こどもの日(適当)


子どもの日だから。
ふざけたことを仕掛けてきたのは、そんな下らない理由だったらしい。
「オイコラクソ上忍!解け!」
「やーですよ。似合ってるんだからいいじゃないの」
普段からほんの少しだけ上にある目線が、子どもの姿で見上げると一層高く、おそろしくデカイイキモノに見える。
そう、子どもの姿で、しかも逃げないように縛り上げられた状態で見上げると、だ。
「なんてことしやがる!」
「なんてことって…ま、イイコトしてもいいんですけどねぇ。アンタならどんな姿でも勃つし」
「うわーうわー!アンタ今すぐそこに直れ!許せん!」
しれっとした顔でこの手の冗談とも本気ともつかぬ台詞を吐くのはいつものことだが、よりによって何を言い出すかと思えば…!
俺だって、性的倒錯傾向がないとは言えない。
相手が同性ってのはおいといても、嗜虐趣味と異常なまでの執着と、いうのもなんだが特殊性癖っつーかそっち方面にばかり旺盛なこんな男に惚れた時点でどこかおかしいのかもしれないとさえ思っている。
だが曲がりなりにもコイツも教える側に立つ人間なのに、なんてことを気軽にいいやがるのか。
「はいはい。生きが良くて嬉しいですよ」
にやにやしやがって。気軽に抱き上げられてしまうのも不愉快だ。
軽い子どもの体は、どんなに足掻こうとこの男を退けることはできない。
「いいから。アンタなにしでかすつもりなのか言いなさい。こんな突拍子もないことするんだから、どうせなんかあったんでしょうが!」
こいつは普段は冷静沈着だともてはやされている割に、理性の薄いイキモノだ。というかむしろ本能が強すぎるのかもしれない。
何があったのか言わない代わりに、それを体にぶつけてくる。ぶつけられる方の身にもなって見やがれと幾度訴えても言い聞かせても、拗ねるか誤魔化すかして逃げ回りやがる。
まあ白状するまで逃がしてなんかやらないんだけどな。任務上の機密以外では。
「そこまでわかっちゃうのすごいよねぇ?ふふ…ちょーっとね。面倒な仕事を押し付けられそうだから、その前にたーっぷり補充も兼ねて、その間にアンタに逃げられないようにしておこうかなぁって」
「…なに言ってんですか…任務前ならより一層馬鹿な真似はやめて準備しろってんだ!」
渾身の説教は思案顔で服を脱ぎ始めた男にまるでないもののように扱われてしまった。
「さてと、俺も…」
「ぎゃー!なに脱いでんだ!ナニする気だおい!」
この状況で全裸になる男の意図は、普段の素行から考えれば自ずと推測できてしまう。いくらイチャパラ大好き男だからって、許せることと許せない事があるだろうが!こうなったら武士の情けで狙わないでおいた男の急所を…!?
「変化!…こんなもんかな?」
「おお!?か、かわいい…!」
小さい。細い。白い。それに愛嬌がある。眠たげな目がくりくり動いて…意外といたずらっ子と見た。
じゃねぇ。え?え?なにやってんだ?
そっくりそのままミニチュアになった男は、傍若無人さを隠そうともしないが、そのかわいらしさで俺の抵抗を見事に抑え込んでいる。
同じくらいのサイズになってるから、いざとなればどうとでもできそうってのも大きいんだけどな。
「そ?気に入ってもらえてよかったー!」
「いやそうじゃねぇ。そうじゃねぇだろ!アンタなにやってんですか…」
「ん?ああ既成事実とか色々もちろんするけどね?」
不穏な発言だ。そして予想通りだ。俺まで脱がそうとする手に噛み付こうとしたら、キスまでされちまった。そして、パシャリと何かが光って…。
「あ?」
「やだかわいー。そういうぶさかわいい顔もたまんないよねー?」
「え?」
「うん。ま、写りはそこそこ?」
「なんのですかなにやってんですかアンタの素顔!?」
「気にしちゃうのそっちなの?ま、いーけど」
今撮られた。確実に。子ども同士がじゃれあってるようには決して見えない構図で。
「なんてことしやがる!それどうするつもりだ!消せ!」
「いやですよーだ。あ、証拠に使うだけじゃもったいないから、結婚式のときにも流すんで」
「は?」
「ジジイ共に吼え面かかせてやらなきゃですし?既成事実の責任取らせますって言えば、俺の本気くらい分かるでしょ?」
濁った瞳に不自然なほどつりあがった唇。…ああ、怒らせちまったんだなってことは検討がついた。しかし責任を取らせるって…俺の方が取るのか。なんだそれ。
まあ原因は分かるが。ホムラ様だな。多分。
生き残った以上どうのこうのって説教には、真っ向から全力でやり返して口の減らないとかなんとか言われたばっかりだ。しかしこの男に取り付かれてから随分経つ。最初の頃には任務効率があがったとか生贄みたいな扱いしてきたくせに、なんだって今になって。
「落ち着きなさい。まずは話し合いが…」
「聞かん坊めが断りおったっていう話は聞いたよ。ありがと。ちゃんと俺のこと選んでくれて」
あーくそ。笑うなって。チビになってもこの顔に俺は弱い。泣きそうに、でもそりゃもう幸せですって顔で笑うから、俺はなにもできなくなるんだ。
「…うるせぇ。いいから。ホラ今日はしっかり寝て、明日わからずやの説教に…」
「好き」
うぅ…こうなると止まらないのは確実だ。だがこの格好は嫌だ。死んでも嫌だ。子どもに手なんか出せるか!
「術、解け」
「ん?ああ、小さいね。はいんないかなぁ。俺の。俺もガキだけど、このときから結構…」
「いいから説け。そしたら…」
「そうしたら?」
なにもかもわかってますって顔でにやつきやがって!
甘えるのが下手なくせに、俺のツボだけはしっかり心得ているところも癪に障る。
好きなのなんてこっちもだ。今更揺らぐはずもないのに、不安を隠しすぎてこうやって突拍子もないことをしでかす。
「たっぷり気持ちイイコトできますよ?」
効果は覿面。一瞬で術を解かれて、噛みつかれて舐められて入れられて…コトがはじまってしまえば止まるはずもない。
「イルカせんせが言ったんだからね?」
興奮を隠そうともせずに腰を進める男の背に手を回して、宥めるようにキスをしてやった。
こういうときに受け止めてやれなきゃ男じゃないだろ。
…宣言通りの一日はすさまじく長くて、潰れた俺の欠勤の連絡を入れついでに、可愛そうな老人が、血圧が上がりすぎて倒れるまでねちねちやられたってのは後になってから聞いた。
ついでに、「俺明日から火影になるんで引っ越しました」ってのをいつの間にか運び込まれていた新居の寝室で教えられたってのが、一番笑えない話かもしれない。
…あの写真といつの間にか撮影したらしい映像まで、本気で上映したってのは一生知りたくなかった。
だがしかし。
「これで公的にも俺のモノですよね?」
隣にねそべって髪を食んで笑み崩れるイキモノを火影らしくさせておくためにも、精進しなきゃなぁと思ったのだった。


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適当。
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