いただきます(適当)



これまで比較的金には不自由しない生活を送ってきたものの、欲しいものなんて特になかった。
…んだけど。
「カカシさん?どうしちまったんですか。箸とまってますよ?」
それがどうしてか欲しくてたまらないものが出来て、それが男で同性でというかそもそも人間ってどうなのよ。
「あーいえ。おいしそうに食べるなぁって」
精一杯の笑顔でそういうと、途端に照れたように鼻傷を掻くしぐさも好きだ。
ほっぺたなんて真っ赤でつやつやで。
…食べたいなぁ。
や、この人人間なんだけどね。男なんだけどね。分かってるはずなんだけどね。
でも欲しいんだもん。全部。
「すみませんがっついて。腹へってたんでつい…!」
「いーえ。お陰で食事が楽しいです」
美味そうに食ってるのを見るだけで、同じものなのに美味い気がしてくるから不思議だ。
ただそれを軽く凌駕する勢いでこの人が欲しいって気持ちが暴れだすから箸が止まっただけで、心配させちゃうようなことはなにもない。…ま、ある意味心配っていうか、この人の想像もつかないことばっかり考えちゃいるけど。
うなじの後れ毛に触れてそのまま口付けたいとか、今チキンカツを放り込んだその口に別のものを突っ込みたいとか。
「カカシさんもほら、食べてくださいよ。ここの日替わり美味いんですよ!」
「そうですね」
普段それほど食に煩悩する方じゃないが、この人の勧める物は素直に美味いと思う。
多分この人は食うのが好きで、食べる時の雰囲気もいい。いつも笑っていて、すごい勢いで食べてるのに合間にちょこちょこ美味しいとかこれがお勧めだとか教えてくれる。
どこまでも俺とは間逆の人だ。
飯なんて腹が膨れることすら前提にしていない。
体を動かせるだけのエネルギーになって、体調を崩さなければそれでいい。食いすぎるととっさのときに動けないから、腹いっぱい食うなんて経験はそれこそ中忍になりたての頃位しかない気がする。
食べさせたがりの師がいなくなってしまってからは特に、食事より術や戦略を学ぶのに忙しくて禄に飯を食った記憶がない。
そうして本当に久しぶりに何かをおいしそうだと思ったのがこの人だった。
どうかしてる。それは分かってる。
ま、だからって諦める気もないんだけど。
降って湧いた感情を持て余していたのは一瞬で、後はどうやってこの人を捕まえるかで一杯になった。
その点忍稼業が長くやってて良かったと思う。
…この人を追い詰める方法なら死ぬほど湧いて出てくるから。
「腹減ったなぁ」
ああ、食べたい。
快感で歪む顔を見たい。その腕で縋られたらどんなにか気持ちいいだろう。この人の中に入り込めたら…。
「ならほら、たくさん食べてください!ほらなんだったら追加しますよ!ここのは小鉢も美味くて…!」
一生懸命口を動かしながらそんなこというから、頭の中は不埒な妄想で一杯だ。
うーん。やっぱりそろそろ限界かなー。
「いえ、アナタがおいしそうなので」
「へ?…え!?」
これ以上なく真っ赤に染まった顔は…どうやら嫌じゃなさそうだ。恥ずかしそうだけど。
…ひょっとして、脈有かも?
にっこり笑うとつられた様に笑って戸惑っている。そのくせおろおろと視線を泳がせているのだからたまらない。
ま、そろそろ我慢できなくなってきてたし。いいよね?
そう独り決めして、とりあえずは唇から頂くことにしたのだった。

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適当。
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