ことだま(ヤンカカモノ 連載7)


誰も待っていない気がするヤンカカモノ続きー!やんでるカカチお子様ー視点?



約束は取り付けた。

これからイルカを攫いに…いや、俺の手に取り戻しに行く。
待つのは慣れていた。何せ俺を恐れる哀れな老人が執拗なまでに俺をイルカから、遠ざけたから。
…だからこそ、期待に踊る心は抑えきれない。
引き離されてからずっと。直接触れることがなかった手に触れて…そして…泣きそうな瞳で俺を見つめたイルカ。
たとえ記憶は封じられても、身体は覚えている。

俺が触れたときのあの嬉しそうな顔が、手がはなれると同時に恐怖に変わった。

あの瞳は、ずっとずっと変わっていない。俺を捕らえたあの時のままだ。

もう、離さないといつ告げよう?早くずっと俺のモノだと伝えて安心させたい。
あの老人がいまだに俺を警戒しているのが面倒だが、今更だ。

どうせ何も出来はしない。…そう。誰も。

蜜月の記憶がイルカを縛り、今でも…ずっと支配しているのから。

*****

同じ布団に包まって、ゆるゆると瞳を開くのを見ていた。
まだぼんやりしていて焦点を結ばないその漆黒の輝きが、俺に、俺だけに向けられるのを…。

「おはよ」
「ん…?おはようカカシ!」

真っ直ぐな黒髪をなでると、嬉しそうに瞳を細める。

攫ってきてからしばらくは、触れられるたびに困惑と甘えることへの自省を見せていたが、そんなものは要らないから。
イルカに触れて抱きしめて慣れるまで甘やかして…離れることが異常なのだと覚えこませるように。

ただ側にいた。

お陰で今のイルカは俺から離れるだけで不安そうにするようになったほどだ。

…離れていく時に見せる諦念に満ちた表情をいつかは見せられないくらい変えてしまいたい。

だから、まだ。…まだ、足りない。イルカを完全に俺のモノにするためには、時間が必要だった。

「任務か…」

厄介なのはそれだけだ。もう里への興味もない以上、差と抜けしても良かったが、まだイルカが俺に慣れきっていない。それに無理もさせたくない。
やっと痩せて細かった身体に肉が付き始めた所だ。ソレを台無しにするつもりなど毛頭なかった。

「任務に、行くの…?俺は、俺も任務に出られる…?」

イルカが大きな瞳一杯に涙をためている。堪えているつもりなのだろうが、声が掠れているし、何より悲しげなその表情が誤魔化しきれるはずもない。
おいていかれるのを恐れているのだ。
可愛いイルカ。…怪我がまだ治りきっていないのに任務に出たがる。
…俺から離れようとする。
それはきっと、処世術だ。必要とされるためには任務をこなすコマとならなくてはいけないと、経験から学んだのだろう。

「イルカはまだダメ。怪我してるでしょ?」

もう任務に出る必要などないのだと、教えてやりたい。
二度とコマ扱いなどさせるつもりもないし、外に出すつもりもないのだから。

…だが、まだ早い。

「で、でも!俺、もっと酷い怪我したときにも任務に出てたよ!」

イルカのことだ。無理をしてきたのだろうと分かってはいたが腹が立つ。
俺の大切なイルカを捨て駒のように扱ってきた屑どもを今すぐ消してやれたらいいのに。

「だーめ。…いうコト聞いて待ってて。待っててくれる人がいないと俺が帰ってこれなくなっちゃうよ?」

「そ、そんなのやだ!ダメ!俺が待ってるから!…絶対絶対…帰ってきて…!」

その言葉がウソになることを知っていて強請るほど、イルカは俺に依存している。
あと少し。不安と罪悪感を執着に変えて、イルカの全てを俺にだけに向けるようにしなくては。

「うん。もちろん!だから、待っててね?」

「うん!…待ってる!」

かわいいイルカ。その瞳いっぱいに俺を映している。…俺だけを求めて。
その視線が心地良いから…あと少しだけこの曖昧な距離を楽しもう。

ああでも…。

「ねぇ。イルカ」

「な、なに?」

不安を押し隠して微笑んでみせるイルカを抱き寄せて、囁くように…だが確実に意識に刷り込むために。

これだけは言っておかないとね?

「あいしてるよ」


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ヤンカカモノ続きー。
子カカチ大暴走週間じわじわ編?誰も待ってないだろうと思いつつこそっと更新。
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