土塊の宿すもの(適当)


布団の上にながながと寝そべる生き物に気づいて、愕きすぎて悲鳴も上げられなかった。
ここは俺の家で、もっと言うなら施錠もしっかりされているはずだ。
それなのにのんきに高いびきをかく生き物は、幸せそうにふにゃふにゃと笑っている。
「あんたどっから入ったんですか…」
チャクラからして本物なのは間違いない。
そもそもこんな所まで俺を狙いに入り込むやつがいたら里の警備に問題がありすぎだし、それ以前にこんな風に我が物顔でベッドの上でまどろんでいたりもしないはずだ。
この警戒心のなさは一体なんだろう。中忍だからってひど過ぎる。
つついても身じろぎ所かむしろ嬉しそうに笑うばかりだ。
「ほら、起きなさいって!」
いい加減業を煮やして肩を引っつかんで揺さぶっても、目を覚ます気配がない。
これは…流石におかしいんじゃないか?
「そりゃそうでしょう。これは夢ですから」
背後から肩に伸ばされた手の主は、ベッドの上で横たわる人とまったく同じ顔で微笑んでいた。
「夢…?」
分身にしてはおかしい。笑顔がまるで別人のようだ。普段はあけっぴろげで大口を開けて快活に笑う姿しかしらないはずなのに、背後の男はぞくりとするような何かがあった。
だが、これが夢であるという証明にはならないはずだ。
「欲しいと、思ったんでしょう?」
じわりと距離をつめてきた。触れる手の意図は疑いようもなく、性的な色合いを帯びている。
のんきに眠っている男とは対照的過ぎるにもほどがある。
「あんた、誰だ」
男も忍だ。闇を知らないとは思わない。
かといって、こんな風に俺に詰め寄るような性格じゃないのも知っている。
たちの悪い女のような迫り方は、どちらかというと禍々しいものさえ感じさせるものだ。
突きつけた鈍く光るクナイに、そっくりな顔を歪にゆがませた何かが忌々しげに吐き捨てた。
「この男はお前など欲しがらないぞ?どうせ夢だ。欲望に素直になれ」
ぎらつく瞳に、これがただの夢ではないことを悟った。
その姿はぐずぐずと崩れ、泥と腐敗臭をまとわせながら迫ってくる。
「ごめんだね。まがい物なんていらない」
チャクラを乗せたクナイを突き立てると、化け物はそのままさらさらと塵のようになって散っていった。
「この男でなければ…」
そんな捨て台詞を残して。
*****
「先輩!先輩!ちょっと!しっかりしてくださいよ!」
「テンゾウ?」
聞き覚えのある声が、いつのも面の奥から聞こえて来る。
そういえば、今は任務中だったはずだ。
奇妙に鮮明だった夢のおかげで、今も鼻をつく異臭がまとわりついている気さえする。
それにしても、後輩のあわてぶりが気になった。やはりただの夢ではなかったのだろうか。
「…ああ、大丈夫そうですね…?行き成り倒れただけでも驚いたのに、チャクラが急に膨れ上がるから何事かと思いましたよ!」
「あー…ごめんね。ちょっと待って」
これで確定だな。幻術の類なら放っては置けない。今のところそんな気配はないが、トラップでも仕掛けられていないか確かめなくては。
無意識に握り締めた手に、ざらざらしたものが触れた。
「あ」
そういえば、これは。
「壊れちゃいましたね。まあ破壊が前提の任務でしたけど。こんな泥人形ひとつ壊すのに僕と先輩二人もいらないと思いましたけど、先輩が引っかかるほどのトラップがあったなんて…」
あの時感じた奇妙な異臭が残った土塊から漂っている。
これが原因か。
残ったそれすらも焼き払うと、後輩は自分の失態にいらだっていると思ったらしい。
「先輩、帰りましょう?帰還したらすぐ検査してくださいよ!」
意外と気遣いの細かい後輩の厚意を無にする気もないが、それよりも気がかりなことがあった。
「ん。そうね。急がないと」
眠っているあの人は、最後まで目を覚まさなかったのではなかったか。
焼け焦げた土塊を踏みつけると、ぐずぐずに崩れたそれは夢の中でみたように跡形もなく消えた。
*****
結局後輩に無理やり連れ込まれた病院で受けたくもない検査をさせられて、術の後遺症がないと太鼓判をもらった。
無駄に時間をとらされていらいらしたが、病院から出ると朗報が待っていた。
「あの若造は元気にしておったぞ」
「そ。ならよかった」
巻き込まれでもしていたら目も当てられないと思っていたが、どうやら無事でいてくれたようでほっとした。
だが、優秀な俺の忍犬のもたらした情報はそれだけではなかった。
「…ご主人とほぼ同時に倒れたようじゃが、異常なしだったと」
「なにそれ」
それからどうしたのかはっきりと覚えていない。アカデミーに乗り込んで、授業を終えて帰ろうとしているあの人を捕まえて…気づけば俺の部屋に連れ込んでいた。
「あ、あの?」
「ごめんなさい。ちょっとだけ聞きたいことがあって」
強引に部屋に連れ込んでから、自分でも何をやってるんだろうと思った。
たかが幻術だ。気づけなかった自分が甘いというだけの話なのに。
「あ、この部屋」
「え?」
「いや、俺、この間倒れたとき、変な夢見たんですよ。カカシさんにここに連れてこられて、何でもあげるから頂戴とかなんとか…意味がわからなくてどうしたんですかとか、なにかへんな物でも食べたんですかとか、言ってたんですけど、なんだか様子がおかしくて。毒か術かで迷ってるうちに眠くなっちゃって」
「あー…」
「あ!でも夢の話ですから!なんか最後の方はカカシさんじゃないみたいに見えたし!…変な話してごめんなさい」
しょんぼりと肩を落とす男に、あの化け物が言った意味がわかった。
俺のさりげない告白など物ともせずにいつもさらりと流してしまう鈍さが、今回は役に立ったってことだろうか。
それに、これで思い知った。化け物でも落とせないこの人を落とすには…直球勝負しかないだろう。
「ね、もう大丈夫なの?」
「はい!寝不足だったんですかね?」
照れたように鼻傷を掻いた指を捕まえて、口付けた。
「うわ!?え!?なんですか!?」
「好きです。こういう意味で。…ねぇ。俺のこと好きになってくれませんか?」
真っ赤になってひとしきりおたおたと視線を泳がせて、俺の言葉が相当の衝撃だったんだってことはすぐわかった。
今までも何度も粉をかけてはいたけれど、かけらも気づいてなかったな。これは。
返事を待つように見つめ続ける俺に気づいてか、意を決したようにまっすぐに俺を見てくれた。
「お、俺も!その!カカシさんが…!す、すすすすす!好きっていうか…!」
「嬉しい…!」
すかさず抱きしめた体は、驚いたのか硬直したままだったけれど、これで言質は取れた。
流されただけでもいい。それでも逃がさないだけだから。
「ふえ!あ、あの!」
かわいそうなくらいうろたえている人にキスを落として、ほくそ笑んだ。
今日の所はここまでにしておいてあげよう。
「これからよろしくね?」
告白を受け入れてもらえただけでもたいした進歩だ。
後は少しずつこの人を変えてしまえばいい。
…俺だけを見るように。
タチの悪さではあの奇妙な人形より酷いかもしれない。
そんなことを思いながら笑う俺に、真っ赤な顔の恋人は、叫ぶように嬉しい言葉をくれた。
「こ、こちらこそすえながく!」


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適当。
夏が近いので(*´∀`)
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