「はい脱いでー?」 「なんで!いる!?」 「え?なんでって…なんででしょう?」 にっこり笑って聞かれても、聞きたいのはこっちだってんだ! しかも抵抗空しくいつの間にやら上衣は脱がされ、素っ裸にされる寸前に突き放したものの、下も半分脱がされかかってるというか!なんなんだこの手の速さは! おかしい。この男は任務のはずだ。 予定表も確認したし、白状するなら俺がちょこーっとだけ、その、受付の特権を行使して、ちょっと長めで難易度はそこそこ高いがこの人なら無理なく終えられるものを選んでおいた。…はず、なんだ。 受付スマイルと同僚への懇願と残業も引き受けたりして、やっとこさっとこやり遂げたってのに、どうしてここにいるんだこの男は? 「か、帰れ!」 「随分なご挨拶ですねー?アンタの返事を貰うまで帰りません」 キッパリと言い切って、再び男が距離を詰めてくる。 それをしたくないからほとぼりが冷めるまで遠くに行ってもらって、ついでに俺も隠れようと思っていたところだったのに。 俺んちの鍵なんか渡した覚えはないし、窓からでも入ってきたんだろう。 逃げるなら俺も窓から…といきたいとこだが、寝室の窓を背に詰め寄ってくる男を出し抜くのは難しい。 どうする?どうしたらいい? …そもそもどうしてこんなコトになったんだ。俺はただ、普通に暮らしていたかっただけなのに。 「返事なんて、そんなの…!」 「ま、体で教えてもらうんで、言いづらかったら無理しなくていいですよー?」 「その場で、断ったじゃないか!無理ですって!アンタの耳は飾りか!」 確かナルトからは犬より凄いんだと聞かされた覚えがあるというのに、ご自慢の聴覚は、俺の声を聞き取れても理解する気はないらしい。 好きだと言われた。明日までに返事をなんて無茶なことまで言われた。 …だから大急ぎで断った。 この男と過ごすのはたのしかったけど、そういう意味ならごめんだ。 ただの友達でいい。友達がいい。 意外と優しくて、時々天然っぽく抜けてるところもあって、案外表情豊かで、女にモテすぎるほどモテて、しょっちゅうとんでもない任務に出かけては怪我した上にチャクラ切れまで起こして俺の家に転がり込んでくる。 楽しいだけじゃだめだ。恐怖やスリルなんてものは、日常にはいらないもんなんだよ。 それでなくても不安な子どもの心配をしない日はないというのに、この上更に厄介事を抱え込んだりなんかしたら、俺は潰れてしまうだろう。 日常で重要なのは平和と安定。任務以外で不安や心配なんて抱えてたら気が狂う。 こんな男と惚れた晴れたなんて御免蒙る。絶対に。 「ま、返事っていうか、体に聞きますけどねー?」 「そんなの、おかしいだろ!」 「だぁーって。イルカ先生はウソツキだからね?それに無理って返事はないでしょ?俺が聞きたいのはYesかNoかだけ」 「じゃ、じゃあNoって言えば帰るんだろ!もう帰ってくれ…!」 これ以上期待させるな。手に入るかもしれないと言われたら、手を伸ばしたくなってしまうから。 大切なモノが増えることはいつだって恐ろしくて、だからこそこれ以上抱え込むものは増やさないと決めたんだ。 いつか誰かに奪われるくらいなら、最初から要らないんだよ。 「ヤでーすよーだ」 「なんで!」 「だってイルカ先生はウソツキなんだもん。そんなにかわいい顔していやなんていっても無理ってモンでしょ?」 好き勝手言ってくれた上に、俺を脱がすのを諦めたのか、男の方が服を脱ぎ捨て始めた。相変わらずうらやましいほど整った顔に、鍛え上げられているのにぶくぶく筋肉太りしていない体が繋がっていて、手足も長くて、こんな男、誰でも欲しがるだろうと苛立った。 自分だけのモノじゃないならいらない。一人になった時そう決めた。 だから俺は何かを貰うのは好きだけど、借りるのは嫌いで、こんな男、一瞬だってそういう意味で側においておきたくない。そもそも笑顔で近づいてきたからって、友達ならいいかもしれないと考えたのが甘かった。 この男は上忍で、俺みたいな立場のイキモノを好きなときに好きなようにできるんだから。 「帰れ。