あの泡みたいに(適当)
「愛に溺れるなんてのもステキでしょ?」
「馬鹿なこといってねぇで解け!」
何だってこんなコトになったのか分からないが、またこのメルヘン好きの男の脳にとんでもないものが湧いてしまったらしい。
「だってね?ここ、すっごくキレイな湖でしょ?イルカ先生と散歩するのも楽しそうだと思って!」
「…散歩なんて…!こんなんじゃ歩けないだろうが」
確かにもう初夏になろうとしている。水温は温かいといえば温かいし、そもそもチャクラを使えば水温など余り関係が無いのだが、だからといってわざわざ手足を拘束されたまま湖に突き落とされたい馬鹿はいない。
「大丈夫。俺がお姫さまだっこしてあげるから!」
ああ、まただ。どうしてこうもコイツは。
「任務中だって言ってるだろうが!」
…捨て身の蹴りというか体当たりはキレイに決まったが、それは捨て身だったからじゃなくて、多分この馬鹿の目論見どおりだったからだろう。
なにせ、縛られたままの俺と男は、そろって馬鹿でかい水音を立てて湖底に沈む羽目になったのだから。
とっさにチャクラで自分を覆ったが、この状態じゃそう長くは持たない。
だというのに、男はきらきらと作り物めいて見えるほど輝く銀色をして、目をうっとりと細めて沈んで行く俺を見つめている。
当然、本人も沈みながら。
泡が少しも吐き出されていないのは、水中でも呼吸できるからじゃないだろうか。
そう思うくらい男は紺碧の水に溶け込んでいた。
…まあ実際は、上忍様だから潜水だってお手の物ってだけだろうけどな!腹が立つ!
湖底の砂を乱すことなく、優雅にふわりと降り立った湖底で、男が笑って手を広げている。
俺を受け止めるために。
もがいてみたが、陸であっても縄抜けもできなかったのだ。水中では一層どうにもならなかった。
水の浮力に任せ、ゆらゆらと沈んでいく先から逃れられる可能性など当然無かった。
そうして、不本意ながら手足を戒められたまま、俺はきれいに男の腕の中に抱きとめられる羽目になった。
怒りの余り堪えていた息がもれて、ぽこりと気泡が登っていく。
月明かりをその小さな球体がはじいて、ゆらりとゆれて浮き上がっていく。
白い砂は水に受け止められてもなお柔らかくだが確かな月の光を受けて御伽噺の世界みたいに輝く。
…俺を抱きとめる白い男も。
何でこうなったのかを思い出すだに腹が立って仕方が無いのだが、男の言葉にウソはなかった。
「すっごくキレイなもの、見せてあげる」
そういってそれはもう禍々しいほどにこやかに微笑んだ男に、非常に丁寧かつ迅速に抵抗空しく縛り上げられて連れ去られて…不本意すぎるにもほどがあるのだが。
…確かにキレイだ。
あの泡みたいに軽く軽くふわふわと心が浮き足立つのが分かるほどに。
縄を解く気配のない男だが、多分早晩我慢できなくなるはずだ。
なにせ本人曰く、ロマンチックな雰囲気こそイチャパラに必要らしいから。
そういう男に、毎度毎度珍妙な目に合わされたあと、立てなくなるほどむさぼられる方の身にもなってほしいのだが。
しょうがない。こんなんでも恋人なのだから。
…実はその辺に同意した覚えはあんまりないのだが、諦めた以上楽しんだ方がいいだろう。
案の定そわそわと落ち着かないそぶりで俺を見つめだした男は、それからすぐに水面に恐ろしい速度で泳ぎだした。
情緒の欠片もない即物的で、欲望に忠実な男だ。
ロマンチックなんてものを目指すより、最初から素直に求めればイイのに。
とりあえず…ここから上がったら、もう一発蹴りを入れてやろうと決めて、あとはまあ、いつも通りの夜を覚悟したのだった。

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迷惑な上忍と色々とそれでいいのか!?な中忍。
…てきとうー!

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