風邪と取引(適当)

風邪を引いた上忍なんてものを見る日が来るとは思っても見なかった。
確かにしょっちゅうチャクラぎれで倒れはするが、他は俺が昏倒しそうなレベルの毒を受けても飄々と飯を食ってたりするから、見た目よりずっと丈夫なんだと思っていたのに。
「イルカせんせ…」
布団から出してもらえないのだ。
離れたら死ぬとばかりに延々と俺にしがみ付いて、おかげで飯を食わせてやるのも一苦労だ。
風邪を引いて心細くなるってのはわかるが、この男の場合は度が過ぎている。
「飯、食わないと治んないでしょうが」
朝飯もどうにかこうにか宥めてすかして、その腕から逃れたのだ。
…熱で朦朧としてもなお俺をねじ伏せられる強さの腕にいくばくかの悔しさを感じながら。
きっとつかまればまた離してもらえないだろう。
それを見越して昼も夜もすぐに作れるようにざっと支度はしてある。
そもそも風邪っぴきがいるのにそうたいしたものは作れない。
消化にいいものっていったら、たまごとそれからねぎをしこたまつっこんだうどんとか、具をとにかく細かく刻んでまぜるおじやか、あとは最近教えてもらったスープに春雨突っ込んで適当に煮る程度のものしか思いつかなかったんだけどな。
とにかくそんなに手のかからないものだというのに、その間さえ離れるのを嫌がる男のおかげでそれすらもできないでいる。
「飯なんてどうでもいいもん。イルカ先生がどっかいっちゃう方がいや」
だから当然そばにいるべきだと主張されて、しかもこんなときにも実力差を感じる馬鹿力に押されているのが腹立たしい。
「どうでもいいわけあるか!とっとと治せ!」
涙目で縋る生き物を足蹴にするのはちょっと…いや大分心が痛んだような気がするが、それよりも僅かとはいえ溜飲が下がった方が大きかった。
「ひどいー具合悪いのに…!」
「飯食って、それからなら好きなだけくっついてりゃいいでしょうが!」
怒鳴りつけた途端、男はぱぁっと顔を輝かせて、「なら待ってます!」なんていってあっさり離れた。
なんなんだもうこのイキモノ!
「最初からそうすりゃいいでしょうが…ったく!いいですか!ちゃんと食って、そしたらしっかり寝てとっとと治すんですよ!」
「はぁい!」
イイ子の返事にまで憤りを覚えながら台所に急いだ俺は、好きなだけくっつくって単語が、まさか風邪が治ってからもずっとだなんで想像しもしなかった。
…その後、風邪が治ったというのにいつまでたっても離れる様子のない男を、周囲がそういうものだと諦めるまで数日しかかからなかった。
つくづく上忍は特だ。奇行すらあっさりと受け入れられる。
俺はといえば、問い詰めて男の自慢げな主張に脱力したものの、今に到るまで諦めてはいない。
だから、今はこう主張することにしているのだ。
「俺の方がくっついてるんです。決してこの人に負けたわけじゃありません」ってな?



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適当!
ばかっぷる。
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