誘惑(適当)


あなたが悪いんですよ?
そういって中忍は笑いながら俺を押し倒した。


しつこい女には辟易していた。
確かに溜まるものは溜まるが、必要ならいくらでも解消する手段はあるのだから、厄介そうな女相手に遊ぶつもりもないし、どちらかというと罠に近い情事への誘いにはうんざりするだけだ。
そもそも任務続きで疲れ果てているのに、そんな気になれるはずもない。
かりものの瞳を使えばそれだけで消耗するというのに、任務の同行者だというだけ擦り寄ってきて相手をしてやるなどという女になど苛立ちしか感じない。
一度だけなどと誰が信じられるものか。
ねっとりとまとわりつく体に、甘ったるい匂いに、媚を含んだ視線。
その全てがわずらわしい。
…任務が終わったばかりの今なら、切って捨てても文句を言われるぐらいで済むだろうか。
物心つく頃から任務漬けだった自分が、その特権を行使したことなどないが、大抵の上忍ならその手のことは許される。
それは生ぬるいとさえ言われる木の葉でも例外じゃない。
一般人ならまだしも、任務が終わったばかりで気が立っている上忍に不用意に近づく方が悪い。
だから押さえきれない殺気に女が気づいて震え出しても、むしろそれをむしろ楽しんでさえいた。
「駄目ですよ?」
女を脅すために振り上げた腕を掴まれるまでは。
「ひっい、いやぁ!」
悲鳴を上げて逃げていった女のことはどうでもいい。むしろ厄介払いができてありがたいくらいだ。
「何の用?」
自分は今苛立っている。そうしてこの男は俺の邪魔をした。
奇妙な冷静さが癇に障った。
部下たちの元担任でもある男は、単なる中忍であるはずだ。それも、多少無鉄砲なだけの。
今回も女相手に余計な同情でもしたのだろうか。
「いいから、いらっしゃい」
…それなのになぜかその笑顔に逆らえなかったのは、どうしてだろう?
手を引かれるままに連れ込まれたのは、どうやら男の家のようだ。
口を開く前に風呂を進められ、汚れを落とした所で飯も酒も当然のように差し出された。
おまけに寝床まで用意されていて居心地がよすぎて却って恐ろしいほどで。
いつの間にか男への苛立ちは消え、むしろ興味さえ湧いた。
少しばかり熱血なだけの凡庸な男だと思っていたのだが、腐っても忍ということか。
受付所で無害そうに微笑む男とはまるで違う見知らぬ顔を、むしろ小気味よいとさえ感じた。
それになによりここは居心地がいい。まるで自分のためだけに整えられたような空間。
これなら鬱陶しい女に中途半端煽られた熱も散らしてしまえるはずだ。
案内されたベッドの上に体を預け、微かに残る男の匂いを嗅いでいると不思議なほど落ち着いた。
日向の匂いしかしないはずの男のベッドからは、確かにごく僅かだけだが慣れ親しんだ赤い命の欠片の匂いがした。
「なぁんだか、意外」
ここは酷く落ち着くのに、己の中のなにかざわめく。
枕に顔を埋めてそれを沈めようとしている間に、男も風呂から上がっていたらしい。
「それ、なんとかしちゃいましょう」
すぅっと俺の体に乗り上げるようにして、男が笑った。
その手が触れているのは先ほどからきざし始めた己の欲望で。
「俺に、しませんか?」
なんでとかそういうのもどうでもよくなるくらい、その笑顔は簡単に俺の理性を揺らがせた。
くすくす笑いが耳をくすぐり、男の囁きは脳中まで染み込みそうな気がした。
「あなたが、悪いんですよ?」
***** 誘ってきたくせに物慣れない男に煽られて止められずに最後までしただけじゃなく、結局抱き潰しかけるまでたっぷり欲望を注ぎこんだ。
「なんで?」
今更過ぎる問いを中までたっぷり俺で汚した体を清めながらぶつけると、ふわりと笑った。
「あなたに残るのは俺じゃないと」
あの女性より俺の方が面白いですよ?
そうか。つまりはこの男が体を張ったのはあの女のせいじゃなく…俺のせいか。
「ね、それなら…それならアンタにも俺を刻ませてくれるんでしょ?」
刻むだけじゃ足りない。きっと全部を食らい尽くしてしまいたくなるだろう。
それ位この男は俺を捕らえている。
その穏やかな器にケダモノの魂を宿して。
「もう、とっくに」
そう言って俺の手に口付けた男を、もう二度と手放すことはできないだろうと思った。


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適当。
ちょいとまもたせな感じで。
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