狩るものと狩られるもの。 …運命は最初から決まっていたのかもしれない。 「ね?」 「嫌です」 断った所で無駄なのは良く分かっていた。 追い詰められてもはや逃げるに逃げられないこの状況で、たかが俺の言葉位で退くわけがないだろう。 「だって。いいって言ったじゃない」 言われると思った。 …この人にとっては、俺の言葉の正確な意味よりも、自分にとって有利かどうかしか問題にならないらしい。 「いいとは言いました。でもそれは…」 「そ?じゃ、行きましょ?俺の家でいいよね?それともその手の宿のが好き?」 俺はああいう所は落ち着かないんだけどと一人ごとともつかぬ台詞を吐いて、少し考え込むような素振りを見せた。 場所が問題なんじゃない。やることが問題なんだ。 「だから。俺は今晩付き合うのはかまいませんが、それは飯です。後はまあ酒なら。それ以外は御免こうむります」 キッパリ断ったのは何度目だろう。 交わしてもそこが隙に見えるのか、攻めたてるのをやめないこの人には小手先だけじゃ誤魔化せない。 …断った所で諦めるわけでもなく、次の手がまっているだけなんだが。 「ふぅん?じゃ、ご飯食べましょ?俺の家に今丁度いい酒が」 判断に迷う内容だ。 はいはい頷いて馬鹿正直についていっら、食われる可能性を否定できない。 何せこの男にとって俺はただの獲物に過ぎないのだから。 「…飯だけなら」 俺は中忍だ。そしてこの男は上忍。 歴然とした階級差が二人の間には横たわっている。 同じ所など性別位のものだが、それすらもものともせずにこうして何度もちょっかいをかけてくる辺り、やはりまるで俺とは違うイキモノなのだろう。 本人がそれを知ってか知らずか、その差異を見せ付けるような行動ばかり取るもんだから、この所理解しようとするのを諦めつつある。 食われるだけの獲物になどなりたくも、なるつもりもない。断じて。 断らなかった理由は一つだけ。…この男が必死だったからだ。 「がんばって作りますねー?」 「飯は頂きますが、他の物はいりませんからね」 念を押しておいた。一服盛られたら中忍の耐性じゃひとたまりもない。一応平均よりはずっと耐性をつけているつもりだが、この男とは比較にならないだろう。 「はいもちろん。…モノはね」 含みのある言葉は神経を逆なでする。そしてそれに反応してまた男のちょっかいが増えるから始末に終えない。 「行きますか」 「ええ」 にこにこと笑う男の隣を歩きながら、出来るだけ表情を消した。 ちょっかいをかけてくるのは、この男だけで十分だ。 ***** 「おなか一杯ですか?」 「一杯です…も、くるし…!」 手作りだという飯はめちゃくちゃ美味かった。そして食いすぎた。 「よかった」 笑顔が穏やか過ぎて、出会ってから長いこと俺を付けねらっているというのに、常ながらそのことを忘れてしまう。 この子犬のような瞳が曲者だ。庇護を求めているように振舞いながら、その実支配しようと狙っている。 流石上忍とでも言ってやればいいんだろうが、毎度の事ながらこうして素直に喜ばれるとどうしてもつっぱねることができない。 しっかりしろ!うみのイルカ!この人は…この人は。 「なにが、よかったんでしょう?」 「んー?泊まっていって?」 そうきたか。…本当に何が楽しいんだろう。 「いいえ。歩けますし家もそう遠くありませんから結構です」 家に泊まるなんて、下手したら同意したと思われかねない。別にねるだけならいいんだが、この人としたくなんてないんだよ。俺は。 「つまんなーい。ま、いいけど」 こうして曖昧な関係でいる方がいいんだ。勝手にどっかにいっちまうイキモノなんて、捕まえる気にもなれない。 きっと縛り上げても首輪をつけても、全部を振り捨てて…俺をおいていくんだから。 「じゃあ。ごちそうさまでした」 「んー?でもだめ。今晩は」 「は?」 絡みつく腕が暖かい。冷え切っているだろう外にこれから出て行くのに辛くなるじゃないか。家で、一人ですごさなきゃならないのに、寒さで凍えちまうだろうが。 「あのね。ちょうだいっていうのはやめました。だから、上げます」 降って来た口付けは驚くほど甘く、眩暈がするほどの幸福感まで連れてきて立っていられるのが不思議なくらいだ。 まあそれは男が腰を抑えているせいなんだが。 「いら、な…い…!」 受け取ったら駄目だ。自分のモノになってしまったら、絶対に手放せないのに。 「んー?それはだめです。だから」 諦めて俺に囚われてくださいよ。 そう笑う男の方がずっと、俺を。 「うそつき」 泣きながら噛み付いて詰る俺に、男が零すくすくす笑いが吹き込まれ、そして。 「これで両思いですね」 これ以上ないほどに幸せそうに囁く男が憎らしくてならなかった。 ********************************************************************************* 適当。 狩りに(`ФωФ') カッ!行って参ります(`ФωФ') カッ! ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー! |