告白(適当)


「いいから、おいで」
そういって手を差し伸べる人は、にこやかなのにどこか剣呑な空気を纏っていた。
「あの、でもですね」
「なぁに?」
小首をかしげて聞き返してきた。
高名な上忍だというのに、その仕草はあどけなくさえ見えて。
「まだ仕事中ですので…」
そう言った時の呆れたような顔が却って印象に残った。
「だから、そんなのいいでしょ?いいから。…あんまりだだこねると攫うよ?」
無茶を言っているのは明らかに目の前で溜息をついて見せた上忍の方で、だがそれを誰も止められないのも明白だった。
…階級差ってものの重みを思い知らされて嫌だ。普段どんなに気さくであったとしても、穏やかに笑っていたとしても…男は上忍だ。
どうあがいてもそれをなかったことにすることの出来る相手。…こうなったら俺に出来ることなんて、限られている。
「どこに行くつもりなんですか…?」
とりあえず、時間稼ぎにもならない質問をしてみたんだが。
「え?…どうしよっか?んー?」
おいでなんていっておきながら悩まれてしまった。
…今のところ受付待ちの人はいない。
だからって迷惑なのは変わりがないんだが、あまりにも行き当たりばったりな行動が、耳にした事のある噂とはまるで違っていて、却って親近感が湧いた。
だが、まあ。
「目的地が決まったら教えてください」
とにかくまだ仕事中だ。報告者がいない間には、できるだけ報告書類の整理やらなにやら、大漁に摘みあがる書類を片付けておきたい。
さらっとながしたつもりだったが、上忍は真剣な顔で悩み始めた。
…とりあえず、受付の前に居座られると非常に迷惑なんだが。
報告者がきたらどけてもらおう。
そう決めてとにかく手元の書類を整理するコトに集中しようとした。
「どこがいーい?」
ああもう!気が散るじゃないか!
「どこもなにも…俺は仕事中で、カカシ先生の目的がわからないのでどこがいいともお答えできません!」
苛立ちを滲ませながらきっぱり言ってやったのに。
「目的?えーっと。本気で言ってる?」
だからなんなんだそれは。なんだって突拍子もない行動を取ってる方が不満そうな顔してるんだよ!
「本気です。俺にはさっぱりわかりません!」
俺の生徒なら説教してやるのに。
「じゃ、ここでいいや。…好きです。ヤりたいから、好きな所決めて?声がでなくなるまで喘がせて、サイコーに気持ちよくしてあげる。…あ、でなくなるのはせいえ…」
「わー!?まてまてまて!?受付でなんてこといいやがる!?」
口をふさいだ手の下で、男がにやりと唇をゆがめたのがわかった。
「愛の、告白?」
だからなんでそんなに自信満々なんだ…。
いろんな意味で真っ白になりそうな俺に、それでも平気な顔で笑ってみせる上忍が分からなかった。
*****
好きとやりたいが同列なのは理解できなくもないが、普通はふせるもんだろう?そういう赤裸々な本音は。
「ふぅん?こっち?」
「…」
仕事が終わるまでしっかりきっちり無視してやったのに、そんなものなどどこ吹く風で、荷物をまとめて帰ろうとしたら勝手に隣に並んで着いてきやがった。
「ああ、イルカ先生の家か。それもいいねぇ?」
くすくす笑ってるのに腹がたったが、こういう手合いは無視に限る。
…相手しても疲れるばっかりだからな。
だが上忍が何で知ってるのか怖いんだが、そろそろ俺の家に着いてしまうのは事実だ。
つまり俺は貞操の危機ってやつに晒されてる。
このクソ暑くてムシムシする中で、俺のイライラは増すばかりで、自制心ってものは相当に目減りしていた。
…相手が突拍子もない行動をとってるんだから、俺がやっても許されるよな?
だから、俺がこう思ったって仕方がなかった。…と思う。
「告白のお返事です。俺はいきなりヤりたいなんてのはお断りです。それよりなにより…返事も聞かずに勝手にやろうとするなんてぜーったいに無理です。じゃ、そういうことで」
瞬身の印を組んだ。こうなったら非常時以外、禁止されていようがいまいが知ったことか。
「あー!なるほど!だから怒ってたの?…じゃ、さ、最終的にはそういうのコミで宜しくね?」
ああ、言葉が通じない…。
「だから、その…!」
言い返す言葉は、納得したとばかりにしきりにうなずく男がいた。
「だーってさ。断るんなら男なんて無理って言うもんねぇ?イルカ先生は」
「なっ!?」
「見たことあるもん、ま、昨日だけど。だから急いでみたんだけど、驚かせちゃったね?」
「ま、まあ驚きましたけどそうじゃなくて!」
そんなの…確かに俺はこの人と飯食ったりするのは好きだけど、いやまさか…!?
「…お友達からは無理だけど…まずはここからお願いします」
手を取られた。うやうやしく、まるで高貴な身分の女性にでもするように。
いつの間にか降ろされた口布は、何度見ても見慣れない。
その、薄く、作り物めいた唇が俺の手の甲に落ちて、真摯な表情で男が言った。
「お願い。あなたが欲しいんです」
…その一言でしっかりぐらついた自分は馬鹿だと思う。
*****
「イルカせんせ。帰ろ?」
「だから俺はまだ仕事中です」
「いいからおいで?あんまりごねると襲うよ?」
「だーかーら!受付でそういうコト言わない!」
「はぁい」
くすくす笑う男は今の所このやり取りを楽しんでいて、それなりにご機嫌に見えるが…多分焦れているのは本当だ。
あんなこと言うくせに、意外に紳士だった男は、色をにじませるように触れてはきても、強引な行為に及んではこない。
…だから、そろそろいいかもしれない。
荷物はまとめ終わった。後はもう帰るだけだ。
「だから…そういうのは受付じゃないときに言って下さいね?」
鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をして、それからすぐに無表情なまま俺を引っさらった肩の上で笑った。
きっとこれから…驚くほど熱い夜が待っているだろう。
怖くないといったらウソになるが、それよりも。
「好きですよ」
そう告げるとこれ以上なく早いと思った足を更に速めてぎゅっと俺を捕まえる男に、俺も落ちてしまったから。
溺れてみるのも悪くないかなぁと思った。

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適当!
これも愛ーかなぁ?
ではではー!なにかしらつっこみだのご感想だの御気軽にどうぞー!

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