げる羽目になっていた。 終わった後もしれっとしたもので、ごちそうさまなんていいやがった。 叩き出そうにも足腰はぐにゃぐにゃと骨が溶けたんじゃないかってくらい言うことを利かず、結局それからこうして勝手に上がりこむ男に好きにされ続けている。 「お布団がいーい?こたつでしたいんだけど」 「やだ。しない」 「そ?じゃお布団で」 譲歩しているつもりらしいが、結局やられることは決定しているので嬉しくもなんともない。 …大体こたつでなんて冬になってからなんどやられたことか。 怒鳴りつけたら汚れたこたつ布団をせっせと洗うだけマシだろうか。 洗い立てだからしましょうとか言い出すから収支はむしろマイナスだが。 「なにが楽しいんだかな…」 呟きに答えるように男がにんまりと笑う。 「だってねぇ?アンタが俺の飲み込んで、あんあんいいながらすがってくれるんだもの」 楽しいに決まってるでしょ、なんて最低の台詞を吐いて。 卑猥な台詞を涼しい顔で言える辺りが上忍ってことなのか、それともコイツがただ単に変態ってことなのか。 どっちにしろ餌食にされることには変わりがないということだけははっきりしている。 「変態」 「そ?」 罵ってもまるで堪えた風じゃない。…いい加減なれたけどな。 狭くスプリングが軋んでいたベッドを、やわらかく広い寝床に整えたのもこの男だ。そこだけじゃない。家中いつの間にか変えられてしまっている。 一つだけ変わっていないものがあっても、永遠に告げることはないだろう。 生ぬるく居心地のいい…この男の巣に成り果てたここから、男が出て行くまでは。 「欲しいものは全部貰うから」 …絶対に言ってやらない。好きだなんて。 「やらねーよ」 小さな抗議はキスに飲まれて消えて、そのまま奪い取られることを受け入れた。 いつかなりふり構わず欲しがる日がきたら、そのときは。 …ほんの少しだけ考えてみようかと思いながら。 ********************************************************************************* 適当。 かみ合わない愛の言葉とか行為とか。 ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー! |