気の長い話15(適当)


これの続き。



そばに立つとうみのさんは思ったよりずっと大きく見えた。
父さんも同じくらい大きかったけど、どこか浮世離れしているっていうか、普段から気配の薄い人だった。
あのあとからはより一層。
だから余計にそう思うのかもしれない。
…真っ直ぐに俺を見る瞳に、この人を始めて怖いと思った。
「カカシ君」
「はい」
低くよく響く声は鋭く厳しい。
イルカも時々こんな目をすることがある。
迷いなく突き進むその意思を宿した瞳。
そこに写る俺は、途方にくれた無力な子供にみえた。
…諦めてなんかいないのに、何もできなかったあの日の自分がそこにいるみたいに思えて怖い。
何を言われるんだろう。離れろと言われるか、それとも…規律を乱した忍としての処分が下るか。
この人は上忍だから、それを命じることができる。
警戒とそれから覚悟を込めて見返した俺に、うみのさんはゆっくりと口を開いた。
「君は、英雄の息子だ。俺やあの人の誇りだ。自分を貶めるのは許さん」
俺を誇りといった。勝手に死んで、俺をおいていった人の、それから自分の誇りだと。
「でも…俺は…」
どんなに将来性があっても、今はただの子供だ。
…それも忍としては出来が良くても、中身は到底まともとはいえないって自覚がある。それも醜聞っていうおまけまで付いている。
でもうみのさんがうそを言ってなんかいないってことはわかる。
お人よしで優しいイルカは、こういう所がこの人に似たのかもしれない。
「君はがんばり屋さんだし、これから強くなる。…あー。ただ、そのだな、師匠のことで困ったら、必ず!いいか、必ず相談に来なさい」
困ったように笑ううみのさんは、びっくりするくらい優しい、それから力強い笑みを浮かべて俺を見ている。
さっきまであんなに威圧感を感じたのに。
それに…先生。まさかこの人にまで何かしたんですか…?
先生の尻拭いに関しては不安を覚えたけど、それよりなにより大事なことがある。
「一緒にいても、いいんですか?」
かなうならその許しが欲しい。
…イルカを傷つけずにいられるのなら、そのために俺がどうなってもかまわないから。
「今回みたいに危ないことしなければな」
ふぅっとため息をついたうみのさんが、俺の頭をイルカにするみたいにわしわしと乱暴に撫でてくれた。
…俺も父さんにこうしてあげればよかったのかもしれない。
だってこんなにも安心できる。何も言えずにそばにいるだけじゃなくて、大丈夫だって言って、抱きしめればよかった。
俺はいつだってこうやって後悔してばかりだ。
でも、イルカは、イルカだけは絶対に失えない。
「ほんと!父ちゃんうそついてない?」
「イルカ…!」
泣きそうな顔のまま、イルカが俺ごとうみのさんに抱きついてきた。
心配させちゃったよね。すっごく。
でも、でもこれって、許してもらえたってコトだ。
嬉しくてでも信じられなくてうみのさんをみたら、さっきとは別の意味で怖い笑みを浮かべて、俺たちを見下ろしていた。
「父ちゃんはお前たちにうそはつかないぞ!…但し!」
そういった途端、イルカがとっさに歯を食いしばったのが見えて、それから。
「…うぅ…いってー!」
「く…っ!」
脳天にすさまじい衝撃が訪れた。
…本気の大人に、それも上忍に殴られたらこんなもんじゃないと思うけど、流石に頭がくらくらする。
今回ばかりはチャクラでガードするのもまずいと迷った瞬間には、もうその拳が決まっていた。
隣でイルカも涙ぐみながら痛みをこらえている。本当なら抱きしめてあげたいけど、それ所じゃなさそうだ。
「二人ともこれでお仕置き終了だ!…だが今度やったらお尻ぺんぺんの刑だからな!」
「えぇ!?ヤダヤダ絶対ヤダ!そんなことしたら寝てる間に父ちゃんのひげ変な形に切っちゃうからな!」
「こらぁ!そんなことしたら、イルカの晩飯はにんじんとピーマンだけにするぞ!」
「えぇ!?父ちゃんの馬鹿―!そんなことしたらえっと、えっと…!母ちゃんに…」
「な、なに!?」
あんなに強烈なの食らったのに、お尻ぺんぺんのが嫌なんだ…。
それから二人のやり取りが…さっきまですごくかっこよかったのに。うみのさんらしいけど。
「うみのさん!落ち着いてください!イルカも。…俺のせいでごめんね?」
「あ、うん。まあその」
「カカシは悪くない!…な!父ちゃん!」
「ああ!でも勝手にお出かけしたら…カカシ君もお尻ぺんぺんだからな!」
「はい」
確かに恥ずかしいし、イルカの前でとかになったら死にたくなるかもしれないけど、臀部のがダメージは少ないよね。
先生の前でっていわれたらなに言い出すかわからないから絶対いやだけど。
素直に頷いたら、なんだかちょっとだけ悲しげに微笑んで、また頭を撫でてくれた。
イルカも撫でられて嬉しそうにしてて、それで、本当に許してもらえたんだって思えた。
…すごくほっとしすぎて現実感がちょっとないんだけど、ね。
「よし!帰るぞ!」
「うん!」
「はい!」
手をつないだ二人についていこうとしたら、イルカが当たり前みたいに俺とも手をつないでくれて、なんだかすごく幸せだ。
俺の帰る場所に、イルカはこうやって手をつなぐみたいに当たり前になってくれる。
幸せで幸せで、誰にも気付かれないようにちょっとだけ泣いたのは、俺だけの秘密だ。



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あ、とちょっと…エピローグでおわれるだろうか…。
せんせいとかあちゃんへんとか
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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