男のけじめ(適当)



すったもんだの末、そりゃもう俺やその他色々な人に対しての無理無体を重ねて、ついでに上層部に喧嘩売ったり騙したり上手くのせたりした結果、無理無理同性同士の結婚にこぎつけることになってしまった。
許可した上層部もおかしいが、同性の俺相手に好きです食べちゃいたいなんて頭の悪い台詞で言い寄っただけに飽き足らず、本人の同意も得ずに一方的に婚姻関係を結ぼうとしたこの人も相当おかしい。
上層部の確認でそれを知った俺と何度か血で血を洗うレベルの争いの後、…結局その必死さにほだされてそれなりの関係にはなったわけだが。
「えっち。しましょー!」
「嫌です」
籍は入れた。というか入れざるを得なかった。
この男、行動力だけはあると思っていたが、いつの間にやら大名の許可までとってきやがって。
これを反故にしようものなら、火の国の顔に泥を塗ったことになる。
下手したら俺の命だけじゃすまない。
里の存亡までもが関わってくるようなこの事態にに、この男が何を考えているかわからないから嫌だなんて私情は挟めるわけがなかった。
…抵抗を全くしなかったといえば嘘になる。
が、しかし決して力に屈服した訳じゃない。根回しを撤回させようとあれこれしている内に、駄々をこねる子どもの必死さ以上の何かをこの男に感じて、諦めて腹を括った。というか、括らざるを得なかった。
断ったら死ぬんじゃないかと思うほどの決意を、命がけの懇願を曲げられるほど、俺の意思は強くなかった。貞操観念はどちらかといえば古いといわれるほどにしっかりしていたつもりだが、俺も忍だったということだろうか。
宗主国ってのはそういうもんだ。理不尽だろうがなんだろうが、顔を潰せば後々まで多大なる影響を受けることになる。
三代目のお供で会ったことがある。茶目っけたっぷりでちょっとアホな大名ではあったが、まさかこんな無茶苦茶な要求を嬉々として受け入れるとは思いもしなかった。気に入られてるとか恩があるとかだけじゃなく、きっちり弱みも握ってあったらしいってのは、後になって知ったが今更だ。
情がないとは言わない。結婚なんて周囲に派手な迷惑をかける真似をしなくても、この行動が読めない男のそばにいること自体に否はない。
ケダモノの必死さはある意味滑稽で、その必死さは哀れを催すほどだった。
愛してるとヤリタイが並列な辺りは最低だが、俺に関してだけその無茶苦茶な理論が発揮されているのも知っていたから、ある意味諦めもついたさ。
公明正大で仲間思いで里最強の忍とも呼ばれる男が、どれだけ体をはって里を支えてきたかなんて、嫌って程みてきてるんだよ。
ただ戦場育ちの暗部上がりと謗られる訳も知ってしまった気がするんだがな…。
甘えて、縋って、それから強引に抱きしめてきては愛を囁く男。
…絆されてはいる。が、しかし。
この所交わされる会話はすべてこの手の閨への誘いばかりだ。
新婚というやつはこんなものなのかもしれないと、最初はともかく一度ヤってしまってから今までは断ることもしなかったんだが、流石にこう毎日毎日時も場所もやり方も選ばない行為が続くと、体のほうに無理が出てきた。
初夜とやらにやたらと張り切った男のお陰で覚悟を決めていた痛みは殆どなく、経験した事がないほどの快感を与えられた。…そのせいか、体はあっという間に男に馴染み、受け入れる苦痛を逃す術さえ身につけてしまっている。
子を残せないことに関しては諦めた。男はどうやら俺がそれを理由に奪われるかもしれないと思い込んで、訳のわからん術を考えているようだが、そんな体を張った博打なんぞする意味がないと説得している最中でもある。
むしろ血統的に考えれば俺のほうがずっと不釣合いだと思うのだが、俺を娶ってから格段に任務の効率が上がった男が提案した新術開発に上層部までもが諸手を挙げて歓迎しているらしいのが恐ろしい。
流されている。…そしてそんな風に流されているだけなんて、俺らしくない。
だからこその拒絶だったんだが。
「えー?なんで?」
この人はいいだろうよ。そりゃ。なにせ突っ込んで腰振るだけだからな。それにしても振りすぎて腰がイカレてもおかしくないくらいにはヤってるけど。
受け入れるこっちとしちゃ、本来の用途と違うことに使うんだから負担が半端じゃない。あんなでかいもん突っ込まれ続けたら、いつか緩んで使い物にならなくなるんじゃないかと暗い気持ちになったことだってあった。
突っ込みながら締りがどうのと大喜びするし、毎度毎度ソコを弄り回して緩めなければ突っ込むこともできないようだから、多少は安堵したんだが。
毎度毎度嬉しそうに指を突っ込んではうんざりするほどソコの具合を実況する男に辟易はしている。
「なんでって…腰がおかしくなるし、ヤリすぎでしょうが。アンタだって体調おかしくしますよ?」
きわめて論理的に説明したつもりだ。ヤりすぎで任務にいけなかったなんてことになったら俺は憤死する。
分かりやすく、これまでも幾度も繰り返してきたように優しく伝えたつもりだったのに。
「結婚したのになにいっちゃってるんですかー?」
うふふーっとまあ頭に花でもさいてんじゃねぇのかっていうレベルの脳みその軽さだ。
この人は賢いのに素晴らしく馬鹿であるってことを最近よくよく思い知らされている。
…つうか、ちょっとまて。どういうことだ。
「結婚と何の関係があるんですか?俺は腰が痛いって話をですね…」
「ええ!?結婚したらやりほうだいじゃないの!?」
驚愕した。
ヤバイ。この人本気だ。アホだ。
確かに新婚は房事過多でどうこうってのは聞いた事があるが、どこのどいつが出勤寸前までやり倒されたいと思うものか。
それに、もっと気になる事が。
「アンタまさかそのためだけに結婚したんですか!?」
「いいえ!それもありますが、結婚してからじゃないとイルカせんせとえっちできないし、イルカ先生がどっかの誰かに取られちゃうかもしれないじゃない!」
「アホですか…」
自信満々のようだが、そんな理由で無理矢理法を変えるわ、孕ませたいなんてとんでもないこといいだすやらで、俺を散々振り回したのか。馬鹿か、馬鹿なのか。馬鹿だよな。
「だってアカデミーでガキどもに、結婚してからじゃないとそういうことしちゃ駄目だといい聞かせてたじゃない」
「へ?」
いつの話だ。そりゃませた子どもにその手の説教をすることだってあるにはあるが。
なんでそれが大人にも通用すると思うんだ。それも忍だってのに。
「ね、しましょう?いっぱいいーっぱい我慢してたんですよ?俺」
褒めて褒めてーと言わんばかりの輝く瞳。股間が盛り上がっていなければ思わずがんばったんだなぁなんていいながら撫でてやりたくなったかもしれない。
「しません。節度ってもんを持ちなさい。…結婚したら、お互いを思いやるものなんですよ?」
「イルカせんせ…もしかして気持ちよくないの…!?」
この世の終わりみたいな顔しやがって…!ああもう!
「違うっつーの!腰が痛いんです。ケツも元々あんな使い方する所じゃねぇんだよ!擦り切れてアンタのお気に入りのしまりとやらがおかしくなってもいいんですか!」
「ああ、なら大丈夫です!」
ほっとしたらしいってのは声からも態度からもアホほど明るい笑顔からも分かる。
…逆に俺のほうは激しい不安にかられるんだけどな。この男には常識ってもんが綺麗さっぱり欠如してやがるから。
「なんですか。それ」
じりじりと手練の上忍に距離を詰められる。
…本能的に逃げたくなること受けあいだ。
その手のひらに乗っているものが、あからさまに怪しい丸薬だった場合特に。
「はいあーん」
「ふむぐ!?」
あーんとかいいながら、放り込んだのは男自身の口の方で、唇を強引に重ねられたと思ったら怪しげなものはとっくに喉の奥に落ちていた。
なんだこれ…!?まさか媚薬の類じゃあるまいな!?
「元気出る丸薬です。綱手さまにすまないと伝えろって言われてるんですが…お祝いにしちゃ地味だからですかね?」
「…あー…」
なるほど。結婚を最後まで止めようとがんばってくれた女傑は、意に染まぬ婚姻に反対していた。豪放磊落な性格過と思いきや、女性らしい繊細さも持ち合わせていらっしゃるんだなぁと感動したっけ。まあ最終的には里を守るべきだという俺の言葉に頷いてくれたんだが…ってことは毒ではないだろう。
飲んだ瞬間からだが熱くなったから焦ったが、じくじくと疼くように腫れていた某所の痛みがなくなったようだ。しかも腰の痛みも取れた、か?流石五代目様だ。素晴らしい。
優しさと気遣いの塊に感謝していると、男がにんまりしながら俺に抱きついてきた。
「じゃ、しましょうか」
「え?わぁ!」
「好きです。大好き!」
俺は荷物じゃねぇと何度言ったらこの上忍は学習するんだろう。…しないんだろうなぁ。俺の話は聞いちゃいるが、理解する気はまるでないだろうから。

