おにぎり(適当)


「ねぇ。食べないの?」
美味そうな握り飯をちらつかせて、見知らぬ男…いや、俺とそう年のかわらなそうな子どもがこっちを見ている。
その手になんて乗るもんか!
食い物に釣られて酷い目にあった連中なんていくらでもいる。
おもちゃにされたり囮にされたり…そういう奴らはもう一度その姿を見ることなんて殆どなくて、良くて息をしてない状態で転がっているのを見るのがせいぜいだった。
それか、完全に壊れたか。
空ろな目で虚空を見つめる姿は、命を断たれるよりもずっと恐ろしかった。
意思を失い、ただそこにいるだけになったヤツの末路なんて、想像しなくても分かる。
俺にできるのはそうならないように、使い捨てにされても生き延びるだけのすばしっこさを磨き上げて、どんなに腹が減っても冷静に相手を見極めて逃げ切ることだけだ。
コイツは、チビだけど早そうだ。
それにこの黒い服と面を、俺は知ってる。
すごく強くて、多分だけどえらいはずだ。
でもあんまり俺たちみたいなのに興味があるヤツはいなくて、せいぜい冷たい目で品定めするみたいにみられたことがあるくらいで、見かけてもモノみたいな扱いしかされない。
まあそれはどこでも一緒なんだけど。
里がぐちゃぐちゃになって、俺たちみたいな中途半端な下忍たちの扱いは両極端になった。
里の未来だと守ろうとしてくれる人もいれば、役立たずのゴミだと使い捨てにしようとするやつらもいる。
コイツは、どっちだろう。
自分もチビのくせして、食い物分けるなんて馬鹿なヤツが、この服を着た連中の中にいるだろうか。
トラップの餌になれっていうなら、そう言ってくれればいい。眠り薬入りの飯が最後の食事なんてオチはもうこりごりだ。
ガキでなにもできないからこそ、逃げ切る術はいくらでもある。敵が側にいるのに雑魚をいたぶるほど敵だってヒマじゃないから、上手く立ち回ってなんとか生き延びてきた。
もう何人も仲間はいなくなってしまったけれど。
「ありがとうございます」
とりあえず受け取っておいた。
それで満足していなくなってくれればいいと思っただけなんだけど、横に突っ立ったまま俺を見下ろすこいつはどうやら食うまで動きそうにない。
さて、どうするか。美味そうな匂いがして、毒の気配もない。単に俺の感じ取れないタイプのものかもしれないけど。
一口だけで死にいたる薬なんていくらでもある。でも、この場合、逃げようがないのも事実だ。
殺気は感じないし、食っておいた方がマシな気がしたから、俺は腹を決めてその握り飯を頬張った。
「うめぇ…」
「良かった。あんたここで食事しないんだもん。チビのまんまじゃ困るでしょ?」
それをお前が言うなといいたかったけど、やめておいた。背があんまりかわらなくても、コイツは多分指一本で俺を殺せる。
食ったもんに何が入ってるかわかんないのにそう簡単に口にしたくないだけだ。…なんていったらこの男が何をするか予想できなかった。
「ご馳走様です」
話すのも怖くてあっという間に食べおえて、ぺこりと頭を下げた。
見た目は穏やかそうな雰囲気のままだけど、できればさっさと里に帰りたい。
この子どもは…なんだかしらないけど怖い。
「ちゃんと、食べて。…それからさ、名前教えてよ」
「うみの、イルカ。下忍です」
名前なんて聞かれるのは初めてかもしれない。
下忍の一人ってだけで、一々固体認識なんてしてないもんな。みんな。
「俺ね、カカシっていうの。…それで、あのさ。あのね?」
「はい」
もじもじする暗部って始めてみた。なんだろコイツ。…笑っても殺されないだろうか。
「お友達になってくださいって言ったら、笑う?」
「へ?」
俺の耳が壊れたんだろうか。今信じられない言葉を聞いたような…?
友達?暗部で初対面で顔も知らないこいつと?
「っていうか、好きです!」
「はぁ!?」
意味が、わからない。
とりあえずいきなり抱きついてきたこの馬鹿が性別を間違えてるんじゃないってことは、くっつきあった股間に同時もしなかったから分かったけど、コイツがおかしいってコトには代わりがないから、なんの救いにもならなかった。
「あの、お友達からお願いします!」
「えーっと。俺、男です。あとこれ、何の作戦ですか?」
こんな頭の悪い事を言い出すヤツが暗部でいいんだろうか。そもそも十中八九作戦じゃないだろうけど。目的がわかんないし。
「作戦じゃないの!だって食べてないんだもん気になるじゃない!」
なんかもう全体的におかしいんだけど、俺もなんだか何をいったらいいかわかんなくなってきた。
「アンタのがやせてんだろうが!」
「え!やだ。気にしてくれるの?」
「何で喜ぶんだよそこで!」
「だって好きなんだもん!」
「なんでえらそうなんだー!」
…で、結局大騒ぎしすぎて、驚くことにコイツの部下の方が謝りにくるなんて椿事があったわけだけど。
つーかなんであんなのが隊長なんだよ!世の中おかしいだろ!
「ねぇねぇ。そろそろお友達から卒業したい!」
「お友達にすらなったおぼえはねえ!」
…今に到るまで付き合わされて、気付けば俺ももう中忍。なんだかんだと食わせようとするこいつにも食わせ返してたらあっという間にそろってでっかくなっていた。
「ねぇ。でも好き。大好き」
「それで何でも許されると思うなよ!」
なんだかんだとほだされている自覚はある。あるんだが。
「イルカに入れたい!本もちゃんと読んだから…!」
「何で大声で言うんだそういうことを!」
コイツがもうちょっと馬鹿を卒業したら相手してやってもいいんだけどな…。
そんなこといったら調子に乗りそうだから言わないけど。
「好き」
「うるせー。黙って食え」
「…ちぇっ!つれないの!酷イルカ!」
「うるせー!バカカシ!」
こうしてじゃれあうのは、正直言って楽しい。でも…瞳の奥でちらつく炎が濃くなっているのも知っている。多分、俺のも。
…一生治りそうにない馬鹿を諦めてやる日は、実はすぐそこまで着ているのかもしれない。


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適当。
思春期ふうみ。
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