帰巣本能(適当)


 暑苦しいことこの上ないはずの状況だというのに、この不自然な胸の高鳴りは何だろう。
 人の懐に顔を突っ込むようにして健やかな寝息を立てている上忍は、顔だけではなくどうやら毛並みまで非常に良かったらしい。多分そのせいだ。そう思いたい。
 風呂に入ってさて寝ようってタイミングで玄関のベルが鳴って、こんな時間に来るなんてと少しばかり腹を立てながらドアを開けた途端、この生き物が倒れこんできた。
 一番近い知り合いの家だったから、とかまあそんな程度の理由だろう。一度だけナルトがこの人を連れて俺の家に来たことがあったから。そのときは確か山盛りのナスときゅうりを押し付けに来たんだった。
 上忍様をおもてなしするような物はうちにそろえちゃいない。だが来ちまったもんはしょうがないから、ナスときゅうりも使って煮浸しだの浅漬けだのと、それから適当に魚の干物を焼いて出してやって、ついでに野菜を食わないナルトを強くなれねぇぞとかサスケよりチビでいいのかとか色々吹き込んでやったんだよなぁ。
 そしてこの人はその隣で普段の猫背が嘘のように淡々と飯を食っていた。顔が見えないからついつい凝視して、それをナルトも真似たもんだから似た者親子ですねなんて微妙な評価まで貰ったんだった。
 それ以来、特にこれといって接点もなく、受付でちょっとした挨拶に毛の生えた世間話をするのがせいぜいだった。
 闖入者は「ごめん」ってのと、後は「寝かせて」って言葉を最後に、意識を手放した。
 怪我の有無と毒の匂いだけは後生大事に隠している顔を隠す布をひっぺがして確認したが、意識のない人にそれ以上の質問をすることもできない。
 上忍が平気だって言ってる以上、通報なんかして大事にしてしまって、後々却って被害が広がったら面倒だ。事なかれ主義は中忍の鉄則。特に上忍との揉め事なんか巻き込まれたらろくな目に遭わない。
 しょうがないからそのまま図体のでかい人を引きずって俺の寝床に寝かせて、ベストとサンダルだけはなんとか引っ剥いで、布団なんか子ども用しかないから俺もその横に転がった。
 …その途端に抱きついてくるってのが予想外だっただけだ。
「ご無沙汰すぎるからか…?」
 この妙に綺麗な面をした上忍をどうこうしたいなんて思ったことは誓ってない。だがしかし、こうも人肌と密着したのは随分と前の話で、そうなるともよおすものもあるってだけの話だ。そうであるはずだ。…そうであって欲しい。
 忍の常で、この人も無臭だ。俺はまあ、その、晩飯のラーメンの匂いが多少残ってたかもしれんが、歯も磨いてあるし、何より風呂にも入っているしで、性別を感じさせる物がお互い残っていなかったのが敗因か。
「…ん」
 掠れた吐息が首筋をくすぐる。もしかして笑っているのかもしれない。
「勘弁してくれよ…」
 重いがそれは慣れっこだ。なにせ任務中の中忍なんて雑魚寝が当たり前だからな。ナルトがくれば、上へ下へとすさまじい寝相を披露してくれるからそのせいもある。
 それよりも…この妙に存在感が薄いくせに、白くて筋肉だってついてるのに、子どもかなにかみたいにしがみついてくるこの男が悪い。
 さっきまで確かに負けそうになっていた眠気が、もはや寄り付きもしない。
「ふふ…」
「…幸せそうな顔しやがって」
 悪態すらやけにむなしく響く。まあしょうがねぇ。情けは人のためならずっていうもんな。
 深いため息を一つついて、それからとりあえず目だけは閉じた。
 明日になったらこの男にいやみの一つも言ってやろうと心に決めて。

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適当。
抱いてしまった思いを告げる気もないくせに帰巣本能に支配された男と、体から恋に気付かされ始めているかわいそうないけにえ。とかとか。

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