そうして、そのまま寝室に連れ込まれてそりゃもうたっぷりやり倒された。

止めろといっても止めない所か、意識を失っても突っ込まれていたらしく、朝起きた時の惨状と来たら…!
腰は立たないわ、そこらじゅうどろどろだわ、そんな状態だってのにまだ腰を振っていたとかどういうことだ。
声も枯れて怒鳴ることもできずにいたら、一杯やっておかないとこんなにえっちな体してるから盗られちゃうかもしれないとか、浮気も刺客も許さないとか、下らないことをぶつぶつと病んだ瞳で呟いていた。
怒りは、どうしてか湧いてこない。俺のモノだという口で、誰よりもそれを信じていないのだと分かる必死さで縋りついてくるのだから始末に終えない。
安心させたい。そう思ったらもう。
「気持ちイイ」
だからちゃんと満足してるんだから、そろそろ落ち着けと言う前に口付けが振ってきて、結局さらに一戦挑まれたがそれはそれだ。
ご機嫌な男は尻尾があったらちぎれるくらい振ってるんじゃないかと思うほどに浮き足立ちながら動けない俺に飯を食わせ、クナイ片手に任務に飛び出していったからな。
…頭はアレだが腕はいいんだよなぁ。どうしてくれよう。この愛熱らしきものがたっぷりすぎて空回りしがちな男を。
深いため息をついた俺の枕元にはかわいらしいメモ帳が残されている。
愛してます。すぐ帰ります。なんてな。これだから振り切れないんだよ。
へのへのもへじの署名をなぞると、妙に幸せな気分になった。
…俺も同じ穴の狢か。
同僚たちに新婚気分を囃されるのにももう慣れた。そろそろ…色々とケリをつけるべきだろう。
とりあえず体力を取り戻すために、しばしの睡眠をとることにした。
帰ってきた男に堂々と男らしく…俺からの告白と、それから改めて求婚の返事をするために。

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適当。
落ち着いてくれることを期待していたものの、当然のことながらそんなことはなかったぜ!っていう話。
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