不治の病をこじらせて(適当)



「好きにして?」
男はそう言ってころりと年季が入った上に安普請な俺の部屋のベッドの上に転がった。
場違いだ。
器量よしというか、覆面をとれば驚くほどの美丈夫でしかも妙に懐っこい。勝手によく遊びに…文字通り俺をからかって遊ぶためにきてはいたんだが、流石にここまで意味不明な行動をとったのは今日だけだ。
それにしてもこの違和感と来たら!
ボロっちい我が家がよりいっそうあばら家染みて見えてくるのが悲しい。
それにそんなこと言われてもどうしろってんだ?
「あ、の?」
「あれ?駄目だった?」
駄目だったも何も、何を求められているのか皆目見当がつかない。
今日も今日とてアカデミーでかわいいやんちゃたちの面倒を見て、受付所でかわいげのない態度のでかい上忍や、これまたやんちゃな元生徒たちの報告書を捌きつつ、巨乳過ぎて直視しがたい五代目に拝み倒されて溜まった書類の整理も引き受け、やっと帰れると思ったらラーメンを食いたくなったのに偶々運悪く定休日で、腹が減って悲しい気持ちで家に帰りついたってのに、待っていたのは更なる厄介事だ。
どうなってんだ。俺の人生。
せめて空腹を満たそうと立ち寄ったコンビニがまさかのたな卸しで、今手元にある食料といえば、兵糧丸を除けばあまりの俺の落胆振りを見かねた店員さんが分けてくれたアンパン一個しかない。
だがしかしコイツは一応は上忍である訳で、茶請けの類は切らしているし、酒だって料理に使うような安酒しかないってことは、その貴重な最後の食料である所のアンパンは、俺の口に入らなくなるってことなんじゃないだろうか。
ひもじさは悲しさと空しさを連れて来るよなぁと思いつつ、食えなかったラーメンまで思い出してしまい、しょんぼりしながら茶を入れる準備をする。
ヤカンに水をたっぷり入れて火にかけて、沸かしている間に茶葉を量る。
その間、上忍はのびのびと俺のベッドに転がったまま、奇妙なポーズをとってみせつつ、どれがいいですかとか意味のわからん質問を投げかけてきて、俺の疲労と困惑を深くする。
なんだよもう。好きにしてとか!
「茶飲んだら帰ってくださいよ?」
「えー?」
「何のお遊びか知りませんが、俺は付き合いきれません」
暢気に好きにしてなんていいやがって、後で思い知らせてやろうか。
…まああっさり返り討ちになって終わっちまうんだろうけどな。出世は望んじゃいないが、犬死をしたいわけでもない。
ここは大人しくしておいて、さっさとお引取り願うべきだろう。
「しょうがないなぁ。強姦はしたくなかったんだけど」
「は?」
「その気になってくれたら和姦だったのに…」
「へ?」
酷く残念そうにいう割には、男の顔は笑っており、だがしかしその瞳には剣呑な光が宿っていた。
ごうかん。ごうかんって、あの強姦か?いやいやいやいや。俺は男。この人も男。それにそんな素振り一度も見せたことなかったじゃないか。
「じゃ、いっただっき…」
「帰れ。下らねぇうそつくんじゃねぇ」
真顔になるくらいは許して欲しい。
ずっと長いこと片思いをこじらせて、この甘ったれたイキモノがうちにくるのは気まぐれなんだから慣れちゃ駄目だと言い聞かせてもう3年。
いっそどうにかしてやろうかと思い悩んでもう3年。
…長かった日々がこうして下らない冗談で終わるってのも俺らしいか。
「ウソじゃないし、今すぐあんたを食べたいの」
「うそだ。帰れ」
「じゃ、体で証明ね?」
今度こそ綺麗にそれはもう楽しそうに笑った男に押し倒されて、呆然としているうちにあれよあれよと全部綺麗さっぱり食われちまったのは…やっぱり俺がぼんやりしすぎているんだろうか。


「なんでだ…」
空腹で淫行に励んだ結果、全身のダメージは凄まじく、使ったことのない筋肉が引きつり、あらぬ所は熱を持って疼きとじりじりとした痛みを連れて来る。
「和姦に出来てよかったです」
「いやいやいや。好きとかそういうんでもなしに体だけとかふしだらな…!」
「大丈夫。一生愛しぬきます。ま、どれだけ生きるかって言うとちょっと自信ないんですけど」
「なんだと!生きろ!死ぬなんて許さねぇ!」
「情熱的…!」
あれ?何で俺は朝っぱらからガッタガタの体抱えてキスされてんだ?え?
「なんでこうなった」
呆然と呟く俺に、キスの雨が降り注ぐ。
「そりゃ当然。愛しあってるからでしょ?」


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適当。
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