うそ(適当)



「殺せ」
「嫌だね」
ああなんて殺伐とした会話なんだろう。こんなのつまんないんだけど。
…折角惚れた相手と一緒にいるっていうのに。
「ならどうする気ですか。俺はやってない!」
食われそうに鋭い視線が心地良い。
里を抜けた中忍がいると、そしてそれがこの人だと聞いて、そんなことは予想できていた。
己の身の潔白を証明するためか、それともそれすらも嵌められたのか、里を出た段階で追い忍がかけられたのは当然の処置ではある。
ま、だから俺が立候補したんだけどね。
企てたのが誰かなんてのもある程度予想がつく。
俺が行くと行っただけでにやにやしてた連中がいたから。
この人と派手にやり合って以降、犬猿の仲だと思い込まれている節がある。
その後でその思い切りの良さがおもしろくて俺が付きまとって、何とか友達以上恋人未満までこぎつけた…なんて、想像もできなかったらしい。
そう。それなのに。折角ここまで打ち解けてもらえたのに何て迷惑な。
「さっさとケリをつけてくれ。…利用される気はない。アンタだって分かるでしょう」
どうやら一人で勝手に悲壮な覚悟を決めているらしい。相変わらず思い切りが良すぎる人だ。下手するとこのまま自刃しかねない。
「はいはい。だーめ。…アンタが嵌められたってことくらいわかりますよ」
追い忍に俺が立候補した時点で上層部はすぐに気づいた。それ以外にも不審な点は多すぎて笑い出しそうなほどで、証拠をぼろぼろのこした連中は、今拷問尋問部にでも放り込まれているだろう。
「え!」
うーん。ここで驚かれるとは。
「あのね。俺一応上忍なんです。あんなうそ臭いでっち上げに引っかかると思います?」
この人が他里と連絡を取り合っていたという証拠として提出された巻物。確かに筆跡はそこそこ似ていた。でもねぇ。この人はあんな風に分かり辛い説明しないのよね。
文章にも癖は出る。暗号の組み方からなにからなにまで、全部がこの人とは違っていた。詳しく分析すれば裏なんて簡単に取れる。
いつ作られたかがわかるだけでも、何せこの所の俺はこの人のストーカーみたいなもんだったから、そのときに何が行われていたかなんてすぐ証明できる訳だ。
「じゃ、あ…あの子達は!無事なんですか!?」
「えーっと?もしかして人質?」
ま、あいつら全員俺が部屋出る前に拘束されてたから大丈夫だと思うけど、残党がいたら面倒か。
「…くそ!里に…戻ったら戻ったで…!」
「ちょっとどうしたの?」
「里を出ろと。戻ればアカデミー生を狙うと脅されました」
泣きそうな顔がおいしそう…ってのは置いといて、この証言は十分証拠になる。
問題は…このまま戻ればいいだけかと思ったけど、この分だと術か?
「じゃ、ちょっとじっとしてて」
「は、はい」
触れながらチャクラを探る。…指先が触れるだけで緊張したが、この人に葉気づかれなかっただろう。真剣な上忍の演技は完璧のはずだ。
惚れた相手に触れられることに興奮している。
それを悟られない程度には忍でいられることに感謝した。
「あった」
目に見えない何かから感じる違和感。この人のものではありえないチャクラを見つけて自分でも驚くほど苛立った。
この人は俺のものなのに、勝手なもの貼り付けやがって。
力任せに自分のチャクラを流し込めば、はぜるように張り付いたものが消えたのがわかった。
「あ…!」
その瞬間。零れた声が艶めいて聞こえたのはよこしまな思いのせいだろうか。
「いきましょ?」
捉えた中にこのチャクラの持ち主がいたはずだ。
連中が首尾よく吐いていればいいが、万が一逃げられていたら…俺はいいけどこの人が泣くような事態になるのは困る。
「はい」
焦りにまじるそれは羞恥だろうか。うっすらと赤いままの頬に心臓が騒ぐ。
だめだめ!これから帰んなきゃいけないんだから!
こらえ性のない下半身に叱咤しつつ、駆け出した。
コレで少しはこの人の近くにいけたらいいのにとろくでなしの考えをめぐらせながら。
*****
「片付いたよ」
あっさりと告げられて一番ホッとしたのは俺かもしれない。
里に着くまでの距離はそうたいしたものじゃなかったはずなのに、酷く遠く感じた。そのまま連れ込んでどうこうしたいなんて欲求を押し殺すのが精一杯で、ほぼ無言で駆け抜ける羽目になった。
沈痛な面持ちで駆けるこの人は気づかなかったみたいだけど。
「そうですか」
「よかった…!」
泣き出しそうな声。…この人らしい。
側にいる俺のことなんて少しも考えてなかったかも?それはそれで寂しいけど、そういうところに惚れたんだから焦れる心は押さえつけるほかない。
「うみのはこっちにおいで」
「処分なら、いかようにも」
「全く無茶してんじゃないよ!」
あ、殴られ…一応手加減はしてるな。本気なら頭ふっとんでてもおかしくない。
俺の大切な人になんてことしてくれるんだ!
「ちょっと…!」
「お前の才覚ならあいつら誤魔化して式送るくらいできただろう!…一人で無茶して…馬鹿やってんじゃないよ」
「う、ぅぅ…すみま…せ…」
何とか持ちこたえたみたいだけど、とっさに抱え込んでいた。
この乳婆!何すんのほんとに!
「ちょっと!綱手様!」
「なんだい?そういう訳か。どうりで出不精のお前が…ははーん?」
嫌な笑みだ。女ってのはどうしてこうなんだろう。これ見よがしに恥らうくせにあけすけで、他人の事情に首を突っ込みすぎる。
「そういう訳です。治療を」
言外に脅すまでもなく、暖かい光を宿した手が抱きしめている人に触れて、すぐに不思議そうな顔で自分の状況を見て、あっという間に真っ赤になった。
「あの!すみません!離し…あ、綱手様ありがとうございます!」
うーん見事な混乱具合。
さて、どうしてくれよう。
「今日明日は休みだよ。さっさと帰えんな!」
「え!?」
「じゃ、俺も休暇下さい」
「お前の任務はソイツの護衛だ。…何やっててもいいが、やりすぎで証言内容忘れさせたりはするんじゃないよ!」
「はーい」
「やりす?え?え?」
「じゃ、また明後日にでも」
犬のように追い散らされても腹は立たなかった。
…俺だってご褒美貰っていいはずでしょ?
「ね、イルカせんせ。俺の家でいいですか?」
「へ?ええ、あの?ああ、はい?」
同意とは言いがたいけどもういいや。この人をどうにかして俺に繋ぎとめておかないと。
にっこり笑って捕まえて、ついでに担ぎ上げた重みを楽しんだ。
これからこの人といちゃいちゃして、余計なことなんて少しも考えられなくしちゃうんだから。
釣られて笑っている思い人に、極上の笑みを見せておいた。
ちゃんとあと少しだけ油断しておいてもらうために。

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適当。
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