帰ってくれ」 こんな、半裸で追い出したなんて知れたら大変なコトになるだろうが、知るもんか。 俺は、もう何も失いたくない。 「そうねぇ?じゃ、そうしようかな」 あっさりそう返されて喜ぶべきはずなのに、ガツンと頭を殴られたような感じがした。 だが軋む胸には気付かないフリをした。これでよかったんだ。かたくなな中忍で遊び相手に向かない俺よりも、ずっといい相手がそこら中にいるはずなんだから。 きびすを返す姿を見たくなくて俯けば、あっという間に男の腕の中にいた。 「へ?」 「持って帰ります。ここじゃ落ち着かないんでしょ?俺も声聞きたいし」 「なっんてこといいやがる!」 普段エロ本を持ち歩いているだけあって、あからさまに色事を匂わせる言葉を躊躇いなく口にした。といっても、普段はそんなことなかったのに、これだから上忍は信用できない。 「好きです。アンタが好きだ」 「っいうな…!」 「ん。じゃ、体で証明させていただきます」 そう言って結局俺の家のベッドの上はぐちゃぐちゃのどろどろにされて、俺はもっととろとろのぐにゃぐにゃにされたのだった。 ***** 「なにすんだ。ってか何してんだ…!」 「や、もっかいしたいなーって?」 「むっむり!」 「そーですか?」 ちぇーとか言いながら一応は退いてくれたがこの状況。 風呂に入りたい。だが布団から出るのが恐い。 ケダモノがベッドの上で破廉恥にも全裸で、俺の上に乗っかっているからだ。 「うう…!」 これ以上何を言ったらいいのかわからない。一度寝ただけだと己に言い聞かすことはできるが、この男は味を占めたに違いないのだ。 好き勝手していい相手だと、簡単にどうとでもできる相手だと、この男は覚えてしまったに違いない。そうしていつか一人にするくせに、我が物顔で振舞う気なのだ。 「ちゃんと婚前交渉済ませましたよ。これでいいんでしょ?この人、誰にもやりませんよ?」 虚空に向かって勝ち誇ったように宣言しだしたから、頭でもおかしくなったのかと思った。…同じ男に懸想するなんて、それだけで十分疑わしいが、それは俺も人のことを言えないので黙っていることにした。だが、早朝から喚かれるのは困る。近所迷惑だ。 昨夜散々声を上げて拒んで暴れて啼かされたから、今更無意味なのかもしれないのだとしても。 「静かにしなさいって…!ここは壁薄…」 「えー?だってデバガメ共に宣言しとかないと!里からアンタ貰うの大変だったんですよ?権力者にもてすぎて心配!」 「は?」 「その顔もかわいーけど食っちゃいたくなるからまずは飯と風呂の支度してきますね?」 ちゅっとキスされて、なんて手の早さだと喚く間もなく男の姿はふすまの向こうに消えた…下着一丁という破廉恥極まりない格好で。 「昨日も無理っつったのに好き勝手したじゃねぇか…」 毒づく声も気付けば随分とかすれている。それが何のせいかを考えると叫びだしたくなりそうだ。 「しますよそりゃ。俺ねーイルカせんせのウソならぜーったいに見抜けますから」 さわやかな笑顔と下着一枚の姿が何一つかみ合っていないが、美味そうな飯には目をむいた。 炊き立てらしき飯に味噌汁に、おひたしに漬物までついて、しかもシャケまで一緒にいやがる。 …どっから用意したんだって質問は恐ろしいのでしないでおく。腹は減ってるんだからそれがすべてだ。 「いただきます」 「信じてませんねー?その顔。ま、いいけど」 ほうじ茶まで差し出して、ついでにベッドの上に全を乗せて男まで一緒に食い始めた。 二人して、殆どはだかで。馬鹿みたいだと思うのに。 「美味い」 それに、幸せだ。こんな一瞬かもしれないものにこんなにも。 なんだか、泣きそうだ。 「そ?よかった」 にこにこ笑う男と共に飯を平らげながら、ああもう覚悟を決めるしかないんだろうなと思った。 もう、この男からは逃れられないのだと。 …あの宣言が火影様宛てで、片恋をこじらせていたのが俺だけじゃなかった事が分かるのは翌朝のこと。 里長に朝っぱらから呼び出されて、婚姻届とやらを差し出された時のことだった。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |