会話が止まった。 ただ指先が触れ合っただけなのに。 愛を囁かれるより、こうしてふいに触れられることの方が…なんというか、落ち着かない。 こうして二人で過ごすことが当たり前になって、指先なんかよりずっと奥深くまで触れ合うことだってもう数え切れないほど経験してきた。 …その度に快感と…それからたとえようもないほどの幸福感に飲み込まれて、夢中になってむさぼってしまうのだが。 怒るイルカ先生が激しすぎる情事にやつれて、却って色を感じさせるから止まれないのだ。 そこら中に触れて、印を残して。 いくら味わっても飽きることなく欲望を煽り立てるのは、この人だけだ。 頭の先からつま先まで全部自分のモノだと確認したくなるのは。 …そんなものは幻だと知っているのだけれど。 そんな風にして触れ合って、離れているときの空虚さに、あまりにも側にあることが当たり前であることを思い知らされていたから、こうしてふと触れただけでこうも動揺するとは思わなかった。 先に動いたのは、イルカ先生の方だった。 「しょ、醤油ですよね!」 ぎこちない笑みに簡単に欲情する。 所詮雄の欲求など単純なものだ。 押さえ込むことは出来ても、火がついたものを忘れることは簡単じゃない。 ましてや、初めて欲しいと思った人相手なら。 「ありがと」 差し出されたしょうゆさしを受け取るついでに、その指先に触れた。 ひくんっと震える手に気づかないふりをして、逃げようとした指先に追い討ちを掛けるように手を握ると、泣きそうな瞳で睨み返してきた。 夕べだって体をあわせて、指先どころか体中全部が溶け合ってしまいそうなほど交じり合ったのに。 …なぜこうも二人してぎこちないのか。 「カカシさん、手、離してください」 かすれた声に煽られる。 偽ることの下手なこの人には、さりげなく交わすなんてことはできないだろう。 任務ならまだしも、相手は恋人の俺なのだから。 「…そんな顔されたら、無理でしょ?」 同じ男なのに無意識に俺を煽るこの人は、まじめな顔して天性の誘い上手なんじゃないかと思う。 自覚もせずに他人を惹きつけ、気づけば離れることなんて考えられなくなるほどおぼれさせてしまうのだ。 性別も年齢も関係なく、誰もがこの人を無視できない。不思議な人。 「無理もなにも!食事中です!そういうのは後で!」 今はだめでも後ならいいと、言外に自分で言ってしまったことに気づいているだろうか。 「ふふ…ま、いいけどね?」 力を緩めると、怯えた子猫のようにさっと手を引いて、代わりに差し出されたのは刺身の乗った皿だった。 「ほ、ほら!ご飯食べてください!」 ごまかし方も下手で、そこが却ってかわいい。 …無意識にとはいえ、お許しを貰ったのだ。あとできっちりおいしく頂くことにしよう。 そう独り決めして、ちらちらと様子を伺ってくるイルカ先生を楽しんだ。 触れるだけでこんな風になるのは…この人にいつだってときめいているからかも知れない。 夢中になってこの人の全てが欲しくてむさぼっているときは、それどころじゃないから。 その想像は案外気に入った。 …後は、確かめてみればいいだけだ。 今夜、俺に何を仕掛けられるかも知らずに食事に集中し始めた人に、心の中だけで謝っておいた。 愛欲にまみれた検証までもうすぐ。 きっといつものように欲におぼれた蕩けた声で、鳴いてすがってくれるだろう。 それまでは、穏やかで暖かな食事を楽しむことにしたのだった。 ********************************************************************************* 適当。 ねむいですおまつりー!たのしみー! ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ! |