ひかり(適当)


太陽はこんなにもまぶしいものだっただろうか。
久々に帰りついた里で与えられた休暇は、たったの3日。
どうせすぐに発つとわかっていたから、片付けもそこそこにまずは一日中眠り込んだ。
お世辞にも寝心地がいいとは言えない所で、闇に潜みながら浅い眠りに落ちるのがせいぜいだった身からすれば、久しぶりの柔らかな寝床は十分に楽園だった。
横たわるだけでじわじわと脳を侵食する眠気に抗えず、気がつけば仮眠のつもりがたっぷりと惰眠をむさぼって、目覚めるとすでに日が高くなっていた。
流石に腹が減って、かといってここにいる時間より任務に出ている時間の方がずっと長い家に、ろくな食べ物などあるわけも無い。
あるのは兵糧丸と干し肉なんかの非常食もどきと、それからドッグフード位のものだ。
…食べても死なないとはいえ、流石に犬の餌を奪ってまで食う気にはなれない。
「出かけるかねぇ…?」
そうして、久しぶりに明るい陽の光の下にでることになったのだが、あまりの明るさに驚いた。
袖を通した正規部隊の忍服はしまいこんだ時間に比例してうっすらと埃っぽい。
瞳を射るように無遠慮に世界を切り裂く光に、気づけばなんとなくだが木陰を選んで歩いてしまっていた。
明るすぎる世界に己の場違いさをひときわ強く感じざるを得なかったというか。
「…なーんでだろ」
こんなにも違和感と…それからいてはいけない所にいるような気がしてしまうのは。
闇の中でしか生きられないとまで斜に構えているつもりもないのだが。
そういえば食い物を買える店すらどこか曖昧だ。
数年前は確かにもう少し進んだ先に商店街があったはずなのだが、来る度に復興が進んで随分と増えた家々にうずもれてしまったのだろうか。
そんなことにすら自分がここにいてはいけないんじゃないかなんて気にさせられて、流石に少し落ち込んだ。
曲がり角、本当にこの先にあるんだろうか。…俺のいない間に変わり続けている里に、俺は戻るべきじゃなかったんだろうか。
どうもおかしい。アレだけ眠ったのにまだ疲れが残っているんだろうか。
…おかしかったのは確かだ。なにせ上忍のくせに近づく気配に気づかなかったどころか…。
「わっ!ととっ!すみません!」
行き成りぶつかってきたものが人なのだと理解できたのは、その快活な声のおかげだった。
汗まみれになっている男が頭をきょときょとと動かす度に、くくった尻尾のように見える髪の毛がぴょこぴょこと揺れている。服装からすると忍だ。額宛をきっちり身につけているあたり、なりたてかもしれないが。
それにしても、なんだろう。この生き物は。…こんなに明るい世界にいてもなお、眩しく感じるのはなんでなんだ。
なぜか胸が騒ぐ。
どうして、触れたいなんて。
ふらりとめまいがして、ついうっかり男に倒れこんでしまった。
「…顔色が…!まさか熱中症とか…!?任務帰りですか!?ちょ、ちょっと待っててくださいね!」
ぐいぐいと半ば引きずられるように手を引かれて、呆然としているうちに見知らぬ家の中で座り込んでいた。
突きつけられたコップに満たされた褐色の液体は、どうやら麦茶のようだ。そういえば夏になればこの飲み物は定番だ。俺はそんなものの存在すら忘れていた。
「ほら飲んでください!意識があるからそんなじゃないと思うんですが…」
「あぁ。どーも」
言われるままに飲み干した液体は、ふわりと香ばしいにおいを漂わせながら胃の腑に落ちていく。ひんやりとしたその感触は嫌いじゃない。
そうか、そういえばもう夏なのかもしれない。
いまさらながらそんなことに気がついた。
「暑いんだから気をつけないと!そんなに顔を覆ってたら…!」
男はそういいながら、空っぽになったコップにいそいそと麦茶を継ぎ足してくれている。
なぜかそんなことに泣きそうになって。
「ありがと。…ごめんね?」
汗みずくになっているこの男の方が、ずっと水分を必要としているはずだ。チャクラで体温すら操作できる俺の方が熱になどやられるはずが無い。
それを奪い取ってしまったのは…あまりにも自然にこの男が俺を助けようとしてくれたからだ。
…ここにいてもいいんだと、思わせてくれたからだ。
「いいんですよ!ほら、ちょっと休んだら…うーん?一緒にちょっとなんか食いましょうね!そうめんしかないけど、もしかして何も食べてないでしょう?顔色悪いですよ」
その笑顔は太陽よりまぶしかった。
*****
「で、それがきっかけなんですよねぇ?」
しみじみと告白を振り返る男はご満悦だが、俺の方は憤死しそうだ。
なんか真っ白い人がふらふらしてるから連れて帰って飯を食わせただけなんだ。元気になったら帰るだろうと思っていたのに。
確かに一度は帰ったが、今度はなぜか俺の家に帰ってくるようになったってのは置いといて。
それが…顔色が悪いと思ったのも、暑さにやられたと思ったのも全部俺の勘違いだと知って、思わずたたみの上を転がりまわりたくなった。
それをしなかったのは、男が嬉しそうに…本当に嬉しそうに、悲しいことを言い出したからだ。
「アンタこの里の忍だし、誰よりもここにいていいっていうか必要な人なんです!とりあえず俺には確実に!そんな暗いこと考えてるからたかが太陽ごときを眩しすぎるとか思うんですよ!任務だったら昼も夜も無いんですから、うだうだいってねぇでしゃんとしてなさい!」
ひざになつく男の頭をごりごり撫でるというよりかき混ぜてやったら、そんな乱暴な扱いにも瞳を細めている。
「ん。ここに、いさせて?」
あんなこと言うから。…こんな顔するから。
だから俺は上がりこんで住み着いてしまったこの男を追い出せないのだ。
「いてもいいけど、買い込んだスイカは後でちゃんと切ってくださいね!あと…またそうめんゆでてあげます」
またそうめんー?などと嬉しそうにしている男の口をキスで塞いで、それから。
「好き。大好き」
ちゃっかり人を押し倒してきた男のおかげで、今日も昼飯は遅くなりそうだと思ったのだった。


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適当。
なつだあついぜとけちゃうぜ!ってかんじんでひとつ。ねむい。
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