上忍は熟睡している。 …ように見えるだけかもしれないのだが。 というか、まあ九割方寝たフリをしているんだと思う。 この男が完全な眠りに落ちることなんて、まずないことだから。 だが、重要なのはそこじゃない。この男に一矢報いることが出来るか否かだ。 相手は上忍だ。それもとびっきり上等な。 それを相手に真正面からぶつかっても、勝負なんてなるわけがない。 俺も忍だ。当然、そんな馬鹿なことをするつもりは毛頭ない。 だからこそ…男が寝入るのを待ち構えていたのだから。 例えソレが演技でも、とにかく隙があるのは確かだ。 どんなに早くても、俺の出方を伺ってから攻撃に転じるまでには多少のタイムラグが出る。…はずだ。 しかも今日は面倒な任務が終わったばかりで疲れているはず。 今なら、イケるかもしれない。 緊張でひりついた喉が引き攣れるのを唾で誤魔化して、少しずつ距離をつめる。 息を殺し、気配を消して、確実に実行に移せる距離になってから、俺は一気に勝負に出た。 「食らえ!」 「甘いね! やはり腐っても上忍。不敵な笑みを浮かべて俺の腕を掴み、ベッドに押し付けるまでの手際は流石だ。 つまり予想通り、寝たフリをしていたようだが、男が起き上がる前に勝負はついていた。 俺が相手だから手加減という名の油断をしたのだろう。 俺の仕掛けた攻撃は、すでに決まっていた。 「あんたの負けだ!」 「え?ウソ!なに!?なんなの!?」 見事なまでに取り乱した男を見ていると、このところの鬱積していた思いが晴らされた気がした。 それにだ。きっととても似合うだろうと思っていはしたが、ここまで似合うとは予想もしていなかった。 「似合ってるぞ?サンタ帽!流石しら…銀髪!」 ふわふわの白い縁取りのついた帽子は、男の銀色の髪にぴったりだ。 ほぼ放り投げるように頭に乗せるという多少強引な方法で奇襲したせいで、ずれているのはご愛嬌だ。似合ってるからイイんだ。 そもそも、コイツが悪いんだし。 アカデミーのクリスマス会のために用意したサンタクロースの衣装は、俺がちくちく夜なべして作り上げた自信作だ。ソレをいうに事欠いてこの男は…「なにそれ!なんでそんな格好してるの!?」などと激怒したのだ。子どもだちだって楽しみにしているし、なれない縫い物に頑張って作りあげたというのに。 挙句、「そんな服きてうろつかないでよ!」なんて捨て台詞まで頂いて、黙って引き下がれるわけがない。 たとえ、似合わないのが事実なのかもしれなくても。 「サンタ…えーっと。もしかして…?」 どうやら、俺の怒りっぷりをみて、自分の暴言を思い出したらしい。 抵抗をうばうように圧し掛かっていた身体が硬直したのがすぐ分かった。 せわしなく動き回る目をみれば、焦っているのが一目瞭然だったが、今更しおらしい顔したって無駄だ。 頭にちょこんと乗ってその存在を主張する帽子は、見事なまで似合っていて…つまりは、結構な間抜け面にしか見えない。 「俺はアンタと違って帽子くらいでウダウダ言ったりしない」 きっぱり言い切ってやった。ざまぁみろ! 俺が衣装をしまいこんだのを見て勘違いしたのか、やたら嬉しそうだったのにもむかむかしていただけに、男の態度には多少溜飲が下がった。 「…イルカ先生のが似合うから、外なんか出て欲しくなかっただけなのに…」 しょんぼりされて、ちょっと可愛そうに思ったが、これも恐らくヤツの手だ。そう簡単に乗ってやるつもりはない。 …怒鳴り散らした理由が予想通り過ぎて泣けてくるのも事実だが。 「似合うんですか。あれだけ恥ずかしい格好呼ばわりしてきたくせに?へぇ?…まあいいです。似あうんならよかった!アカデミー生も楽しみにしてますからねー?張り切ってサンタになりますよ!」 一気に言ってやったら、まごまごした男はまだ文句をいいたいらしい。 「そんなの、反則…!イルカ先生は俺だけの…!」 イベントごとに耳にたこができるほど聞いたセリフを遮って、そのうるさい口をキスで塞いでやった。 ほわっと桃色に染まる頬が可愛らしい。ずっとこんな顔だけしてればいいのに。ああでも…俺に入れる時の興奮に染まった顔も好きだ。他のものなんて視界にすら入っていないとわかるあの執着が。 …まあ、本人には絶対言えないけど。 「帰ったら、アンタだけのサンタになってあげますよ…?」 そう囁くと、勝手に興奮して改めて圧し掛かってきた男を少しだけ焦らしてやりながら、手間の掛かる恋人をもったなぁなんて思ったのだった。 ********************************************************************************* 適当ー! ねむい…げんこがんばる…! |